2015年11月14日23時26分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】「もんじゅ」の廃炉を決断しない規制委 もはや「死に体」の高速炉計画を廃止せよ 山崎久隆

 9月から10月にかけて「もんじゅ」についての報道が続いた。報じられた事件は、昨年12月の1万箇所以上にも登る検査放棄(検査しなかったことを指す。ミスなどではない)に続き、最近では「重要度分類」さえも正常に出来ないことが発覚したことは前回もお伝えした。2度目の「報告徴収命令」を規制庁が行うことになった。10月21日が期限だという。この命令は強制力があり、従わない場合は罰則もある。一年も経たずに二回というのも前例がないことも含めて、これは驚くべき事態なのだが、まともに報道されているとは言い難い。 
 
 福井県敦賀市の高速炉「もんじゅ」は、毎年約200億円(2015年度予算は前年よりやや少なく197億円)もの税金を食い潰す施設だ。 
 数少ない報道の一つ、10月1日付け福井新聞は見出しで「もんじゅ機器分類誤りで報告命令 原子力規制委「異様、奇っ怪」(2015年10月1日午前7時00分)と報じた。 
 「異様、奇っ怪」という言葉は更田規制委員から出た言葉だという。「保安検査で見つかった違反に報告徴収をかけるということはあっても、中身が分からず報告徴収せざるを得ないというのは検査の歴史でも極めて異例。極めて異様で奇っ怪」と記事になっている。 
 
 「これだけ不備が続けば、社会の他分野なら契約解除が妥当。規制委としてもどこかでけじめをつけなければならない」(伴信彦委員)との意見も紹介されているが、むしろ現状は、なぜ開発中止、廃炉の決定を規制委員会がしないのかを追求すべき段階に達している。 
 
 日経も9月30日付の記事で「もんじゅ極めて異常 機器、安全上の分類で誤り多数」と報じている。 
 
 規制委員会は定例会の後に原子力研究開発機構の児玉敏雄理事長と「意見交換」を行った。時事通信の記事はこうある。「田中俊一委員長は『半世紀以上の歴史の中で負の遺産があり、これを整理するには労力がかかる。限られた予算をどう配分していくかの議論が必要だ』と指摘。児玉理事長は「選別が必要。コスト意識を持って無駄を省く」と組織再編を進めていく考えを示した。」 
 
 のんびりして緊張感のないやりとりに、機構と規制委の癒着を感じる。田中俊一委員長は原研東海の所長だった。旧古巣の不祥事ということになる。一方、植松敏夫理事長は三菱重工の副社長だったので、こちらは旧古巣の作った設備の不祥事ということになる。 
 
 結局、責任者が集まっても責任ある答えは出さず問題を又しても先送りしただけだ。本当に「負の遺産」などと思うのならば、もはや巨額の税金を投入して何もしない、といった選択はあり得ない。もちろん再起動もあり得ないのだから、可能な限り早く安全に解体することを考えなければならない。幸い核加熱はわずかな時間しか行われていないので放射化も40年も使った原子炉より遙かに少ないのだ。 
 
◇文書放置で処分? 
 こんどは子ども以下の仕事ぶり。帳票を処理せず放置したことで「もんじゅ」所長ら15人が戒告、3人が厳重注意処分になったという。 
 
 「これは機器の不具合などを管理する帳票約2300枚が未処理のまま放置されていた」というもの。 
 帳票の放置は6月の保安検査で発覚しており、8月に保安規定違反と認定されたという。原子力機構は少なくとも5年前から帳票が放置されていることを確認しているというが、今回の処分は原子力機構が昨年12月に命令解除に必要な報告書を規制委に再提出していることを踏まえて、再提出以降に放置に関わった職員を対象としたとされている。 
 
