2016年11月19日10時31分掲載  無料記事
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国際

フランス大統領選予備選  フランス大統領選とアメリカ大統領選の違いは決選投票があること  明日は注目の共和党予備選の投票日

  米大統領選の騒動が収束して今はトランプ氏の組閣に関心が移る中、フランスでは来年の大統領選に向けた候補者選びが始まっています。フランス人にとって来年の大統領選の最大の関心事はここ数年急速に台頭してきた右翼政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン大統領が誕生するかどうかでしょう。2002年に父親のジャン=マリ・ルペン候補がシラク候補(現職)と決選投票となった時、極右の台頭に危機感を抱いたフランス国民は2回目の決選投票でシラク候補を圧勝させ、その後1か月ほどは民主主義の勝利を祝う余韻がパリに立ち込めていたものです。 
 
  しかし、今回の大統領選は14年前と様相を異にしています。というのも高齢となったジャン=マリ・ルペン初代党首をついで2011年に国民戦線2代目の党首に就任したマリーヌ・ルペン氏は大統領選の決選投票で勝利することだけを執念をもって目指してきたと言って過言ではないからです。そのために「非悪魔化」と言われるキャンペーンを行い、あからさまなムスリム排斥や排外主義の言葉の使用を党内で禁止してきました。そのため、父親のジャン=マリ・ルペン氏を国民戦線から追放する、ということまで行っています。大統領選の決選投票に進んだ時、「極右政党」というイメージだと、危機感を抱いた有権者が結束してライバル候補に投票してしまうからです。これは2002年の父親の失敗の教訓です。その効果があり、世論調査ではマリーヌ・ルペン党首が大統領になってもいいと見る人が30%を超えているとされ、かつて「トンデモ政党」とみなされていた国民戦線はすでに三大政党の1つに大発展を遂げています。さらに英国の欧州連合離脱派の勝利も欧州連合に疑問を突き付けてきた国民戦線に追い風となっています。 
  2012年に社会党のフランソワ・オランド候補がサルコジ候補(国民運動連合党首=現在の共和党)を破って選出されたとき、当初から中道・左派の人たちの中に5年後の不安を語る声は絶えませんでした。オランド政権が無能だった場合、その反動で国民戦線が2017年の大統領選で勝利する可能性が飛躍的に高まるであろうことです。このことは欧州連合の未来とも密接に関係してきます。 
 
  この5年間、フランス経済は低迷し、さらに戦争とテロに包まれ、予感はまさに的中しそうな勢いです。また過去の社会党の労働政策を反故にするような今年の労働法改正はこれまで社会党に票を投じてきた労働者層や市民の失望を買っていると思われます。これらの労働者は米大統領選のラストベルトの白人有権者に似て、エスタブリッシュメントと化した社会党現政権に一気にノーを突き付ける可能性もあります。ただし、その場合、票の行方は真逆の国民戦線になるのか、それともより左を進むメランション候補の左翼党に流れるのか、あるいは長年のライバルだった共和党(旧・国民運動連合)に流れるのかは未知数です。 
 
  フランスの社会党はオランド大統領が2017年の大統領選に続投するのか、別の候補を立てるのかが決まっていません。いずれにしてもオランド大統領では勝てないだろう、と見る人が多数です。そんな中、オランド大統領=マニュエル・バルス首相の社会党政権で経済大臣だったエマニュエル・マクロン氏が無所属で大統領選出馬を今月表明しました。マクロン氏は今年の労働法改正の原動力となった一人で、もともとロスチャイルド銀行出身、経財界に地盤を持つ人物です。一方、マニュエル・バルス首相は大統領に忠誠を誓う立場でもあり、オランド大統領の進退がどうなるかを見定めているのかもしれません。さらに出馬するかどうかわかりませんが、社会党にはオランド大統領の元妻で2007年にサルコジ候補と決選投票を争ったセゴレーヌ・ロワイヤル環境大臣や人気の高い現職のパリ市長アンヌ・イダルゴ氏なども控えています。社会党はかつての社会党から新自由主義路線に変質したと見る人も少なくなく日本の社会党のように凋落する可能性もあります。しかし、それでも新たなリーダーの元に再浮上する可能性もあるかもしれません。 
  社会党の予備選は来年1月22日と決選投票の場合は1月29日を予定しています。この予備選は社会党が左派や環境政党に参加を呼びかけています。すでに立候補を表明している人の中には社会党のアルノー・モントブール、マリー=ノエル・リエヌマン、ブノワ・ハモン、ジェラール・フィロッシュ、ジャン=リュク・べナミアス、フランソワ・ド・リュギーなど。社会党が他の政党に合同の予備選を呼びかけた理由は来年の大統領選が厳しい戦いになると考えているからでしょう。決選投票に残るためには一回目の投票で上位二位に入らなくてはならず、票が割れることを恐れているのです。しかし、そうではあっても左翼党のメランション氏や緑の党らは社会党の呼びかけには応じず、独自に選挙戦を闘う模様です。オランド大統領やバルス首相、マクロン元経済相などはこの予備選に参加するのかどうかは不明です。ただ報道によれば世論調査によると、バルス首相がもし出馬した場合はトップに立つ可能性が指摘されています。 
 
