2016年02月06日20時46分掲載  無料記事
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東日本大震災

労働相談から見えてきた福島県における原発・除染労働の実態(後編)

 東京電力福島第一原発や福島県内の除染作業に従事する労働者の支援を目的に、1年前の2015年2月6日、福島県いわき市に「フクシマ原発労働者相談センター」(以下、相談センター)が設立された。 
 今回、福島第一原発での廃炉作業や福島県内での除染作業について、相談センターにこれまで寄せられた相談事例を紹介する。 
 
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<相談事例 筺
 Aさん、Bさん、Cさんの3人は、四次下請け会社の労働者として福島第一原発での作業に就くとともに、同社社長に自分の預金通帳と印鑑を預けていた。 
 なぜ、3人が預金通帳や印鑑を預けていたかというと、会社側が「上位の会社から福利厚生費の支払いはない。当社(=四次下請け会社)は作業員の移動時に社用車(7、8人乗り)を供用していることなどから、交通費を含めて1人につき1日2,500円を差し引かせてもらう」という理由を伝え、預かった通帳・印鑑を使って2,500円を徴収していたからだ。 
 相談センターは、この点を三次下請け会社に確認したところ、三次下請け会社は福利厚生費として四次下請け会社に対し、1人当たり1日4,500円を支払っていたことが判明した。 
 そこで相談センターは、こうした問題点を四次下請け会社に指摘して交渉を行った。その際、四次下請け会社の弁護士は「労働者から同意を得た上で差し引いているものなので違法ではない」などといい加減な説明しかしないので、相談センターは「労働者に勘違いさせるような内容に基づいているのだから錯誤無効に当たる」と主張し、差し引いた金額の返還を要求した。 
 しかし、四次下請け会社が一向に返還に応じる気配がないため、上位会社である三次下請け会社と交渉して適切な対応を求めている。 
 
<相談事例◆筺
 Dさんは、福島第一原発での車両運行業務に就いていた。その後、狭心症を発症したために手術を受けたものの、体調不良が続いたため休職していたところ、会社側から雇用契約を打ち切られた。 
 相談センターは当初、Dさんから解雇問題で労働相談を受けたが、Dさんの勤務状況を確認したところ、狭心症を発症するまで毎月100時間を超える時間外労働を行っていて、深夜の時間外労働も毎月20時間を超えていたことが判明した。このような長時間労働に加え、現場では二重の放射能防護服と全面マスクを着用して高濃度の放射線地域での作業を長時間に亘って行うという身体的、精神的疲労を強いられており、過労性疾患であることは誰の目にも明らかであった。また、Dさんを雇った下請け会社は、深夜の時間外割増賃金を未払いであることも判明した。 
 相談センターでは、まず、深夜労働の割増賃金未払いという問題を指摘し、下請け会社から未払い賃金を支払わせた。そして、Dさん本人には狭心症が過労によるものであること、過労が原因の疾患であれば労災認定を受けることが可能であり、労災認定によって解雇も無効になることを説明して、労災の申請手続きを行わせた。 
 この労働相談における問題点は、過労によって病気を発症しているにも関わらず、下請け会社がそれを“首切り”の口実にしていることである。また、勤務状況と病気の発症に相当因果関係があり、労災に関わる事案であるのに、労働者自身がそれを認識していないこともある。 
 
<相談事例> 
 Eさんは、福島第一原発の作業に従事する前に福島第二原発、玄海原発で働いていた。福島第二原発での被曝はさほどでもなかったが、玄海原発で4mSv、福島第一原発で18mSv被曝していたこともあり、2014年1月に白血病を発症した。長く原発労働に従事していた労働者が白血病を発症したということで、元請け会社側が労災事案と判断し、同年3月に労災申請の手続きを行った。そこから労災認定までに長期間を要し、結果的に労災認定されたのは、申請から約1年半後の2015年10月であった。 
 労災認定までにこれほど時間が掛かった理由の1つには、原発労働に起因する労災審査が東京の審査会で行われていること、この審査会が3カ月に一度しか開かれず、結論が出なければ次回に持ち越していることが挙げられる。 
 また、もう一つの理由として、Eさんが九州地方の出身であり、同地方特有の風土病によって白血病を発症したのではないかという確認に時間を要したのではないかということも考えられる。 
 相談センターは「労働者の生命や生活が危険な状況に晒されているにも関わらず、労災認定までにこれほど長期間を掛けて良いのか」と主張している。 
 もし、この風土病が原因で白血病を発症したとして、原発労働と白血病との因果関係を認めないとするならば、始めから九州地方出身者を原発労働者として雇用すべきではないと言いたい。また、原発労働に従事していて発病した場合には、無条件で労災を認定するという姿勢も必要ではないだろうか。 
 
