2016年01月21日15時10分掲載  無料記事
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若林正丈著「台湾の政治 〜中華民国台湾化の戦後史〜」(東京大学出版会)

  1月16日に台湾で行われた選挙で、野党・民進党から出馬した蔡英文候補が大統領にあたる総統に選出された。同時に行われた立法院議員選挙でも民進党が過半数の68議席(全113議席中)を獲得して、行政・議会ともに舵を取ることになった。 
 
  台湾の政治の変化を分析するためには台湾の歴史の流れを無視することは不可能である。若林正丈著「台湾の政治」はそれを考えるときに参照できる貴重な資料だと思う。この本には「中華民国台湾化の戦後史」と副題が添えられている。このことを400ページもの記述で考察したのが本書である。 
 
  「台湾はこれまで3つの性格の異なる帝国(古典的世界帝国としての清朝、近代植民帝国としての日本、第二次大戦後の「インフォーマルな帝国」としてのアメリカ)のシステムの周縁にあるいは編入され、あるいは庇護されて独特の発展を示して来た。そして、今やその複雑な歴史を持つ周縁を、台頭する中国が再び編入せんと意欲を燃やしている」(序章 現代台湾政治への視座より) 
 
  「台湾の政治」は2つのパートから構成される。 
 
  第一部 1945〜1987 
  第二部 1988〜2008 
      (※本書の初版が出たのが2008年である) 
 
  2つのパートを区分するのは80年代後半で、その頃、国民党の総統だった蒋経国(蒋介石の息子)から、台湾出身であるいわゆる本省人だった李登輝に実権が移行していく。その象徴が1987年に蒋経国が戒厳令を解除したことである。さらに蒋経国は国民党の一党独裁に終止符を打ち、野党を解禁する。中華民国台湾化とは、まさにこの第一部の終盤から、第二部にかけて顕著になってきた一連の傾向を指している。この2つのパートの境目あたりに台湾の民主化が進められ、野党・民進党(1986年結成)も活動を始める。 
 
  本書ではカバーされていないが、2015年に新党「時代力量」が結成され、国民党と民進党に対する第三の勢力として台頭し始めている。「時代力量」の誕生もまた、中華民国台湾化の流れに位置づけられるだろう。第一部で示されているように日本が敗戦で撤退した後に大陸から移ってきた蒋介石ら、中華民国のエリートたちは「中華民国台湾省」に臨時の政府を構え、「大陸反攻」を旗印に、台湾の政治の中枢を支配し、長年、地元の権力構造の上に君臨して政治を行ってきた。国民党が戦後に自らの党の財産にした資産は莫大にあると言われている。こうした政治的、経済的な特権構造が80年代から揺らぎ始め、今に至ってようやく国民党も民進党と同じ基盤の普通の政党に近づきつつあるようだ。 
 
  本書は2008年に出版されているのだが、その年は馬英九総統(国民党)が民進党の総統候補を破って台頭した時であり、その勢いに乗って馬政権は中国との経済的一体化を進めてきた。その馬政権の中国への傾斜や経済政策の失敗に対する危機感が今回の民進党の躍進につながったのだが、それらについてはぜひ、今後加筆して版を重ねていただきたいものである。 


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