2016年06月17日00時41分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

「包括的な救済立法の制定が必要です」〜国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」がAV出演強要問題で集会を開催

 国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)は3月3日、調査報告書「日本:強要されるアダルトビデオ(AV)撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権被害」を発表しました。 
 今まであまり目が向けられてこなかったAV出演強要問題を取り上げた報告書は、多くの人の関心を集めました。 
 そしてHRNは5月26日、この問題をより深く理解してもらうための集会「AV出演強要被害の被害根絶を目指して」を都内で開催しました。 
 集会では冒頭に、AV出演強要被害に遭った女性のインタビュー映像が流されました。その一部を紹介します。 
 
―AVに出演したきっかけは? 
 バイト先の先輩から誘われたのがきっかけです。「グラビアの仕事をしないか」と言われ、紹介された事務所の面接を受けました。面接内容は至って普通で、このときはAVに出演させられるとは思っていませんでした。その後、「AVの出演が決まったから」と連絡を受けました。「AVの出演なんて聞いていない」と言う私に向こうは「とりあえず事務所でゆっくり話そう」と言いました。 
 事務所に行くと、複数のマネージャーと名乗る人たちが数時間に渡って私を説得し始めました。「嫌なの?怖いの?」と心配するように装う人。「迷惑をかけるな」とどう喝する人。この時点で私の個人情報は事務所に握られていて、彼らから「ここで断れば、数百万の違約金が発生する。払えないのなら実家に請求がいく。親にも周りにも知られて、お前の居場所はなくなる。お前が出れば、丸く収まる」と言われ続けました。そして最後には彼らに説得させられてしまいました。 
 
―なぜ辞めることができた? 
 私のAV出演を知った知人に相談すると「契約からおかしい。ちゃんと相談した方がいい」と言われたのがきっかけです。それから連絡先を変えるなどして辞めることができました。こんな簡単なことで辞められるとは思っていませんでした。当時は、そんなことすら考えられないような一種の洗脳状態だったのかもしれません。 
 
―AV業界に対して望むことは? 
 出演を望んでいない人が強制的に出演させられることがないようにしてほしいです。また、契約書はきちんと本人に見せるようにしてほしいです。 
 
―社会に対して望むことは? 
 AV出演を強要させられている人を見て「嫌だったら辞めればいいじゃん」「引っかかる方が悪い」と思う人は多いです。それは当然のことだと思います。けれど、いつの間にかAVに出演することになってしまった人がいることを知ってほしいです。 
 
 続いて、フリーアナウンサーの松本圭世さんが登場しました。松本さんは、愛知県のテレビ局でアナウンサーとして働いていたときに週刊誌でAV出演疑惑が報じられ、それがきっかけで退社を余儀なくされました。 
 松本さんは「当時の出来事を話すことで、AV出演強要問題が社会問題として議論されるきっかけとなったり、他の被害者が声を上げやすい環境になればいいと思っています」と前置きして、自らの経験を語り始めました。 
「自分が映った映像がAVに使用されていることは、インターネット上で騒ぎになるまで知りませんでした。ただ、その映像には心当たりがありました。大学生のころ、街中で男性に『困っているから助けて下さい』と声を掛けられました。バラエティーのようなものを撮影しているという男性は『男性の悩みを聞いてくれるだけでいい』と言ってきました。何度も断りましたが、最終的には『それだけ困っているなら…』と思い、了承しました。 
 すると小さな車に案内され、そこには女性スタッフもいて、警戒が薄れました。次に化粧直しと言われ、メイクまでされてしまい、断りにくい雰囲気になっていました。その後、承諾書のようなものを差し出され、サインを求められました。そこには撮影に協力しますよという感じのことが書いてあり、AVを連想させる言葉はありませんでした。大学生だった私は、その控えがもらえなくても不審を感じることもありませんでした。 
 次に大きな車に案内され、撮影が始まりました。最初は本当に男性の悩みを聞くだけでした。しかし、撮影が進んでいくとおかしな雰囲気になり、目の前に飴が置かれました。この時点で『おかしいな』と思いましたが、車内には4、5人の男性スタッフと私だけ。出入り口は1つしかなく、逃げられる状況ではありませんでした。なので私は『今は求められることをやって、後でこの映像を使わないでと言えばいい』と思い、撮影終了後、そう伝えました。そのときスタッフから返ってきた言葉は『大丈夫』のみでした。 
 結局、その映像は私の知らないところでAVで使用され、知らないところで販売されていました。これがきっかけで番組を降板することになり、その後1年以上アナウンサーとしての仕事は何もできませんでした。今でこそ笑って話していますが、当時は世間からの声っは厳しく、自殺を考えるほどでした。 
 私に落ち度がなかったとは言いません。でも当時、私は何も知らなかったんです。街中でAVの撮影が行われていること、契約書などは控えをもらうこと、誰に相談すればいいのか…。そうして忘れたころに騒ぎになってしまいました。 
 AV出演強要問題について『騙される人が悪い』と言う人がいると思います。ですが、詐欺の被害に遭った人たちに対しても同じことが言えるのでしょうか。そんなことはないと私は思います。それはAV出演強要問題でも同じではないでしょうか」 
 
 次に、AV出演を強要された被害者を支援している「人身取引被害者サポートセンター・ライトハウス」代表の藤原志帆子さんが発言しました。 
 ライトハウスには2013年から2016年4月末までの間に計120件(女性が9割、男性1割弱)のAVに関する相談がありました。相談者に弁護士を紹介するなどしてAVの販売を中止・停止させることに成功した例もありますが、「全ての相談者の願いを叶えるのは難しい」と藤原さんは言います。 
「自身が出演したAVの取り下げに動くことで自分がAVに出演したことが周りにバレてしまうことを恐れ、泣き寝入りする人が多いです。また、映像の二次利用・三次利用が可能なため本人が知らないところで出演AVが増え続け、販売中止や停止が困難になっています」 
 
 このような被害に対し、HRN事務局長の伊藤和子弁護士は、AV出演強要問題を監督・規制する省庁や法律がない現状を説明し、「包括的な救済立法の制定の必要がある」と訴えました。 
 また、中野和子弁護士は、民法・特定商取引法・消費者法の観点からAV出演契約の問題点を指摘しました。 
 さらに、田村優介弁護士は、求人内容が実際と異なる点や若い人を使い潰す点などの類似点を挙げて「AV出演強要問題はブラック企業問題と同じだ」と指摘しました。 
 
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 被害女性や松本さんの話から、女性がAV出演を強要されるという落とし穴が、何気ない日常生活の中に潜んでいることに気づかされました。また、被害を相談する場所が無い現状に、被害者たちの苦悩を想像して心が痛みました。勇気を出して声を上げた被害者の思いに応えるためにも、この問題を「騙される人が悪い」で終わらせてはいけないと思います。(高木あずさ) 


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