2016年05月22日15時27分掲載  無料記事
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森川友義著『若者は、選挙に・・・』を読む 根本行雄

 今年7月には参議院選挙がある。安倍自民党政権は、すっかり、選挙対策で、自分にとって都合の悪い、改憲問題や、自衛隊の任務拡大や、核兵器保持や、さまざまな問題にだんまりを決め込んでいる。なにがなんでも、改憲をするための3分の2超の議席、85議席以上を確保したいのだ。安倍首相にとっては熊本地震も、サミットも、選挙運動のつもりのようだ。参議院選挙では、自民党を中心とする改憲勢力には、どのようなことがあっても85議席を与えてはならない。私たちには、森川の本を読んで、選挙について、学ばなければならないこと、知っておかなければならないことがある。 
 
 日本国憲法の前文には次のように書かれている。 
 
「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。(以下略)」 
 
 日本国憲法は主権は国民にあるということ、そして、「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するという「代議制」、つまり、間接民主制を採用している。だから、選挙はとても重要なものである。そんなことは、誰だって知っていることだ。しかし、本当に、知っているのだろうか。 
 
 この本の書名は長い。『若者は、選挙に行かないせいで、4000万円も損している?!(35歳くらいまでの政治リテラシー養成講座)』ディスカヴァー新書 2009年5月 書名が長くてわかりやすいせいで、購読意欲がそそられる。「4000万円」という数字も、とても刺激的だ。著者である森川友義の肩書きは、「早稲田大学国際教養学部教授、政治学博士」である。この本は、著者がしゃべっているのを録音し、文章化したよう感じだ。詳細なデータや、込み入った、ややこしい議論はない。白板マーカーのような太い線で書いているような、概略を述べている本である。そういう点では、ものたりない人もあろう。しかし、通勤電車などで読むには、わかりやすくていい。著者の知識がしっかりしているせいだろう。 
 
 森川の述べているところを、目次にそって、その概略をまとめてみよう。 
 
 
第1章 若者は政治によって損をしている?! 
 
 冒頭、森川は「世代会計」という言葉を紹介する。 
 
 世代会計とは、「現在の財政や社会保障等を中心とする政府の支出・収入構造と、今後実施されることが明らかにされている政策(年金支給開始年齢の引き上げ、医療保険の自己負担率引き上げなど)を前提にした場合、どの世代が得をし、どの世代が損をするか、定量的に評価する仕組み」(18ページ)であると、島澤諭(秋田大学)の定義を紹介する。 
 
 2005年時点での世代会計のデータを紹介し、「50歳代の人たちを境に、それより若い人の負担のほうが大きく、60歳代以上の人たちは受益のほうが大きくなっています。」(18ページ)その差は、「4000万円」だ。これが書名の由来である。 
 
 では、なぜ、こういうことが起こるのかといえば、森川は「若い人が選挙に行かないから、政治に声が反映されない」(20ぺージ)のだと述べる。ネモトはその意見に賛成だ。そして、森川は、「たぶん『政治リテラシー』(政治に関する知識)も低い」(20ページ)からだろうと思うと述べている。 
 
「20歳代の有権者数は合計で1500万人いるのに、有効投票数は500万票あまりで、人数的にずっと少ない(1200万人程度の)75歳以上のお年寄りの投票数700万票をはるかに下回っているのです。国会議員の立場からみると、20歳代の棄権者1000万人は日本に存在していないのと同じ」(22ページ)だ。「投票率の違いは、選挙において政党が訴えかけている政策に影響を与え」(24ページ)る。だから、「投票所でどんな候補に投票するかは二の次、とりあえず行くことによって、政治は変わる」(25ページ)と述べる。 
 
 
第2章 主役は、「有権者」のはずだけれど・・・ 
 
 森川は、「根本的には、選挙とは、わたしたち消費者が大根を買うのと同じ原理」(38ページ)と買い物にたとえて説明をしている。 
 
「わが国では、政権交代が他の欧米諸国と比べて非常に少ないために、商品(政策)の劣化が生じている可能性がある。また、売り買いにはタイムラグが生じていて、必ずしも約束した品物が届けられるわけではない。期待していた商品でない場合には、本来ならば、品物を取り換えてもらうか、次回の選挙では別の候補者を選択すべきであるが、有権者は政治リテラシーが低いために、実際とは違った商品が届けられたという事実にすら気づいていない場合が多い。」(42ページ) 
 
「政治リテラシーゼロの人は誰に投票すべきか?」(52-62ページ) という見出しで、「解決策」を4つあげている。まずは、「選挙時に誰を選ぶかは二の次、政治の知識を持っていようといまいと関係なし。とにかく、投票所に行く。」(53ページ) 
 
解決策その 岷筆を転がして決める」その◆峺補者の『顔』で選ぶ」その「政党で選ぶ」そのぞ選挙区と比例代表区で、別々の政党の名前を書く」 
 
「政治リテラシーが高い有権者はどうやって候補者を選ぶべきか?」(62-64ページ) という見出しで、5つのことを述べている。 
 
 屬泙此投票所に行くことです。一票を行使することが重要です。」◆屮瓮妊アを通じて知り得た実行中の政策を精査して、現在の与党を支持するのかしないのかを決めます。支持するのであれば与党へ、しないのであれば野党へと、いずれかの政党に投票巣すべきということです。」「人物本位で投票しないことです。候補者を公認あるいは推薦している政党がどこなのかが重要です。」ぁ嵌辞麗句の並んだマニフェストを読む時間があったら、自分の生活状態を精査して、その満足度で決めるほうがよいかもしれません。」ァ崋分以外の有権者に、日本の将来を託したい候補者を宣伝することです。」 
 
「わが国は政党政治が基本になっています。米国のように、共和党であろうと民主党であろうと、法案単位で自分の意思を決定できるシステムならば、人物本位で選ぶというのも正しい選択ですが、わが国の投票慣習には馴染みません。」(59ページ) 
 
 
第3章 実は「国会議員」の力は弱い?! 
 
