2016年03月07日12時43分掲載  無料記事
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ダグラス・ラミス著「最後のタヌキ 英語で考え、日本語で考える」

  アメリカ人の政治学者、ダグラス・ラミス氏が書き下ろした英語と日本語の対訳になっているテキスト集。翻訳は中村直子氏によるもの。 
 
  1988年に刊行されたこの本の売りは300語の平易な英単語だけで1つのテキストが書かれている、ということでした。それまで英文を書くことは限りなく不可能に近い、と思っていた日本の人々にそうではないことを実証的に見せようとする試みです。書かれている内容は当時の時事的な政治的・社会的・文化的な事象で、1つのテキストは比較的短く、多数のトピックについて述べられています。しかもそれらのテキストは平和の構築について考えるものでもありました。 
 
  テキストの個々の論旨に対しては賛否両論あると思いますが、いずれにしてもこれらのテキストを型にしていろんなことを短く英作文で論じる、という風に活用することができますし、それこそダグラス・ラミス氏の狙ったものでもあると思います。かつては、そして今もそうですが、日常の挨拶や1日の動作を表す英会話の教科書類と、政治や社会を扱う本との間の乖離がはなはだしいものでした。本書は1日の挙動を表すのと同じくらいの平易な作文で政治や社会も論じてみるという、つまりはこれまでの英語教育に存在した乖離を埋める試みだと思います。ツイッターとかフェイスブックなどのソーシャルメディアに活用できるものでしょう。 
 
   ダグラス・ラミス氏によるこのシリーズの最初の試みは「タコ社会の中から――英語で考え、日本語で考える」という本で1985年に出版されています。80年代の本だから今更読む価値がないという考え方もあるでしょう。しかし、日本の曲がり角であった1980年代がどのような時代だったかを振り返ることができるというという意味で30年を経て新たな価値も付加されていると考えることもできます。今世界で起きている現象の多くは80年代を起点にしています。 
 
  これらの本は平易な英単語を使いながらも、いかに内容の程度を下げないかを苦心したとされます。出版された1980年代の半ばは円高が進行し、日本の若者が海外旅行に盛んに出かけるようになった時代。しかし、今、インターネットで世界各地の人々と家に居ながらにしてコミュニケーションが行われるようになり、この本の必要性はむしろ高まっていると感じられます。つまり、この本は極めて実践的な価値を持っています。 
 
  グローバリズムが進行している今日、一国だけで解決できない問題が増えており、海外の多様な視点や情報を持った人々と切磋琢磨していけば、より普遍性と広がりを持った言論活動になっていく可能性があります。しかし情報は受け取っているだけでは単調になり、先細りもするもので、質問も含めてこちらから投げかけ発信することでより多様な情報を逆に得ることができるものです。 
 
  また英語を使うことによって、欧米の人々だけでなく、アジアの人々とも交流できる可能性が広がります。アメリカ人になるための英作文ではなく、ダグラス・ラミス氏が提案したのは英語を1つのコミュニケーションのツールとして考える英作文だと思うのです。 
 
 
■ニューヨークタイムズの論説欄  〜魑魅魍魎の魅力〜 村上良太 
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■ニュースの三角測量 
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