2015年08月25日23時39分掲載  無料記事
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政治

参議院「安保関連法案」特別委員会を傍聴して 村上良太

  国会で傍聴するのは今日が初めてだ。今まで何度となく、国会周辺は仕事で往来したものの、日本の政治を専門にしていなかったので国会審議の報道はテレビではよく見るけど、宝塚歌劇団のような遠い別世界だった。 
 
  今日の参院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」は午前9時スタート。参院の入口から傍聴券に名前を記入して入ると、空港のような手荷物検査場があり、そこをくぐると傍聴者用の赤いリボンを受け取る。傍聴席に持ち込めるものはメモや筆記用具くらいで、鞄や電子機器などはロッカーに入れておく。ノートも「開けてください」と言われ、中を検査されるが、これはプリントが挟まれていないかを見るためだそうだ。傍聴者が政治的意見が書かれた紙を傍聴席から掲げたりしないようにするためだと聞いた。 
 
  エレベーターで3階に上ると、警備員たちが会議場まで実に丁寧に案内してくれる。午前9時から始まる日はテレビ中継が入る日で、中継がない場合は始まりが午前10時からです、と傍聴の常連の人が教えてくれた。 
 
  普段よく見ている国会審議の映像はしばしば会議室の上の階から撮影されているので俯瞰の映像が中心だが、傍聴席は議員たちと同じ会議室の階にある。席に着くと、今話題の安倍晋三首相が山本一太議員(自民党)の質問を受けているところだった。山本議員の今朝のテーマは自衛隊を海外に派遣する場合の国会の事前承認をどこまで実現できるか。山本議員は用意したフリップを使って、フランス、ドイツ、英国の順番で首相・大統領が軍隊を海外に派兵した場合の国会のチェック制度を説明。フランスは事後承認もあるし、ドイツの場合も基本は事前承認が必要だが、小規模派兵の場合に例外があるし、また英国の場合は特に規定はない、という。山本議員は与党・自民党の立場として、基本は国会承認が必要だとしても、緊急事態の場合は事後承認もやむなし、という方向に中谷防衛大臣らと話を持っていった。フランス、ドイツ、英国と比べると、日本の基準が一番国会の承認の縛りが厳しい、ということをアピールした。 
 
  山本一太議員が今日の質疑のトップバッターで、そのあと、自民党の森まさこ議員と大沼みずほ議員が子供を持つ母親の立場から安保関連法案、戦後70年談話、安倍首相の国連演説を絶賛し、安倍首相に花を持たせた。森まさこ議員は「戦後70年談話」のメディアでの反響を紹介し、支持する人が支持しない人を上回ったと讃えた。そういえば今朝の新聞でも安倍首相の支持率が1ポイントだが上がっていたことと符合する印象である。 
 
  このあと、民主党の福山哲郎議員を筆頭に自民党に次ぐ勢力の会派の質問が続く。公明党のように自民党に基本的に賛成の立場の質疑もあったが、多くは安保関連法案に批判的な立場から。 
  福山議員は自衛隊が存立危機事態で後方支援を行う場合、隊員の安全を確保する場合の法律上の条文がどこにあるのかを追及した。自衛隊が後方支援を行う場合の安全措置は「米軍等行動関連措置法」が根拠法になっているとされるが、そこには具体的な条文規定はなかった。そのことをめぐって福山議員の質問に対して中谷防衛大臣と安倍首相の回答が平行線をたどり、何度か野党議員たちとヒゲがトレードマークの佐藤正久議員(自民)が鴻池祥肇委員長の席に詰め寄り、相談するシーンがあった。しかし、結局、福山議員の質疑はいったん中断となり、休憩となった。その後、午後1時から再開。自衛隊員の安全が確保されると与党が答弁しながら、条文にそのことが盛り込まれていない、だから、条文にきちんと盛り込むべきである、という。 
 
  共産党の井上哲士議員は8月に沖縄で起きた米軍ヘリの事故を取り上げた。米陸軍所属のヘリコプターがうるま市伊計島の沖合で、米海軍の輸送艦への着艦に失敗して6人が重軽傷を負った事件である。その中には陸上自衛隊員2名も含まれていた。沖縄タイムズによると、この2名は国際平和活動やテロ対策などの専門部隊「中央即応集団」に所属する自衛隊員だったとされる。そこで井上議員は自衛官たちは米軍といかなる任務を行うことになるのか、そのことを追及した。 
 
