2015年10月17日20時43分掲載  無料記事
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難民

シリア難民は「難民条約上の難民」である 〜SYI主催「シリア難民に聞く会」

 チュニジアのジャスミン革命(2010年〜2011年)から始まったアラブ世界における大規模な反政府運動「アラブの春」がシリアにも波及したことで、シリアは2011年から内戦状態に入った。その後、2014年に国家の樹立を宣言したイスラム国(IS)が内戦に乗じてシリア領内で急速に勢力を拡大。これに対し、米・仏・露各国が対ISを名目にシリア領内に空爆を開始するなど、シリア情勢は混迷の度合いを深めている。 
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2015年8月末時点でシリアから国外に逃れた人が約409万人、シリア国内で避難生活を送る人が約760万人に達し、シリアの全人口約2,240万人のうち、その半数以上の人々が避難民となっている。 
 シリア難民の欧州流入は日本でも連日のように報道されているが、それに対比する形で日本の難民認定制度にも注目が集まりつつある。 
 そのような中、SYI(収容者友人有志一同)という市民団体が10月4日、東京・中野区内の公共施設で「シリア難民に話を聞く会」というイベントを催した。 
 
 登壇したのは、3年前の2012年にシリア国内でクルド人が多く住む地域から逃れてきたという現在22歳の男性(以下、Mさん)。 
 シリアにいた頃は大学生として農業を勉強していたというMさんは、農業を営む父親の跡を継ぐことが夢だったそうだ。しかし、内戦の影響で1年生のときに大学が機能を停止し、毎日絶えず銃声や爆音が鳴り響き、やがて知人が戦闘に巻き込まれて亡くなったことから、差し迫る恐怖から逃れるため、そして安全な国に避難して改めて大学で農業を勉強したいとの思いから、既に英国で難民認定を受けている兄弟たちの後を追ってシリアを脱出したという。 
 しかし、Mさんは「シリア→ドバイ→日本→英国」のルートで英国に入国しようとしたところ、英国行きを依頼したブローカーに騙されてフランスに到着してしまい、フランス入管当局に対して必死に英国に行きたい旨伝えたものの、フランス入管当局はMさんを最終出発地である日本に送還したとのことである。 
 そしてMさんは、日本に到着した後、難民申請した。現在は、日本の入管当局から特定活動の在留資格(在留期間=1年)を得て入国し、日本政府に難民認定を求めて今年3月に提訴した裁判における原告の1人として裁判闘争(シリア難民訴訟)に臨んでいる。難民認定されると、難民条約に定める各種権利が認められるからだ(原則、締約国の国民あるいは一般外国人と同等に待遇され、国民年金、児童扶養手当、福祉手当などの受給資格が得られる等)。 
 
 来日した当初は日本語が分からず、意思疎通に困難を来したものの、元々勉強が大好きなMさんは、アラビア語で日本語を学ぶ教材が少ない中、「アラビア語−英語」辞書を使って英語に翻訳し、さらに「英語−日本語」辞書を使って日本語に翻訳するなどの方法で日本語を独学。僅か3年でなんとか日常生活で意思疎通できるレベルまで日本語を身に付けたそうだ。 
 集会に参加した市民からは「シリアでは今、食べ物が手に入るのか?」「銀行は機能しているのか?」「シリアには徴兵制があるのか?」「シリア国内に留まっている両親との連絡出来ているか?」といった質問が出たが、Mさんは「食べ物はありますが、物価が上昇して手に入りにくくなっています」「銀行は首都ダマスカスでは機能していますが、その他の地域では機能していません」「18歳以上の男性は約1年半兵役に就かなければならないのですが、大学生の場合は卒業するまで延期されます」「毎日電力事情が変わるので、日本から国際電話をかけても、つながったり、つながらなかったりという状況です」など、日本では想像もつかないことがシリアで起こっている現状を日本の市民に知ってもらおうと、たどたどしいながらも一生懸命に日本語で答えていた。 
 
 続いて登壇したシリア難民訴訟弁護団の1人は、裁判で訴えたいこととして、 
.轡螢△旅馥眈況から逃げ出している人たちが多数存在している事実、 
難民認定に関する日本の行政、裁判所のあり方に対する問題提起、 
という2点を挙げ、日本政府が、 
「難民の要件である『迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖』を満たすためには、当該政府が特に当該人を迫害の対象としていることが明らかになるような個別的で具体的な事情があることを要する」などと主張して、Mさんたちを難民に認定しないことについては、 
「欧米と比べて日本の難民認定率が低い原因は、難民の要件が厳しすぎることだ」 
「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の見解に従えば、シリア難民の場合、1人1人の個別・具体的な事情を特定しなくても危険であるということだ」と指摘し、日本政府の対応を批判した。 
 さらに、日本の難民認定のあり方について、 
「シリア難民について、日本は国際社会と協調した受入れを行ってほしい」 
「難民申請した人に対し、日本独自の非常に厳しい認定基準でなく、他国と同程度の基準でもって判断してほしい。国際基準に沿った難民認定を履行すべきだ」と訴えた。 
 
 Mさんは最後に、「シリアは政情が不安定で先が見通せないので、日本で生きていくことを選択しました。難民認定を受けたら、日本の大学に通って農業の勉強を再開したい」と語っていた。 
 
 次回のシリア難民訴訟第3回期日は、10月22日(木)午前11時から東京地裁703号法廷で予定されている。(坂本正義) 


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