 これでは子ども以下の仕事だ。書類放置はしばしばニュースになる。特に警察や自治体でそれが行われれば深刻な被害が出るので大きな問題になる。 
 
 原子力の世界はもっと深刻になる場面だってあるだろうし、それがまかり通ってきた組織が、原発よりも桁違いに危険な高速炉や再処理施設を運営している。 
 
 このような場合は、対策として行われるのは全部の職員の総入れ 
替えだが、「もんじゅ」でそんなことが出来るのか。 
 
◇原子力研究開発機構10周年を祝う? 
 大規模不祥事のさなかの10月1日、日本原子力研究開発機構の敦賀事業本部で設立10周年記念式典が開かれたというから、その無神経振りには呆れる。内容はおそらく「厳しい話」も多かったのかも知れないが、そんなことをしている場合では無いことは誰が見ても明らかだ。徹夜でも自体の対処を急がなければならないといった姿勢は組織からは伝わらない。事件を起こしたのは「もんじゅ」なので全体に問題が及ぶ話では無いと思っているのだろう。 
 
◇「もんじゅ」直下の破砕帯 
 10月7日には、今度はもっと大きなニュースが流れた。もんじゅの真下の破砕帯は動く可能性は低いとの「有識者会議」の結論が出されたという。これでハシャイでいるのは産経新聞。「もんじゅ「活断層なし」で見解一致 規制委調査団」と見出しを打った。 
 しかし有識者会議はそんなことは行っていない。朝日新聞や日経新聞、フジテレビでも「活断層の可能性は低い」だし、NHKは「将来動く可能性低い」だ。 
 
 ある破砕帯を活断層では無いことを立証せよというのは極めて困難なことであり、現実問題「活断層では無い」とされた断層が過去に動いたことは何度もある。それを考えれば断定的に言えることではない。 
 
 活断層であると断定されれば「廃炉」が決まるはずだったので、産経新聞(もう一つ同じ見出しを打ったのは業界紙である電気新聞)としては安堵したのだろう。これは報道機関の姿勢ではない。 
 
 さて、破砕帯が活断層の可能性が低いとして、「もんじゅ」にとって懸念材料が消えたのだろうか。実際にはそんな単純な話ではない。 
 
 白木−丹生(しらき - にゅう)断層が側を走る敦賀半島の先にある「もんじゅ」は間違いなく危険な原発であることに変わりはない。すぐ隣にある敦賀原発は直下に活断層があるため廃炉確定となっているのだから、破砕帯があるだけで再稼働など想像することも出来ないほど危険なことだ。 
 
 「もんじゅ」は構造上も原理的にも大きな地震の存在だけで極めて重大な危険を有する。 
 例えば地震により強度の少ない配管が破損する可能性は以前から指摘されていた。軽水炉は扱う圧力が高いため、圧力を維持するために配管などの構造は比較的強固に作られている。しかし「もんじゅ」はいわば「ぺらぺら」な構造だ。 
 
 冷却剤漏れが生じた場合、原発ならば高温高圧の蒸気流出または大量の熱水の噴出であるが、「もんじゅ」の場合は高温の金属ナトリウムの流出であり、二次系ならば漏えいした瞬間、火災を起こす。それを防ぐには最低限、二次系のナトリウムが漏れる可能性のある場所を全部窒素で封入する必要があるのだが、それさえもしない。文書の回付や点検補修だけではなく最低限の安全対策さえ放棄する施設である。 
 
 また、大きな揺れに襲われ炉心内部で燃料が揺さぶられれば構造上出力が急上昇し、暴走に至る恐れもある。炉心に減速材が無いため、燃料が揺れにより位置が変わっただけで出力が変動し、ナトリウムが沸騰して間隙が出来ればそれでも出力は上昇し、制御棒の効きは軽水炉より遙かに悪いため緊急停止も間に合わない恐れがある。 
 
 地震にとても弱い原子炉の近傍に、近所で大きな地震があれば大きく揺れる原因となる破砕帯があるだけで、十分廃止する理由になるのだ。 
 
(月刊たんぽぽニュース10月号から) 


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