2016年03月17日14時38分掲載  無料記事
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コラム

ルドルフ・ラメル著『政府による死』を読む 根本行雄

 安倍自民党政権は夏の参議院選挙において、3分の2の議席を獲得して、文字通りの「改憲」を目論んでいる。彼らは近代国家についての観念を正しいものだと思い込んでおり、軍隊は国家にとって必要不可欠なものだと思い込んでいる。しかし、戦争とは近代国家の産物である。軍隊は国民を守ることはない。それはこれまでの事実が証明しているし、今後ともそれは変わることがない。それが近代国家の本質だからである。読者に、ルドルフ・ラメル著『政府による死』を紹介したい。 
 
 
 
 2013年12月に、「国家機密法」を成立させた自民党・安倍政権は「解釈改憲」路線を暴走し続けている。昨年5月15日、自衛隊法など既存の10法を一括して改正する「平和安全法制整備法案」と新設の「国際平和支援法案」を国会に提出した。この法案は「戦争法案」と呼ばれている。そして、昨年末に、この法案は成立した。戦後70年、「平和」とは何だったのか。自民党という政党を議会の与党とし、長期の政権を許し、「解釈改憲」という手法を容認してきたツケを、今、私たちは支払っている。そして、言うまでもなく、怖ろしい時代がすでにやってきている。目を開けて、耳を澄まして、頭を使って、この時代を生き抜いていこう。 
 
 安倍晋三を代表とする保守反動的な人々は、近代国家についての観念を正しいものだと思い込んでおり、軍隊は国家にとって必要不可欠なものだと思い込んでいる。しかし、戦争とは近代国家の産物である。軍隊は国民を守ることはない。それはこれまでの事実が証明しているし、今後ともそれは変わることがない。それが近代国家の本質だからである。 
 まず紹介したいのはルドルフ・ラメル(ハワイ大学名誉教授)著『政府による死』である。この本はまだ翻訳がでていないので、前田朗(東京造形大教授)の紹介文を利用したい。 
 
 ラメルはこの著書の冒頭で、次のように述べている。 
「権力は殺す。絶対権力は絶対に殺す。この新しい権力原則こそ、今世紀における戦争原因に関する私の従来の研究およびジェノサイドと政府大量殺害に関する本書に端を発するメッセージである。政府が権力を持てば持つほど、政府はエリートの気まぐれや欲求に従って、ますます恣意的に行動するようになり、他国への戦争や、外国人住民や自国民に対する殺害を始めるだろう。政府権力が抑制されればされるほど、権力は拡散し、監視され、均衡が取れるようになり、他国を攻撃したり、デモサイドを行うことが少なくなる」。 
 
