2015年12月15日13時49分掲載  無料記事
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欧州

フランス地方選「最大の敗者はサルコジ共和党党首だった」

  フランス地方選、1回目で最大得票率を得た極右政党の国民戦線が蓋を開けてみると、2回目では大敗し、1つの地域圏でも勝つことができませんでした。一番勝ったのはサルコジ党首が率いる右派の共和党(旧・国民運動連合)のグループでした。ところが、フランスメディアでは今回の選挙での一番の敗者はマリーヌ・ルペン国民戦線党首ではなく、当のサルコジ共和党党首であるとする報道が出ています。いったいなぜ、最大多数を勝ち得た共和党を率いたサルコジ氏に対して、そのような批判的な記事が出ているのでしょうか? 
 
  その源は12月6日の第一回投票の結果が出た直後にサルコジ党首が行った方針説明にあると報じられています。問題になっている発言とは次のようなものです。 
 
サルコジ党首「共和党候補の取り下げはしない。国民戦線に対する共同戦線も張らない」 
 
  極右政党を勝たせないための共同戦線には参加しないとただちに表明したのです。 
 
  一方、社会党は共和党と社会党で票が割れることに危機を感じて、13地域圏のうち、2地域圏で自ら立候補を取り下げ、共和党連合に票を加算する戦略を取りました。立候補を取り下げたのは国民戦線がもっとも得票率が高く、勝てる見込みだった北部ベルギーとの国境に位置するNord-Pas-de-Calais地域圏と、南部で地中海に面するイタリアとの国境に位置する地域圏Provence-Alpes-Cote d'Azurでした。 
 
  北部のNord-Pas-de-Calaisは国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が自ら立候補した地域圏で、南部のProvence-Alpes-Cote d'Azurは党首の姪に当たるマリオン=マレシャル・ルペン氏が立候補した地域圏です。1回目の投票の前の選挙予測では国民戦線は最低でもこれらの2つの地域圏は勝つだろうと見られていました。ところが、1回目の選挙で国民戦線が大勝利したことが却って多くの市民の危機感を呼び覚まし、中道と左派が共和党グループに票を流し込むことになりました。結局、勝目のあったこの手堅い2地域でも敗北を喫する結果となったのです。 
 
  今回の地方選で13地域圏のうち、7地域圏を確保できた共和党ですが、その裏には社会党をはじめとする緑の党や左翼党などの左派の票がありました。もし、それがなければ確実に国民戦線がこれら地域圏を少なくとも獲得しており、共和党が獲得した地域圏は5地域圏以下になっていたことが推測されます。 
 
  実はサルコジ党首が「共和党候補の取り下げはしない。国民戦線に対する共同戦線も張らない」と声明を出した後、共和党内からも批判が出てきました。中でも最大の波紋を起こしたのは大統領候補の一人と見られているナタリー・コシュースコ=モリゼ議員です。共和党のNO2に位置する幹部のナタリー・コシュースコ=モリゼ議員はサルコジ党首の考えに疑問を呈したために、サルコジ氏から睨まれ、来年は共和党の要職につけなくなるのではないか、という見方が伝えられています。それに対して、「反対意見を認めないのはスターリニズムである」とコシュースコ=モリゼ氏は言っています。 
 
  前回、2012年の大統領選挙で社会党のフランソワ・オランド候補に敗れ、一度は政界を引退すると表明したサルコジ氏でしたが、懸案だった2007年の大統領選の時の選挙資金疑惑や、リビアのカダフィ大統領から不正資金を得たのではないかといった疑惑をうまく乗り切り、2014年に政界にカンバック宣言、そして共和党党首に再任されました。 
 
  2017年の大統領選への出馬の意欲も満々ですが、しかし、フランスの報道をいくつか見ると、今回の選挙での言動によってこれまで溜まっていた共和党内の不満が少しずつ表層に噴出し始めているかの様相です。このことは2017年の大統領候補に備えた共和党内での候補者擁立にも影を落とす可能性があります。しかし、叩かれても叩かれてもしぶとく這い上がってくるサルコジ氏がそう簡単に挫折するとは思えません。 
 
 
■第二回目の選挙の構造(リベラシオン紙) 
http://www.liberation.fr/france/2015/12/11/regionales-le-chemin-de-trois-du-second-tour_1420215?utm_campaign=Echobox&utm_medium=Social&utm_source=Facebook 
  社会党を中心とした連合が国民戦線対策のため、共和党に票を積み上げているのがわかる。それらの地域は3つどもえの戦いではなく、2つの勢力の選挙選になっている。 
  実はもう1つの地域圏、ドイツと国境を接しているALSACE, CHAMPAGNE-ARDENNE, LORRAINE で、第一回目で国民戦線が首位に立ったため、社会党が立候補者に撤退を勧めたが、撤退を拒むという一幕があった模様。しかし、緑の党など左派の有権者が共和党に投票したため共和党が勝ったと報じられている。 
 
■フランス地方選(地域圏議員選挙について) 
https://en.wikipedia.org/wiki/French_regional_elections,_2015 
  ウィキペディアによると、各党は候補者リストを作成して選挙に臨み、得票に応じて議員数が増していく。1回目の投票で第一位になった政党が50%以上を得ていなければ2回目の投票が行われる。 
 1回目の選挙で10%以上の得票を得た政党は2回目に進出できる。また、1回目に5%以上あった政党の候補者は選挙協力によって他党と合流可能のようである。 
  いずれにしても最終的に第一党になると、ボーナスとして、一定数の議席(全議席の25%分)がまずどかっと割り振られ、それにさらに得票に比例する形で第一党も含めて各政党に議席が配分されることになるようだ。ただし、5%未満の政党(あるいはグループ)は議席がゼロとなる。 
  また、第一党にその地域圏議会の議長の席が割り振られる。 
 
■サルコジ共和党党首が社会党との連携を拒否したものの、緑の党、左翼党、社会党などが自発的に共和党に投票して、国民戦線の最大の拠点、南部PACA(Provence-Alpes-Cote d'Azur)地域圏で逆転勝利に導きました。共和党地域リーダーのクリスチャン・エストロジ候補は左派に感謝を表明。 
http://tempsreel.nouvelobs.com/en-direct/a-chaud/14303-regionales-christian-estrosi-adresse-nicolas-sarkozy.html 


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