2016年02月10日09時50分掲載  無料記事
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東日本大震災

福島原発事故から5年、健康障害の現状 糖尿病などが増加傾向に 落合栄一郎

  後1ヶ月で、福島原発事故から5年になります。2月6日の毎日新聞および福島民友新聞に、福島県相馬市、南相馬市において、原発事故後に市民の間に糖尿病が6割増加、その他の病気についても増加傾向があるという記事が出た。これは、当市の病院の医師達による報告である。チェルノブイリ事故後に多く発生した病気の一つが第1種糖尿病であった。 
 
 実は、この報告をした医師の多くは今まで、原発の健康への悪影響をむしろ否定し続けた人達であった。その人達が、現実を無視できなくなって、公にせざるを得なくなったようである。しかし、原発事故からの放射能汚染よりも、ストレスなどをその原因として強調しているが。現在、福島(ばかりではないが)の復興が重要課題で優先されるべきとして、その面に力が入れられているが、原発事故の過酷さを忘れさせようとする当局の意志も見て取れる。実は、まだまだ終わったわけではない。それどころか、放射能汚染の健康への影響は、見え始めたに過ぎないのが現実なのである。今年は、チェルノブイリ原発事故後30年、そこではいまだに多くの人が放射能汚染による健康障害に苦しんでいる(1)。 
 
 放射能の健康への影響で、最も議論が闘わされてきたのは、19歳以下のこども達の甲状腺ガンのみである。これは、2015年中頃までに、およそ37万人中、153人の子供に甲状腺ガンが見つかった事実である。この数値は、年間にして、100万人当たりに換算すると、およそ80人ほどになる。通常、放射線などの影響がない状態では、子供は甲状腺ガンにかかりにくく、100万人当たり、1人か2人である。ということは、通常の60倍ほどの激増である。福島県およびその健康管理をしている医師達は、この現象を、放射線とは無関係で、単に、検査が精査に行われたための過剰発見(スクリーニング効果)などの理屈で説明しようとしている。しかし、この問題ですら、日本の主要メデイアは、充分に報道していない。他にも、健康障害はいろいろ出ているのに、目を向けようともしていない。 
 
 筆者は、Japan Focusというオンライン誌に「The Human Consequences of the Fukushima Nuclear Power Plant Accidents」(2)なる報告を発表した。これは、日本での各病院の記録を精査した方の報告などを基に、現在日本国民の健康状態になにが起っているかを概観したものである。詳細は原報を見て頂くとして、そのいくつかの事例を紹介する。 
 
 まず福島県立医大病院の記録から、2010年にたいして2012年の患者数は、白内障で2.3倍、狭心症が1.6倍、脳出血で3倍、各種のガンも増加していたが、例えば,前立腺ガンが3倍に増えていた。 
 
 放射能は、福島県だけに降り注いだわけではなく、かなり広範に拡散した。その影響も出ているはずだろう。心臓の病気が、チェルノブイリでも注目されたが、日本全国からのデータで、心筋梗塞の患者数の増加を見て見よう。これは2010年にたいする2013年の倍率である。福島で1.3倍、栃木で1.4倍、群馬1.5倍、茨城1.7倍、東京1.8倍、日本全国1.5倍。急性白血病では、福島2.1倍、栃木0.9倍、群馬3.1倍、茨城1.3倍、宮木1.3倍、埼玉2.9倍、東京1.3倍、日本全国1.4倍などであった。 
 
 これらは、先にも述べたように、全国の各病院からの報告データを集積したものであり、データの取り方などに不十分な点があったとしても(あったと断定しているわけではない)、同一のデータの取り方によるデータなので、増加したということは事実であろう。これらのデータは、2011年以後、日本全体で、健康を害する人が増えたことを意味している。日本全体の人口も2011年の東日本大災害のための死者の増加が、人口減少を早めた。しかし、それ以後も減少速度は減っていない。生誕数が減り、死亡数が増えている。 
 
 個々の病気や死亡が放射能の影響かどうかは、判断できない。 放射能は広範囲に、バラバラに分散しているので、どこでどんな健康障害を引き起こすかは不明である。病気にかかったり、死亡したりすることは日常茶飯事であり、しかも病気・死亡の原因は無数にある。すぐさま放射能との関連を想像することはないであろう。したがって、日常の経験だけからは、福島原発の影響が出ているかどうかは、判断できない。 
 
 また、上で述べたように、様々な病気が2011年を境に増えたらしいことはわかったが、それが福島事故と関連しているかどうか、厳密にそうだと云えるだけのデータはまだない。では、こうした現象は、福島事故からの放射性物質の拡散によるとする以外に、何か、別な理由は考えられるだろうか。 
 
(1)東京新聞2016年1月12日 
(2)http://apjjf.org/-Eiichiro-Ochiai/4382;なお、この論文の日本語訳もありますので、興味のある方は編集者に連絡してください。送ることはできます。 


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