2016年10月11日02時15分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201610110215252

コラム

日本の幻想の二大政党制  政策論争のない選挙と見せかけの国会論戦と

  アメリカの大統領選挙をインターネットを通して昨年来、観察してきましたが、日本とアメリカの政治システムの違いはあるものの、それを越えて最も痛切に感じられることは日本では政策論争が選挙の前に何もない、ということでした。アメリカの大統領選挙に比べれば、選挙の公示から投票まで期間がごくわずかしかないのに、そのわずかな期間ですら、与党は争点をずらし、争点を見せまい、として重要なイシューを隠しています。 
 
  たとえば「消費税引き上げを延期してよいかどうか国民に真意を問う」として衆院が解散された2014年の衆院選では衆院解散から投票日まで24日間、公示から投票まではわずか13日しかありませんでした。アメリカの大統領選が1年以上かけて候補者をふるいにかけていくのとはまったく質量ともに比較になりません。そして選挙が終わり、内閣が組閣された後に、選挙前には議論されなかった特定秘密保護法や安保法制などの重要法案を提示し、強行採決も辞さず通してしまいます。二大政党制になれば本格的な議論が行われる、というのは幻想にすぎなかったのです。何より問題なのは選挙戦を通して国民の声を国会に吸い上げていくプロセスが軽視されていることです。むしろ、国民を政治的決定の場から除外することが行われてきたのです。これが問題なのは政治参加とは選挙で投票して終わり、というものではないからです。 
 
  選挙前に議論はなく、選挙後にも議論はあまりされない、というのがアメリカの大統領選挙と比べたとき最も明瞭に浮かび上がる印象です。アメリカの大統領選挙の場合、まず民主党と共和党の予備選挙の段階から全米を候補者が回って討論を繰り返し行い、その論戦の過程で粗雑な議論をするものや、資質がない候補者、スキャンダルを抱えている候補者などが落されていきます。しかし、日本ではそうしたプロセスが選挙前にはなく、前回の参議院選挙に至っては報道の量自体が激減しています。有権者から真の争点を隠し、印象操作し、議論の内容や質よりも「支持率」の高さを問うて勝ち組を誘導している傾向が高いと思います。国民主権であるにも関わらず、有権者への配慮が非常に低く、マスメディアも本格的な論戦の舞台をつくることができていません。選挙の後にどのような素晴らしい番組を作っても選挙で生かされなければあまり意味がありません。 
 
  90年代から二大政党制の呼び声が高く、それを目指して選挙制度を改めてきた結果が、今日の欺瞞的な二大政党制であり、真の選択を国民が行う機会はありません。そして選挙が終われば首相は「国民の信託を受けた」のだから、と4年間、国会と内閣の事実上の三権の二権を支配しています。しかし、少なからぬ政治学者によれば二大政党制がよいかどうかは国によって国民の性質の違いがあり、一概にそれがよいとは限らないと言うのです。早大の岡沢憲芙教授が「現代政治学」(法学書院)の中で検証しているものです。 
  たとえば欧州では少数政党が協力しあうパターンで安定した政権運営が行われてきたケースが多いのですが、そうした事実はほとんど選挙制度改革の議論で耳にしたためしがありません。無理やり、小選挙区制を導入したものの二大政党制が機能せず、論戦も選挙前に行われず、そもそも選挙期間自体があっと言う間で、真のコンセンサスが出来上がらないうちにすべてを国会議員に託してしまうのが悲しいことに日本の政治です。 
 
 
■堀江湛・岡沢憲芙編 「現代政治学」(法学書院) 早稲田・慶応出身の学者が集結 二党制の神話にメスを入れる 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508170231531 
 
■飯坂良明・井出嘉憲・中村菊男著「現代の政治学」(学陽書房) 小選挙区制が有効に作用するには条件があった、だがそれは導入した日本にはなかったものだった 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508240138091 
 
■長島昭久著『「活米」という流儀 〜外交・安全保障のリアリズム〜』 民主党・長島議員の外交・防衛政策と安倍政権の外交・防衛政策は極めて近い 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508242151411 
 
■「現代政治学の基礎知識」(有斐閣) 〜政治の再構築に向けて〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312020312161 
 
■ジル・スタイン氏の声明「二大政党制は崩れている」 
https://www.youtube.com/watch?time_continue=4&v=2NjkCfjU-FY 
 
■「独立宣言と米憲法」(The Declaration of Independence and The Constitution of the United States) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401102038235 
 
■「ザ・フェデラリスト」(ハミルトン、ジェイ、マディソン)  アメリカ政治思想上の第一の古典 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201211252338410 
 
■ハンナ・アレント著 「革命について」 〜アメリカ革命を考える〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401201800171 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。