  社民党の福島みずほ議員は最初にイラク戦争における戦争の実態を示した映像の画面の写真を見せて、「総理はこの実態を知っているか」と問うた。ジャーナリストらを空中から攻撃する米軍の映像だった。 
  その後、福島議員は後方支援の際に自衛隊が外国軍の航空機などに給油する場合に、その機がクラスター爆弾や核ミサイルなど大量破壊兵器や使用禁止兵器を運搬していないことをいかにチェックできるのかを質問した。これに対して、防衛大臣らは<我が国の姿勢を関係国に知らせておく>といった内容の答弁をしたが、外国軍が嘘をついた場合には実質的にチェックすることが不可能であることを示した。また、後方支援の中身が今回の法案で大きなリスクを孕むことになることに関して、従来の内閣法制局の見解(駆けつけ警護は違憲である)を変えたことを批判した。 
 
  山本太郎議員は安倍首相にジュネーブ条約や国際人道法に反する行動を行った軍隊と自衛隊が行動をともにすることがあるだろうか、と最初に質問。そういうことはないという安倍首相の答えを得た上で、イラク戦争の話に持ち込んだ。イラクで米軍が犯した人道上の罪に当たるイラク市民の殺戮の事例をジャーナリストの協力のもとに複数紹介した。子供も含めた一般市民が多数殺されたファルージャなどの例をひき、こうしたことをどう考えるか、と山本議員は安倍首相に尋ねた。安倍首相はそれらのケースの信ぴょう性などがわからないので発言は控える、と回答した。山本議員は米軍と英軍はイラクが大量破壊兵器を持っているという理由で侵略を行ったが、実際にはイラクに大量破壊兵器はなく、白リン弾や劣化ウラン弾など危険な化学物質や核を使用した兵器を使用したのは米英軍であると告発した。また、米軍が主導するイラク戦争に賛同した小泉政権の時代に、安倍氏は官房長官だった。だからこそ、自衛隊を海外派遣する前に、イラクにおける戦争犯罪を調査するための、第三者による検証委員会を作る必要があると訴えた。 
 
  実際にはほかにも多くの議員が質問をしているのだが、25日の審議の終盤で続けて登場したのが福島みずほ議員と山本太郎議員。少数会派だからだろうが、持ち時間がそれぞれ17分ずつ。委員会の席で二人は隣り合い、連携している印象だったが、実際にイラク戦争の事例を二人とも取り上げるなど、少ない持ち時間を活かそうという気持ちが感じられた。 
 
  今日の審議は予定時間が414分(6時間54分)である。このうち、夜の報道番組で流れる国会審議の映像はわずか数分に過ぎない。委員会室では様々な事柄が論議されているのだが、一般の人々がニュースで目にしているのはほんのわずか、氷山の小さな一片に過ぎないのである。そして、今日の段階で審議時間はおよそ57時間となったが、刻々と審議の総時間が蓄積され、採決が近づいてくるのである。 
 
  今回、傍聴席には安保関連法案で初めて国会を傍聴したという人が何人もいた。傍聴席の30〜40%は大学生くらいの若者が占めていた。残りの多くは年配世代、年金世代の印象である。そして、その中に安保関連法案に限らず、近年ずっと国会傍聴を続けているという80代の男性、西川重則氏もいた。西川氏がいつから毎日、国会を傍聴するようになったか聞いてみると、1999年のことで、国旗国歌法案が制定された年だという。日本国憲法が危ない、と感じて国会に足を運ぶようになったそうだ。今では国会の様々な議員が傍聴券の手配をしてくれるのだという。 
 
  「今日の国会の印象はいかがでしたか?」午後7時、今日の審議が終わって西川氏に尋ねたら、「ずっとこの調子だよ」と西川氏はつっぱねるような調子で言った。「質問する議員たちは市民の声を背負って勉強して質疑に望むが、答弁する大臣たちが不勉強でね。全然答弁ができていない。今に始まったことじゃないよ。大臣たちがきちんと憲法を勉強していない。」西川氏にそう言われてみると、まったくその通りで、大臣たちの答えが質問からずれまくり、そのことで審議が何度もとまり、さらに資料の棒読みも多かった。 
 
■参議院の審議の映像 
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php 
 
■参議院の傍聴をする方法 本会議は開会30分前に傍聴券を配布・先着順 委員会は議員を通して委員長の許可が必要 
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■参院論戦8 安保関連法案 参院ではどんな風に審議日程が組まれていくのか? 「来週あたりそろそろ・・・」 
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