2015年09月16日02時22分掲載  無料記事
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コラム

超ウラン元素アメリシウムの話 谷克彦(数学月間の会・世話人)

原子番号92はU(ウラン)です.Uより大きい原子番号の元素(超ウラン元素)は天然には存在せず,原子炉や原爆で人工的に生成された放射性の核種です.これらの元素が我々の環境で検出されたなら,原爆実験や原発事故や使用済核燃料の再処理などで排出されたものでしょう.これらの元素は大変不安定で,α線やβ線やγ線を放出したり中性子を放出/捕獲して他の元素に姿を変えます. 
 
超ウラン元素は,93番Np(ネプツニウム),94番Pu(プルトニウム),95番Cm(キュリウム),96番Am(アメリシウム),の順で発見されました.その後も多くの核種が発見されています.前回は第113番のウンウントリウム(仮称)の話をしましたが,今回はAmアメリシウムの話をします.キュリウムやアメリシウムはマンハッタン計画(1944年)で発見されましたが,発表されたのは1945年11月のことです.アメリシウムの中にも多くの核種がありますが,質量数241のAm(アメリシウム)は,α線(5.4MeV),γ線(60keV)を放出して,質量数237のNp(ネプツニウム)に変わります(半減期433年). 
 
 241Am → 237Np +α +γ 
 
さてアメリシウムはどのようにして生まれるのでしょうか. 
稼働中の原子炉で,核燃料中の238Uは中性子を取り込み239Puに変わります. 
そして生まれた239Puは,また中性子を取り込み241Puに変わる.これはβ線を出して241Amに変わります. 
 
239Pu(2.41万年)+2n → 241Pu(14.4年)→ 241Am +β 
 
電気出力100万kWの軽水炉を2年間運転後の使用済核燃料には,1トン当たり,アメリシウムが5g(放射能強度0.65兆Bq)含まれます.使用済核燃料は,原子炉から取り出した後に,時間の経過とともにアメリシウム量が増し,10年後に40g(放射能強度5.2兆Bq),100年後には93g(放射能強度12兆Bq)という具合に増えるのです. 
 
  使用済核燃料中には,プルトニウムやアメリシウムを始め数百種数の放射性核種(核分裂生成物)が生まれています.使用済核燃料は,未使用の核燃料とは比べ物にならない強力な放射性物質となります.だから原発を再稼働させてはいけないのです. 
 
新燃料と使用済燃料とでは中身に大きな違いがあります.プルトニウムを筆頭に,核分裂生成物(超ウラン核種)が生じ,その数は数百種におよぶといわれています.アメリシウムもその一つです. 
 
原子力発電によって生み出される放射性物質は,「死の灰」あるいは高レベル放射性廃棄物と呼ばれます. 
 
新燃料(1トン) ーーーーー→ 使用済燃料(1トン) 
U-235(45kg)         U-235(10kg) 
U-238(955kg)       U-236(6kg) 
               核分裂生成物(46kg) 
               プルトニウム(10kg) 
               その他超ウラン核種(1kg) 
               U-234(0.2kg) 
               U-238(926kg) 
http://www5a.biglobe.ne.jp/~genkoku/kohza-002.htm 
 
■アメリシウムの性質 
Amは空気中で表面が酸化されAm2O3となり,また塩酸に容易に溶けます. 
人体影響は,α線による内部被曝が大きい.γ線による被曝は,1mの距離に百万Bqの線源があると,0.009mSv/dayの外部被曝を受けるそうです.アメリシウムの場合のγ線のエネルギーは60keVでγ線としては低エネルギーです.ただし,人体影響では細胞に吸収されるエネルギーが細胞にダメージを与えるので,低エネルギーの方が吸収されやすいということもあり,安全というわけではありません. 
 
■核燃料中のアメリシウム-241 
プルトニウムを核燃料として用いる立場からは,アメリシウム-241は邪魔者です.プルトニウム-241は遅い中性子の照射で核分裂するが,アメリシウム-241は中性子を捕獲しやすいので,中性子を無駄食いする核燃料中の阻害物です. 
再処理によって分離したプルトニウムは,アメリシウム-241の量が増加しないうちに,核燃料として用いる必要があります. 
http://www.cnic.jp/knowledge/2611 
 
谷克彦 (数学月間の会 世話人) 
 
 
■十年目の数学月間を記念して 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507191723460 
 
■トランス脂肪酸について 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507301512374 
 
■海洋への放射能流出 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507171617005 
 
■新国立競技場のキールアーチ 谷克彦(数学月間の会・世話人) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507131351431 


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