<相談事例ぁ筺
 Fさんは、福島県内で除染作業に従事していたが、雇用契約期間が残っているにも関わらず、会社から急な解雇と、会社が借り上げているアパートからの退去を迫られた。 
 相談センターは、会社との交渉でFさんがアパートから退去することを2カ月間猶予させるとともに、未払いの給与2カ月分を支払わせた。また、解雇によってFさんは無収入となり、その日の食生活にも事欠く状況であったため、当面の生活物資を支援するとともに生活保護申請の手続きを行わせた。その後、相談センターがFさんの再就職を支援した結果、Fさんは新たな除染作業に就労するに至った。 
 除染作業といった有期雇用では、こういった突然の解雇といったケースが少なからず見受けられるため、相談センターは「除染作業に当たる労働者の労働環境改善は重要な課題である」と指摘している。 
 
<相談事例ァ筺
 福島第一原発で働くGさん、Hさんの2人は、下請け会社との雇用契約の際、基本給以外の手当に関して説明を受けず、給与明細にも手当に関する記載がなかった。Gさん、Hさんが確認したところ、上位会社から交通費が出ていること、さらに元請け会社から“特殊勤務手当”が出ていることが判明した。 
 2人の相談は、これら手当の未払い分を下請け会社に請求したいというものであった。そこで相談センターは、Gさん、Hさんに対して特殊勤務手当の概念を説明し、未払い手当の請求に関するアドバイスを行った。 
 ちなみに、特殊勤務手当とは、国(環境省)直轄で実施する避難指示区域内での除染作業に従事する労働者に支払われる手当のことである。したがって、東京電力が福島第一原発での作業の発注において支払う手当の中に、特殊勤務手当は存在しない。そして、東京電力は「特殊勤務手当に類似するものとして“労務費割増賃金”と呼ぶものがあるが、手当を含めた賃金に関しては、直接的な雇用関係にないため、関与することはできない」と主張している。 
 実は、東京電力が労務費割増賃金と呼んでいるものを、下請け会社が“特殊勤務手当”とか“危険手当”として労働者に賃金を支払っているのが実情である。相談センターが福島第一原発で働く労働者の給与明細書を確認したところ同様の記載があり、東京電力と下請け会社で異なった名称を使用しているため、労働者が混乱する原因となっている。 
 この危険手当の支払いであるが、下位の下請け会社になるほど野放し状態で、その会社のさじ加減で支払われるという危険手当があって無いような状況がある。通常、危険手当は作業場所の線量によって金額が変わるものであるが、線量が高い場所で作業しているのに危険手当がかなり低額だったり、逆に線量が比較的低い場所で作業していても危険手当が高額という場合があって、支払い基準が曖昧になっている問題が存在している。 
 
<相談事例Α筺
 福島第一原発の作業を請け負った下請け会社は、Iさんらを交通費未支給、時間外労働賃金未払い、休業補償無しで雇用しており、しかも下請け会社は、Iさんらに給与を前借りさせて借金漬けにしていた。 
 相談センターは、これら労働条件の改善や未払い賃金の支払いを求めて下請け会社と交渉に当たったが、同社社長は交渉に応じぬまま夜逃げ同然で逃亡してしまった。そのため相談センターは、Iさんらとともに労働基準監督署に対して申告を行い、その結果、上位の会社がIさんらに対する未払い賃金を支払うこととなった。 
 
<相談事例А筺
 東京電力は2015年1月、福島第一・第二原発において相次いで発生した作業員の死亡事故に伴い、安全点検を行うためとして作業を停止するとともに、その期間中、労働者を自宅待機させた。Jさんらも他の労働者同様に自宅待機となったが、下請け会社からは自宅待機期間中の賃金が支払われなかった。 
 そのため、相談センターは「使用者側の都合による休業の場合、使用者は労働者に平均賃金の100分の60以上を支払う」との労働基準法の規定に基づき、東京電力に対してJさんらに対する賃金支払いを要求した。その結果、東京電力はこの要求に応じ、Jさんらに対して賃金の全額を支払った。 
 
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 福島県内では、福島第一原発や除染の作業に従事する労働者が3万人を超えると言われている。労働者は被曝を強いられるなど過酷な労働環境の下で日々作業を行っている訳だが、被曝に伴う健康被害のほか、賃金未払いや給与からの不当な天引きといった実態が、相談センターに寄せられる相談で明らかになっている。 
 相談センター代表の狩野光昭さんは、原発・除染作業における労働相談の多くが賃金問題であると指摘した上で、「賃金未払いは、一旦解決してもまた発生するという“もぐら叩き状態”です。この問題を解決するためには『公契約(法)』に準ずる法的規制が必要で、こうした対策を講じることによって原発・除染作業に携わる末端労働者の賃金確保を実現していかなければなりません」と訴えている。 
 福島県復興のためには、原発・除染労働者の労働環境を改善していくことを軽視してはならないだろう。(館山守) 


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