2016年08月06日17時13分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

フランスと死刑  死刑廃止の原動力となったクリスチャン・ラニュッチ事件  そして今、死刑復活を唱える政治家も

   1976年7月28日にフランスで一人の青年が死刑にされました。クリスチャン・ラニュッチという名前で、少女を誘拐して殺した容疑でした。ところが、この事件には冤罪説が色濃く残されており、最後まで無罪を訴え続けた22歳の若者がギロチンで死刑にされたこの事件よって自分は死刑廃止論者になったという人が多いようです。 
http://www.lefigaro.fr/histoire/archives/2016/07/27/26010-20160727ARTFIG00294-il-y-a-40-ans-christian-ranucci-etait-execute.php 
  作家のジル・ペロー(Gilles Perrault)が冤罪を訴える本「赤いセーター」を書きましたが、フランスでは著名な本です。犯行現場に残されていた赤いセーターがクリスチャン・ラニュッチのものではなかったということや目撃証言との食い違い(犯行に使われた車種と青年が乗っていた車は形状は似ているが、別の車だった)など、いろいろ疑問点があるらしいのです。裁判は事件からおよそ2年後に行われましたが、裁判開始からわずか2日間で結審され、即決で死刑判決が下されたのです。 
 
  フランスの報道を読むと、マルセイユ周辺で少女殺人事件が発生したのですが、たまたまその時、付近でこの若者が交通事故で警察に捕まったそうです。そこで青年は少女の殺人も自白した、ということが死刑につながったのです。しかし、青年はすぐに自白を撤回しており、最後まで「少女を殺していない」と訴え続けたということから、警察の取り調べで自白を迫られたのかもしれません。 
 
  40年前のこの死刑がなぜ今、話題になっているかと言えばその後、1981年に死刑を廃止したフランスで、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が昨年の一連のイスラム国がらみのテロ事件をきっかけに死刑復活の国民投票をするべきだとメディアで主張しているからです。来年は大統領選挙の年で、マリーヌ・ルペン党首も近年追い風が吹いており、上位3人の中に入るのはほぼ確実です。大統領選出の可能性も十分にあります。そうした場合にフランスで死刑復活、ということになると、死刑廃止を是とする欧州連合との関係のねじれが浮上し、英国のような欧州連合脱退を巡る動きにもつながる可能性を秘めています。 
 
 
※(ウィキペディア)「1981年に就任した社会党のフランソワ・ミッテラン大統領(当時)が「私は良心の底から死刑に反対する」と公約し当選。弁護士のロベール・バダンテールを法務大臣に登用し、「世論の理解を待っていたのでは遅すぎる」と死刑廃止を提案。国民議会の4分の3の支持を得て決定した。西ヨーロッパで最後の死刑廃止国となった」 
  ロベール・バダンテールが死刑廃止法案を作り、ミッテラン大統領の後押しを得て、議員の多数で可決させた。 


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