 次に、前田の紹介文を引用する。 
 
「ラメルは『20世紀デモサイド』と題する表を掲げています。1987年までの統計をもとに、1994年にラメルがつくった表です。そこでは大量殺害を5段階に分類しています。 
第1は、最大規模の「デカ・メガ殺害」。ソ連邦(1917〜87年)におけるデモサイドは6191万人、現在の中国(1949〜87年)は3524万人、ナチス時代のドイツ(1933〜45年)は2095万人、内戦と戦争の時代の中国(1928〜49年)は1008万人とされています。さらに、国内における殺害とジェノサイドを区別しています。ソ連邦の場合、国内における殺害が5477万、ジェノサイドが1000万です。殺害率は0.18%となっています。 
 第2は、「レッサー・メガ殺害」。日本(1936〜45年)、596万。クメール・ルージュ(ポルポト派)のカンボジア(1975〜79年)、204万。オスマン・トルコ時代のアルメニア・ジェノサイドなどでトルコ(1909〜18年)、188万。ポーランド(1945〜48年)、159万など。日本の場合、国内における殺害とジェノサイドに区分した数値は不明とされています。カンボジアの場合、国内における殺害は200万、ジェノサイドは54万、殺害率は8.16%です。ポーランドの場合、国内における殺害のすべてがジェノサイドで159万、殺害率は1.99%です。 
 第3は、「メガ殺害の疑い」です。朝鮮(1948〜87年)、166万。メキシコ(1900〜20年)、142万。帝政ロシア(1900〜17年)、107万。メキシコの場合、国内における殺害が142万、ジェノサイドは10万、殺害率0.45%です。 
 第4は、「センチ・キロ殺害」。戦争期の中国(1917〜49年)、91万。アタテュルク時代のトルコ(1919〜23年)、88万。イギリス(1900〜87年)、82万。独裁政権期のポルトガル(1926〜87年)、74万。インドネシア(1965〜87年)、73万。トルコの場合、国内における殺害が70万、ジェノサイドが88万、殺害率が2.64%です。 
 第5は、「小規模殺害(レッサー殺害)」。表には具体例がのっていませんが、本文中には、アフガニスタン、アンゴラ、アルバニア、ルーマニア、エチオピア、ハンガリー、ブルンジ、クロアチア、チェコスロヴァキア、インドネシア、イラク、ロシア、ウガンダがあげられています。そして、「ドイツと日本の文民に対する無差別爆撃ゆえに、アメリカもこのリストに追加されねばならない」としています。 
 5段階のメガ殺害の集計として、ラメルは20世紀(1900〜87年)におけるデモサイド総数は、1億5149万人としています。2000年までの集計をすれば、数字はどのくらい跳ね上がるのでしょうか。」 
「20世紀における世界のデモサイド(民衆殺害)とジェノサイド(集団殺害)を研究したルドルフ・ラメル(ハワイ大学名誉教授)は、主要なデモサイド事例21を列挙しています。さまざまな資料や統計に依拠しているため、叙述が一義的でない面もありますし、歴史的に検証されたといえるか否かは争いもありえますが、概ねの理解を得るには十分なものです。 
第1にソ連邦の強制収容所(1917〜87年)が犠牲者3946万人。続いてユダヤ人ホロコースト(1942〜45年、529万人)。ウクライナの意図的飢餓(1932〜33年、500万人)。中国土地改革(1949〜53年、450万人)。ソ連の集団化(1928〜35年、313万人)。カンボジア(1975〜79年、200万人)。中国文化大革命(1964〜75年、161万人)。ポーランドによるドイツ人排斥(1945〜48年、158万人)。ベンガル地方のヒンドゥー・ジェノサイド(1971年、150万人)。アルメニア・ジェノサイド(1915〜18年、140万人)。スターリンの大粛清(1936〜38年、100万人)。セルビア・ジェノサイド(1941〜45年、66万人)。インドネシア大虐殺(1965〜66年、51万人)。ウガンダ大虐殺(1971〜79年、30万人)。ヴェトナムのボートピープル(1975〜87年、25万人)。スペイン内戦(1936〜39年、20万人)。南京大虐殺(1937〜38年、20万人)。コロンビア虐殺(1948〜58年、18万人)。ブルンジ虐殺(1971〜72年、15万人)。東ティモール虐殺(1975〜87年、15万人)。ドイツによるナミビア虐殺(1900〜18年、13万人)。 
ここには1990年代の旧ユーゴスラヴィア、ルワンダ、その後のスーダンのダルフール・ジェノサイドなどは含まれていません。ヒロシマ・ナガサキも、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、湾岸戦争などにおける米軍による民衆殺戮も含まれていません。 
ラメルはさまざまな観点での分析が可能であることを示しています。例えば地域別に見ると、旧ソ連邦地域、アジア、欧州、アフリカなどの人口構成とデモサイドの率を比較することができます。あるいは民主主義国家・権威主義国家・全体主義国家の比較も可能です。もっとも、こうした分析は時にイデオロギー論争の種にもなります。重要なことは、いかなる国家体制のもとでデモサイドが多いのか、少ないのかではありません。民主主義国家でさえもデモサイドを経験していることに注目するべきでしょう。 
ラメルは「デモサイド対戦場の死」という比較もしています。非民主的国家と民主的国家の対比も含まれていて、非民主的デモサイドが82.2%、非民主的な戦場の死が14.6%、民主的な戦場の死が2.2%、民主的なデモサイドが1%といいます。 
かくしてラメルは、デモサイドや惨事についての知見に合致するような政府概念の再構築が必要であるといいます。従来の政治学における政府や政策の概念は、政府や政策が住民のための安全や福祉を提供する積極的な意味合いだけを基にして定義されています。ラメルが提起しているのは、逆の事態です。デモサイドの現実に見合った政府・政策の理解が求められます。『実際、ジェノサイド、殺害、死亡、処刑、虐殺に言及した政治学や政策論の書物を見出すことができないのだ。ソ連邦や中国に関する書物でさえそうである。強制収容所、労働収容所について、たかだか一小節触れられることはあるが、これらが指標とされることはない』とラメルは言います。」 
 
 前田は次のように主張している。「軍隊では平和はつくれない。軍隊は国民を守らない。この言葉の意味は、軍隊は国民を守ろうとしても守れないということではありません。軍隊はそもそも国民を守らない。むしろ、まず国民を殺すものだということです。」 
 
 ネモトはルドルフ・ラメルと前田朗の主張に賛成である。長年、「戦争をなくすことはできるか」ということについて研究してきて、戦争をなくすには国家権力を制限し、権力の運用を監視し、民主主義を市民の文化として育ていくしかないという結論に到達しているからである。 


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