2015年08月22日01時49分掲載  無料記事
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反戦・平和

「戦争絶滅受合法案」について

 安倍晋三内閣によって「安全保障法制」の強行という許しがたい暴挙が吹き荒れている。国の根幹に関わる事態であり、100時間を超えたから十分審議は尽くしたなどという詭弁は断じて容認できない。本当に平和と民主主義を標榜するなら、何年でも時間をかけて議論したらいい。 
 
 長谷川如是閑(にょぜかん)〔1875(明治8)年〜1969(昭和44)年〕という新聞記者からフリージャーナリスト・批評家になった人がいた。本名は「山本萬次郎」、東京の深川生まれの人である。父親は大工棟梁・材木商で、浅草の花屋敷(遊園地)を最初に作っている。大正デモクラシーを牽引し、反権力と皮肉を貫いた論客で、後に丸山眞男や辰野隆といった戦後民主主義に欠かせない学者らにも影響を与えている。 
 東京の下町で育った年寄りの私にすると、隣町のお姉さんが樋口一葉で、少し年の離れた伯父さんが長谷川如是閑、その下に変人奇人の永井荷風、末子が超優秀だったものの自殺した芥川龍之介といった存在で、如是閑は「お馴染みのお隣さん」の一人である。 
 その如是閑が、朝鮮併合を経て南満州への侵略に向けた軍靴が響き始めたころの1929(昭和4)年、雑誌「我等」に発表したのが「戦争絶滅受合法案」であった。第一次世界大戦後、パリ不戦条約が締結されたがその実効性は疑わしく、ファシズムが起こり始めた当時の欧州にあって、デンマークの陸軍大将フリッツ・ホルムが起草した法案を紹介するという形(創作?)で記載されている(英語の原文もある)。その『法案』の中身は、以下のとおりである。 
 
「戦争行為の開始後または戦線布告の効力の生じた後、10時間以内に次の処置をとるべきこと、すなわち次の各号に該当する者を最下級の兵卒として招集し、できるだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下で実戦に従わしむべし。 
(1)国家の元首とその一族 
(2)総理大臣、国務大臣、次官 
(3)国会議員(ただし戦争に反対の投票をした者を除く) 
(4)キリスト教またはその他の寺院の僧正、管長、高僧にして公然戦争に反対せざりし者 
 前記の兵卒資格者は年齢、健康状態を斟酌するべからず。なお、その資格者の妻、娘、姉妹は看護婦または使役婦としてもっとも砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし」 
 
 この法案については、吉武信彦氏(高崎経済大教授)が「地域政策研究」第3巻1号(2000年7月)で、哲学者の高橋哲哉氏が「しんぶん赤旗」(2004年1月17日付け)で紹介し、最近では、評論家の佐高信氏が「憲法を愛する女性ネット通信」(2015年5月22日)で言及している。 
 佐高氏は、 
「これが施行されたら、安倍晋三や麻生太郎、あるいは与党公明党のバックの創価学会のドン、池田大作らは最下級の兵士として最前線に送られ、敵の砲火の下にさらされることになる。安倍は病気を理由に一度首相をやめたが、問答無用である。安倍の妻のアッキ―も砲火に接近したる野戦病院に勤務させられる。高市早苗や山谷えり子、稲田朋美ら勇ましい発言をしている安倍の親衛隊も一緒に送ったらいい。よもや彼女らがそれを断りはすまい。安倍応援団で黄色い声をあげる櫻井よし子も同じく、カトリックを自称する曾野綾子も野戦病院に派遣したらいい」 
「なお、現在の日本国憲法では元首はいないが、自民党改憲草案には天皇を元首とすると書いてあるので、改憲がなされれば天皇御一家も同じになる」 
と述べている。 
 
 そのとおり。是非この『戦争絶滅受合法案』を、現在の「安全保障法制」の一つに加えて審議してもらいたい。そうでなければ、私たち自身や私たちの子どもや孫は、安心して眠ることも出来ない世界を生きる危険性が高まってしまう。自衛隊員のリスクどころの話ではない。 
 私は年老いているものの、これらのお歴々の方々がもし最前線への派遣に応じると言うのであれば、執事としてお供しても構わない。安倍晋三は自らの「安全保障法制」に自信があるのであれば、ぜひ、この「戦争絶滅受合法案」を併せて審議すべきである。そうすれば国民の貴殿への信頼は回復するだろう。(伊藤一二三) 


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