2015年09月11日23時23分掲載  無料記事
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労働問題

「生涯派遣」固定化の改正派遣法成立 正社員化を封じるため政府は施行日まで操作

 9月11日の衆議院本会議で労働者派遣法改正案が成立した。9月8日の参議院厚生労働委員会で与党側は施行日を9月1日とした法案のまま強行採決しようとしたため紛糾、審議が止まったが、同日午後、施行日を9月30日とした改正案を審議を経ぬままに野党の反対の中で採決、衆議院へ送られ今日の成立となった。「生涯派遣」を制度化し、正社員化への道を封じたこの法律の成立は、安倍政権が進める「改革」の本質を現わしている。(上林裕子) 
 
◆「生涯派遣」に道を開いた 
 
 労働者派遣法は、派遣を「一時的・臨時的な雇用形態」と位置付け、派遣労働の常用代替を防止するための法律だが、今回の改正はこうした法の目的をかなぐり捨て、企業が「いつでも、どこでも、いくらでも」派遣労働者を使い続けることができる法律に変えてしまった。政府は「派遣元に派遣社員のスキルアップや派遣先への正社員化の働きかけなどを義務付け、正規採用の道が開かれる」と述べているが、これらは努力義務でしかなく、正社員への道を権利として法に書き込んでいるわけではない。 
 
 改正案は派遣の期間を最長3年とし、これまで『業務単位』であった期間制限を『事業所単位』『個人・組織単位』としたことで労働者を入れ替えれば同じ業務で派遣を使い続けることができる。また、これまで期間制限がなかった専門26業種も一般の派遣と同様に3年の期間制限が課されることになり、「労働者にとっては何の益もない改正」となっている。 
 
◆異例の短期間で施行 
 
 最も問題なのは、9月11日成立した本改正案を9月30日施行するとしたことだ。普通、法案成立から施工までは少なくとも数カ月から1〜2年の期間を取るはずなのに、成立から施行日まで20日もないという異例な施行日の設定だ。法律成立後41の政省令を策定し、パブコメの実施や法案周知の時間を考えると、こんな短期間で施行できるのかと懸念せざるを得ない。 
 
 厚労省がなぜこのような異例ともいえる施行日を設定したのか。それは現行法のもとで10月1日から施行される「労働契約申し込みみなし制度」を派遣労働者に利用させないためだ。 
 
 「労働契約申し込みみなし制度」とは、12年10月に施行された現行法に規定された「派遣先企業が違法な派遣であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合、その違法状態が発生した時点において、派遣先企業が派遣労働者に対して当該派遣労働者の派遣会社における労働条件と同一の労働条件の申し込みをしたものと見なす」という制度で、3年間の周知期間の後、今年10月1日から施行されることになっていた。 
 
◆正社員化の道を封じる 
 
 「みなし制度」は派遣労働者にとっては正社員への道が開ける可能性がある数少ないチャンスで、施行を心待ちにしていた。これに対し厚労省は衆議院での審議が始まる前に議員に対し「労働者派遣法が改正されずに2015年10月1日を迎えた場合の問題(いわゆる『10.1問題』)」と書かれた資料を配布していた。 
 
 資料には「経済界等の懸念」として「26業務に該当するかよって派遣期間の取り扱いが大きく変わる現行制度のまま労働契約申し込みみなし制度が施行されることを避けたい」とし、現行法のまま10月1日を迎えたら「労働契約申し込みみなし制度のリスクを避けるために、派遣先が10月1日前に26業務の受け入れをやめるため、(1)大量の派遣労働者が失業、(2)派遣事業者に大打撃、(3)派遣先は人材確保できず経営に支障」と説明している。 
 
厚労省がなぜ、経済界の意向をくんでこのような資料を議員に配布し、法案成立を急ぐのか理解に苦しむ。10月1日が目前に迫り、法案成立が混とんとしていた9月の初旬にも「大量の派遣労働者が失業」などの事態は起きていない。 
 
 厚労省は改正法における「みなし制度」についての対応について以下のように説明している。「施行日前に締結された労働者派遣契約に基づいて行われる派遣については付則9条で『なお従前の例による』と定められているが、みなし制度は未だ施行されていない制度なので対象とならない」「施行されていない規定に対する『期待』を保護する必要はない」との見解を示している。 
 つまり、施行されていない「みなし制度」は実行されないと宣言しているのであり、「労働契約申し込みみなし制度」を誰一人利用させないために強行採決し、無理やり9月30日に施行しようとしているのだ。異様な法改正である。 


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