2016年04月30日15時01分掲載  無料記事
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早乙女愛・足立力也共著『平和をつくる教育』を読む 根本行雄

 戦後70年の大半は、「自由民主党」が政府与党として政権を担当してきている。この政党は、党の綱領に「改憲」を掲げており、「解釈改憲」という政治手法を用いて、実質的に、「戦争放棄」という3大原則の1つを、一貫して、なし崩しにしてきた。その結果、とうとう、「安保法制」を施行し、実質的に、「自衛隊」が常備軍となり、日本は軍隊を持つ国、戦争のできる国となった。憲法に「軍隊を持たない」と明記している国は、わずかに2ヶ国。その1つが日本であり、もう1つがコスタリカである。今こそ、私たちにとって、コスタリカについて学ぶことは少なくないはずだ。 
 
 
 
 
 
 今回は、早乙女愛・足立力也著『平和をつくる教育(「軍隊をすてた国」コスタリカの子どもたち)』(岩波ブックレット575) 岩波書店 を紹介したい。 
 
 
 
 コスタリカについて、知っている人は少ないでしょう。前田朗が『軍隊のない国家(27の国々と人びと)』で紹介していた国です。ネモトも、くわしくはありません。足立力也さんが「コスタリカ」の概要(2ページ)を書いています。少々、長い文章ですが、以下に、引用をしておきます。 
 
「コスタリカは、面積約5万1千平方キロメートル(九州と四国をあわせた程度)の、中米の小国である。約380万人が暮らし、国民1人あたりのGDP(国内総生産)は3000ドルあまり。コーヒー、バナナなどの一次産品に経済は依存する、典型的な発展途上国だ。一貫して教育重視の政策をとり、現在も国家予算の4分の1を教育費に割いているため、識字率も約95%と世界有数である。また、政治に対する国民の関心は高く、投票率も長年約八割を保ってきた。自然保護の先進国としても知られ、国土の約4分の1以上が国立公園や自然保護区に指定されており、エコ・ツーリズムのメッカとしても有名だ。隣国ニカラグアからの移民は約100万人に達するといわれ、移民受け入れ大国でもある。 
 
 中米は、有史以来常に紛争の絶えない地域であった。その中でコスタリカは、常備軍を廃止した1949年以降、半世紀以上にわたって非武装政策を国是として掲げてきた。一九八三年には、当時の大統領であるルイス・アルベルト・モンヘが積極的永世非武装中立宣言を発表。あとを受けたオスカル・アリアス・サンチェス大統領も、周辺国の平和なくして自国の平和なしとして、内戦を続けてきた中米各国に停戦を呼びかける。この中米和平交渉の功績により、1987年にノーベル平和賞を受賞した。国連人権高等弁務官の設立を提案するなど、歴史的にも平和・人権分野での国際貢献で世界に知られる国である。」 
 
 
 
 地球上には、たくさんの国々があります。そのなかで、憲法を保持している国は約百七十ヶ国です。そして、戦力不保持、つまり、「軍隊を持ちません」と憲法に明記している国は、わずかに2ヶ国です。その1つが日本で、もう1つがコスタリカです。 
 
 コスタリカは、軍隊を廃止したので、軍事費に割り当てられていた予算を教育や福祉や公衆衛生のために使っています。国家予算の四分の一を教育費に割いているため、識字率も約95%と高い国です。また、政治に対する国民の関心は高く、投票率も長年約8割を保ってきています。 
 
 「日本国憲法」の3大原則は、国民主権と、基本的人権の尊重と、もう一つは「戦争放棄(平和主義)」です。とても残念なことですが、日本は、憲法に「戦争放棄」を掲げていますが、一度も、本気になって「戦争を放棄する」努力も、工夫もしてきませんでした。 
 
 「解釈改憲」という言葉があります。憲法を勝手に自分に都合よく解釈して、政治を行う手法のことです。戦後70年の大半は、「自由民主党」が政府与党として政権を担当してきています。この政党は、党の綱領に「改憲」を掲げており、「解釈改憲」という政治手法を用いて、実質的に、「戦争放棄」という3大原則の1つを、一貫して、なし崩しにしてきました。その結果、日本はいつのまにか、世界屈指の軍事大国となり、世界最大の武器輸入国になっています。ですから、現在、わが国では「日本国憲法」を変えて、「自衛隊」を常備軍として認め、軍隊を持つ国になろうと主張する人々がたくさんいます。とても恥ずかしいことですが、これがわが国の現状です。 
 
 早乙女さんたちが「軍隊のない国でどんな平和教育をしているのかを知りたい」と質問しました。すると、コスタリカの小学校の校長先生は、「あらゆる授業で、ヘイワ、ミンシュシュギをやっているわけです。特別そういう名前の科目があるわけではなくてね、国語でも、社会でも、・・・」と答えました。 
 
 足立さんは取材で訪れた小学校の、あるクラスの学級委員をしている少女の答えに驚かされます。 
 
「民主主義的じゃない社会は平和ではないということは当り前。だって、自分の意見をちゃんと言えないってことは、圧力があるってことでしょ?それは人権侵害でもあるじゃない。それから、環境が悪いと社会も悪くなるでしょ?だいいち、環境破壊は資源破壊でもあるから、自然の破壊が進むと少ない資源をめぐって争いが起きるじゃない。だから、環境問題もちゃんと考えなきゃね」とこともなげに述べたからです。 
 
 コスタリカの子どもたちは、学校では生徒会選挙を国政選挙と同じやり方で行なっており、国政選挙にも積極的に参加しており、「国民的なフェスタ(お祭り)」になっていると報告しています。この国では「『戦争はいけませんよ』ではなく、『平和はいいですよ』というやり方」で、平和文化教育に取り組んでおり、その方が「子どもたちにとって未来像を描きやすい」のだろうと述べています。 
 
 「平和文化教育プルジェクト」は、3つの大きな柱からなっている。それは、自分自身との平和、他の人びととの平和、そして自然との平和である。自分自身との平和は更に、精神における平和、心における平和、体における平和の3つに分けられる」(34ページ)と報告しています。そして、巻末において、「コスタリカは平和を保っている。軍隊をすてた国、それは、子どもが平和を語る国。子どもが政治を楽しむ国。子どもが子どもとして生きる国。」だと述べています。 
 
 この本は、平和と民主主義とは密接につながっているということを教えてくれる本です。 


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