「国会議員は国民を代表する人たちではありません。衆議院でも参議院でも個々の国会議員は、国民の一部を代表する人たちであって、『国民』全体の代表ではない。」(77ページ) 
 
 日本国憲法 第41条には、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」そして、第43条には、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と明記されている。だが、森川が述べているように、「国会議員とはそれぞれの小選挙区の有権者を代表する人」(78ページ)であり、「国会議員は法律をほとんど作っていません。(略)省庁の役人(官僚)が国会議員になりかわって、法案を作成し、国会を通過すれば実行しているのです。」(162-163ページ)というのが実態であり、現状なのだ。 
 
 
第4章 「特別利益団体」を知らずして政治は見えない 
 
「特別利益団体(圧力団体)の国会議員への影響力は絶大です。」(116ページ) 
 
 特別利益団体の例として、創価学会、日本医師会、日本自動車工業会、石油連盟、日本鉄鋼連盟、農協、経団連、連合などを挙げている。 
 
「税金の配分と、日本国民の行動を規定する法律という、この2つに対して、わたしたち有権者はほとんど無知です。」+(137ページ) 
 
 私たちの多くは国会と圧力団体とのつながりを正しく認識していない。国会議員と圧力団体は、組織票と政治献金とによってつながり、さまざまな政策によって間接的に恩恵をこうむっており、補助金などによって直接的に恩恵を受け取っている、そういう関係だということを知っている人は少ない。 
 
 
第5章 「官僚組織」の「官僚組織」による「官僚組織」のための政治? 
 
「日本では、特別利益団体よりもっと強力な団体が存在しています。そのグループこそが『官僚組織』です。」(139ページ) 
 
「元官僚が立法府で代議士になり、行政府の官僚をバックアップしている。」(165ページ) 
 
「省庁と、監督される立場にある業界との癒着を天下りシステムといいます。」(166ページ) 
 
 そして、私たちは「国会議員は法律をほとんど作っていません。(略)省庁の役人(官僚)が国会議員になりかわって、法案を作成し」ているという現状をもっと深刻に受け止めなければならないだろう。官僚組織は民主主義にとってはがん細胞のようなものだから。 
 
 
第6章 政治を変えるのは、あたな! 
 
 本来なら、わたしたちの持っている政治知識を総動員して、もっとも好ましいと思う候補者や政党に貴重な一票を投じて国会議員を選出しようとします。選出された国会議員もわが国のために粉骨砕身して寄与しようとします。これが民主主義の理想です。」(178ページ) 
 
「わたしたち人間は根本的に利己的であるという前提に立つと、この理想論は現実的には機能していないことがわかります。」(179ページ) 
 
わたしたち有権者はおしなべて政治リテラシーが低く、政治の場で何がおこっているのかを知らないのです。」(138ページ) 
 
「有権者であるわたしたちは、賢明な意思決定をするには十分ではない政治リテラシーしか持ち合わせていない場合が大多数です。(中略)ですから、わたしたち有権者は『合理的に無知』になっているものなのです。」(179ページ) 
 
 このように述べていながら、森川は結論としては、「選挙における投票は、有権者1億人の一票と考えれば、ちっぽけな力ですが、その一票が日本を動かすことができるパワーなのです。」と述べ、とにかく、投票に行くことを勧めている。 
 
 選挙とは、公式的には、自分の代理人を選ぶことである。だから、自分の意見と同じだと思える政党を選ぶということになる。しかし、実際には、国会は過半数や3分の2というような数字によって動いている。国会は「議論の場」にはなっていないし、「良識の府」にもなっていない。しかし、安倍首相がナチスのやり方を模範にしているのだから、3分の2超という議席数を与えてはならないのだ。安倍政権が暴走しているのは、現在、安倍自民党政権が必要にして十分な議席数を確保しているからなのだ。 
 
 選挙には、自分の意見と同じ人や政党を選ぶという側面もあるが、もう一つ、主権者の意思を示す、「批判票」という考え方もある。7月の参議院選挙を例にすれば、自民党、公明党と改憲勢力の候補者以外に投票をするということだ。それが、安倍自民党政権への批判となる。暴走を止めることにつながる。 
 
 7月の参議院選挙では、改憲勢力の議席を減らすことが肝心かなめだ。それが改憲を阻止することにつながるし、安保法制を廃止することにつながるのだから。森川の口調をまねをすれば、とにかく、投票所に行って、自民党、公明党と改憲勢力の候補者以外に投票をしよう。そうすれば、政治は変わる。 


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