2016年09月14日19時33分掲載  無料記事
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国際

二重国籍騒動 と 米大統領選  

蓮舫議員の民進党代表選挙出馬に伴って浮上した台湾との二重国籍問題が今、話題になっています。TVだけでなく、インターネットでも批判する人もいれば、二重国籍で何が悪い、という人もいます。この問題は外国ではどうなのか、ということで外国では二重国籍の政治家も少なくない、という実情がまずあるようです。 
 
  アメリカの政治の中心、ワシントンDCで発行されている政治ジャーナルのThe Hill誌に、L. Michael Hagerという名前の論者が二重国籍と政治家のことで論考を出しています。タイトルは’When dual citizenship becomes conflict of interest’(二重国籍が利益の相克を生むとき)です。この人はInternational Development Law Organizationの創設者のひとりとして紹介されています。アマゾンの出版物の紹介欄によれば元弁護士・外交官で世界各地で活動してきたようです。 
http://thehill.com/blogs/congress-blog/homeland-security/240572-when-dual-citizenship-becomes-conflict-of-interest 
  このテキストの中でHager氏は、まず世界の趨勢として二重国籍を認める国は世界の半数くらい存在すると言っています。米国も二重国籍が認められており、法律や行政上の問題などを引き起こすケースもあるので決して国として奨励してはいないが、かといって二重国籍を否定しているわけでもない、というのです。 
 
  とすると、政治家が二重国籍者である場合もあるのか、といえばあると言います。そして実際のところ、政治家や官僚など、トップレベルの指導者でも二重国籍のケースはあるというのです。ただ、情報公開を政治家自身が行っていないことが多く、そのためインターネット等で真偽不明の二重国籍者の政治家リストが出回っているそうです。そうしたものが出回る動機としては、政治家が仮にA国とB国の二重国籍者の場合にA国とB国の国益が絡んだ国際問題が浮上した場合に、その政治家がどちらの国に忠誠をつくすか、その問題が浮上するといことでしょう。つまり、A国の政治家だけれどもA国の国益に相反しても、B国に便宜を図る可能性があるのではないか、という問題です。 
 
  あるいはもっと単純化すれば「A国の政治家としてB国寄りの政策を行うのではないか」ということです。A国とB国が仲良くすればよいではないか、というだけの問題ではありません。複雑な国際環境の中では、もしA国がB国寄りの政策を行えばC国との関係が悪化する、ということもあり得ます。特に集団的安全保障が絡んでくるとそうなります。もし集団的安全保障の見地からA国がB国に軍事協力した場合に、B国と敵対しているC国と敵対する、あるいはB国とC国との戦闘にA国が巻き込まれる可能性もあります。これは筆者の方で、はなはだしいケースでしょうが、極端な場合戦闘を招きかねない可能性を想像しているのです。 
 
  Hager氏の情報によれば今回の米大統領選の予備選挙の段階でも二重国籍問題が話題になっていました。共和党候補だったテッド・クルーズ候補(テキサス州選出上院議員)がカナダで生まれ、カナダの市民権と米国の市民権と二重国籍である、というものです。これはクルーズ候補とトップを争っていたトランプ候補が選挙運動中に指摘していたものですが、もともとは2013年に新聞で指摘され、クルーズ候補は2014年に(将来大統領選に立候補するときに備えて)カナダの市民権は正式に放棄した、と説明してその証明書を公開しています。 
http://www.huffingtonpost.ca/2014/06/10/ted-cruz-senator-canadian-citizenship_n_5482433.html 
  クルーズ候補にとって二重国籍であることが選挙にマイナスに作用しかねない、あるいは政治家としてマイナスに作用しかねない、という判断があったのでしょう。 
 
  一方、民主党の候補者だったバーニー・サンダース氏もイスラエルとの二重国籍ではないか、という疑惑が報じられたことがあったようです。政治誌のPoliticoによると、NPR系のラジオ番組で司会者(Diane Rehm)がサンダース候補に、イスラエルと米国の二重国籍者の政治家リストが出回っていて、そこにあなたの名前も掲載されているが、本当かと質問。そこでサンダース候補がきっぱりと否定して自分は二重国籍者ではない、と述べたそうです。イスラエルとの二重国籍者かどうかが噂として取りざたされている背景には米国が長い間、イスラエル寄りの政策を継続しており、武器や資金援助などを行ってきた歴史があるからだろうと推測されます。サンダース候補の場合はユダヤ系で、青年時代にイスラエルのキブツで数か月農場の仕事をして生活したことなどがそうした噂につながったのかもしれません。 
http://www.politico.com/blogs/media/2015/06/nprs-diane-rehm-asks-bernie-sanders-about-israeli-citizenship-rumors-208583 
  先ほどのHager氏は民主主義を進めるうえで、二重国籍者でも政治家になって構わないが、二つの国が相克する問題の場合はその政治家はその議論に参加すべきではないだろう、と意見を述べています。あるいは政治家としてもしそのような政策論議に参加する場合はもう一つの国籍を放棄するべきであろう、と。 
 
  そしてまた、そのような国益をめぐる確執が実際にあり得るのだから、政治家は立候補するときに有権者に情報公開をするべきではないか、と言うのです。市民にとって、その議員がどのようなバックグラウンドで政策を形成するのかを考える上での貴重な情報だからです。ただ、このような提言をHager氏が行っているのは政治家や官僚であっても二重国籍であることを打ち明ける法的義務がない、ということに根差しているようです。繰り返しになりますが、だからこそ、サンダース候補が二重国籍である、というような誤った情報が飛び交う理由にもなっているということでしょう。二重国籍者だからと言って、もう一つの国を優遇する政策をとるかどうかはわかりません。しかし、少なくとも選挙の時に「二重国籍者だから・・・」か、「二重国籍者だけれども・・・・」か、有権者がその政治家を判断するための1つの情報ではあるのです。というのは国籍というものはその人のアイデンティティの根幹にあり、右であれ、左であれ、いずれにしてもその人のものの考え方に大きな影響を与えているものだろうからです。 
 
 
■ザ・ヒル( The Hill) 
 
「ワシントンD.C.で1994年から発刊しているアメリカ合衆国の政治専門紙。ニュース・コミュニケーションズ子会社のキャピトル・ヒル・パブリシングが発刊している。最初の編集長はニューヨーク・タイムズで長年ワシントン特派員を務めたマーティン・トルチン」(ウィキペディア) 
 
■ワシントンポストの2013年の記事 
https://www.washingtonpost.com/news/post-politics/wp/2013/08/19/cruz-will-renounce-canadian-citizenship/ 
’Sen. Ted Cruz (R-Tex.) announced Monday evening that he will renounce his Canadian citizenship, less than 24 hours after a newspaper pointed out that the Canadian-born senator likely maintains dual citizenship.’ 
 
■ワシントンポストの2014年の記事 
https://www.washingtonpost.com/news/post-politics/wp/2014/06/10/ted-cruz-officially-gives-up-his-canadian-citizenship/ 
’Sen. Ted Cruz (R-Tex.) is now 100 percent American. 
 
The tea party favorite announced last summer that he would takes steps to renounce his Canadian citizenship after the Dallas Morning News pointed out that he probably remained a citizen there by virtue of his birth.As of May 14, Cruz was no longer a Canadian citizen.’ 


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