2016年04月01日15時09分掲載  無料記事
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核・原子力

【タンポポ舎発】核不拡散並びに核事故リスクの低減のためには処理事業の中止が唯一の方法である 山崎久隆

 1993年1月5日、正月休みあけの茨城県東海村に1隻の船が着いた。「あかつき丸」船体は4800トンの核燃料輸送船だが、その船を取り囲む海上保安庁巡視船など70隻余り、空には報道を含む20機のヘリが飛び交う、騒然とした中をゆっくりと東海第二原発の専用港に着岸した。北側の那珂川河口を中心に市民団体の抗議行動が続く中、プルトニウムを入れたコンテナが降ろされ、そのまま旧動燃の施設「プルトニウム燃料第3開発室」に送られた。 
 
 あかつき丸で運ばれた約1トンのプルトニウムは、その後「もんじゅ」の燃料に加工され、燃料体となってから東京を突っ切って福井まで陸上輸送され、1995年12月のナトリウム漏れ火災事故になった。 
 今回、毎日新聞などが大きく報道したプルトニウム返還輸送は、あかつき丸以来のプルトニウム輸送だ。ただし今回は東海村は、到着地点ではなく出発地点である。 
 
 輸送されるのは高純度のプルトニウム239を含む研究用燃料と高濃縮ウランとされる。プルトニウムは「高速炉臨界実験装置(FCA)」で使われた。金属燃料板として加工をされていると思われる。331kgの量があるとされるが、8kgを1発分の核兵器に換算すれば40発分にも相当する。 
 高速増殖炉開発の中でプルトニウムの挙動を研究するために米国から提供を受けたもので、使用していた施設が目的変更されたことで、本来の利用目的外のプルトニウムを保有しないとの方針と、米国による「核兵器転用可能物質の管理」方針により米国に返還されることになったが、持ち込まれる側にとっては大変な問題である。 
 
 輸送船はパシフィック・ヘロンとパシフィック・イグレット。2隻使うのは核防護のためだ。 
 
 2年に1度開かれる「核セキュリティサミット」(提唱者はオバマ大統領)が今年も3月31日から2日間にわたりワシントンで開かれる。これに「成果」として報告されるのが今回のプルトニウム輸送だ。核物質がテロリストなどに渡ることを防止すること、核不拡散問題を話し合う予定だとされる。 
 だが、むしろ地球汚染という観点からは、無意味に再処理を続けようとする国に対して、それを止めさせる取り組みも必要だ。 
 
◆サバンナリバー核施設 
 
  核兵器開発が盛んに行われていた時代に、サバンナリバー核施設では大量のプルトニウムが生産されていた。また、水爆の材料であるトリチウムも生産されていた。これらは米ソ冷戦の終結と核軍縮の時代に順次終わり、現在ではプルトニウムを処分する施設になっている。 
 
 しかしサバンナリバーのあるサウスカロライナ州のニッキー・ヘイリー知事はエネルギー省長官宛てに書簡を出し、「プルトニウムの最終処分場になることに懸念を表明し、輸送停止か行き先を変更するよう要請した」という。(2016年3月23日毎日新聞より) 
 
 サウスカロライナ州とエネルギー省は、これ以外にもプルトニウム処理計画を巡り法廷闘争を続けていて、州側が「州外への移動を約束したのに果たしていない」とエネルギー省を訴えている。 
 解体核兵器からの約50トンのプルトニウムはサバンナリバー核施設に貯蔵されている。このうち約34トンをMOX燃料体に加工し軽水炉で燃やす計画だったが、コスト問題で暗礁に乗り上げ、サバンナリバーに建設予定だった燃料製造工場も建設が中断されている。 
 
 州はこれが「プルトニウムの最終処分につながる」と、今後は一切受け入れないことを示している。 
 日本からのプルトニウム輸送に対する反対も、整合性のある主張だ。 
 
 到着地だけでなく輸送ルート全域にリスクを与え、また核ジャックされるリスクも考えれば、こういった輸送そのものに反対すべきだ。 
 日本も大量の使用済み核燃料を英仏に輸送し、今度は返還廃棄物を日本に運んでいる。MOX燃料輸送も含め同様のリスクを有するので止めるべきだ。 
 
◆六ヶ所再処理工場 
 
  日本が持つプルトニウムは約49トンに達すると見られる。これは米国の解体核兵器から取り出した「処理すべきプルトニウム」の量に匹敵する。世界のプルトニウム問題の大半は核兵器国と日本のプルトニウム問題であるともいえる。 
 
 にもかかわらず、稼働したら最大で年間8トンのプルトニウムを取り出すことになる六ヶ所再処理工場を働かすなど、あり得ない。 
 
 再処理事業については、「使用済燃料再処理機構」なるものをわざわざ作り、拠出金制度により電力会社が撤退しても資金調達する仕組みを導入、未来永劫再処理とばかりにプルトニウム社会を作るためせっせと金と人を投入しようとしている。米国がプルトニウムと放射性廃棄物対策に悩み続けているのに、日本は愚かなことに、それを増やそうとしている。 
 
 この仕組みでは、資金不足に陥れば税金を投入することも可能だ。限りある人的、物的資源を、危険しか生み出さないプルトニウム生産のために、まだつぎ込むのかと呆れるばかりである。 
 
 六ヶ所再処理工場の目的も変転している。最初は「使えないウラン238をプルトニウムに変換して資源の有効活用」などと言っていた。しかしウラン価格は低位水準を維持し、枯渇どころか鉱山での生産は減らされている。わざわざプルトニウムを作り出す理由はない。 
 
 状況不利となると今度は「高レベル放射性廃棄物の体積を減らす核のゴミ対策」となった。しかし高レベルガラス固化体だけが放射性廃棄物ではない。 
 特に核燃料を解体し溶解する際に生ずる酸に熔けない「ハル」と呼ばれる被覆管などの金属放射性廃棄物は処分方針さえ決まっていない。ガラス固化体は地下埋設とされているが、何処で可能かも議論が続いており、言うなれば放射性廃棄物の行く先もあてがないまま再処理をしている。使用済燃料のままで保管する欧米諸国などと比べても、放射性廃棄物対策で巨額の費用が掛かってしまう。 
 
 核不拡散並びに核事故リスクの低減のためには、再処理事業の中止が唯一の方法であることは疑いのない事実である。そのことを全世界から日本に向けて訴えかける取り組みが必要だ。再処理を止める責任は私たちにある。 


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