  三大政党の1つでサルコジ元大統領を擁する共和党では一足先のまさに今、予備選の投票が行われようとしています。投票予定日は11月20日で、この時、有効投票数の過半数を占める候補者がいなければ11月27日に上位2者で決選投票が行われます。今回の予備選は実は共和党だけでなく、中道右派のキリスト教民主党や Centre national des independants et paysans (CNIP)の3党合同で行われ、合計7人の候補者が臨みます。 
  二コラ・サルコジ(元大統領)、フランソワ・フィヨン(元首相)、ジャン=フランソワ・コぺ、アラン・ジュペ(元首相)、ナタリー・コシューシコ=モリゼ、ブリュノ・ルメール、ジャン=フランソワ・ポワッソン(キリスト教民主党党首)です。 
 
  共和党はもともと政権与党だった大政党だけに、首相や大統領経験者などの大物議員が多数予備選に出馬していますが、意外なのはナタリー・コシューシコ・モリゼ議員があまり目立っていないことです。モリゼ議員は女性大統領候補として、社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル議員のライバルとみなされ、過去にはしばしばテレビ討論を行い、大統領候補の筆頭とまで見られていた人物です。しかし、今回、ロワイヤル議員もモリゼ議員もともに静かな印象です。逆にここにきて急速に存在感を際立たせているのがアラン・ジュペ元首相です。 
 
  ジュペ議員は高等師範学校を出て、さらにパリ政治学院とフランス国立行政学院を卒業したという、フランス最高のエリートコースを歩んできた政治家で、保守本流とみなされています。本来はすでに大統領になっていてもおかしくない重鎮ですが、2004年の選挙資金スキャンダルの責任を取らされ大統領候補の第一線から退いてしまいました。しかし、ここにきてジュペ氏が浮上しつつあるのは、来年の大統領選の1回目の投票で社会党など左派政党が敗退して、決選投票で国民戦線VS共和党になった時、ジュペ氏なら容認できると見る人が中道および左派に一定数存在する印象を受けることです。統計数字を見ているわけではありませんが。サルコジ候補に対する拒否感が強い左派の有権者でも、穏健派のジュペ候補なら投票してもよい、と思っている人が少なからずいるようなのです。一方、サルコジ候補が予備選で選出されて再選を目指す場合は国民戦線に票を投じる、という人が逆に中道左派に一定数存在しているであろうことです。それはアメリカ共和党のトランプ候補と同様にフランスの国民戦線は反グローバリズムを掲げ、工場空洞化に恨みを持つ労働者や外国産の安い農産物の流入にダメージを受け自殺が絶えない農民などを中心に、フランス国民経済の復興を唱える国民戦線に左派的な要素を見る人が多いからです。 
 
  ただ、明日の共和党を主力とする中道・右派政党の予備選は7人の候補者が擁立されているだけに蓋を開けてみないと誰が実際の候補に選出されるかは未知数です。しかし、社会党が低迷している今、この予備選の結果が意味するものは小さくないと思えるのです。 
 
 
(以下の媒体などを参照した) 
 
 
■Primaire a droite pour l'election presidentielle 2017 
(L'EXPRESS誌) 
http://www.lexpress.fr/actualite/politique/lr/primaire-a-droite-pour-la-presidentielle-2017_1628249.html 
 
■Primaire PS, de la gauche : Valls battrait Montebourg au second tour [Date, candidats, sondages, resultats] 
http://www.linternaute.com/actualite/politique/1294970-primaire-ps-de-la-gauche-valls-battrait-montebourg-au-second-tour-date-candidats-sondages-resultats/#candidats-primaire-gauche 
 
 
■大山礼子著 「フランスの政治制度」(東信堂)   49−3とは何か 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610311437351 


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