2016年11月21日19時00分掲載  無料記事
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アフリカ

南スーダンPKO自衛隊派遣の危険性 〜日本は非軍事面での貢献を

 日本政府は11月15日、南スーダンPKO(国連平和維持活動)に派遣する陸上自衛隊第9師団第5普通科連隊(青森駐屯地)中心の第11次隊(約350人)に対し、今年3月に施行された安全保障関連法に基づく新任務「駆け付け警護(他国PKO要員などの救出)」「宿営地の共同防護(国連施設などを他国軍と共に守る)」を付与することを閣議決定した。 
 これを受けて稲田朋美防衛相は18日、第11次隊に新任務を付与する命令を下し、20日から部隊の派遣を開始した。 
 
 こうした日本政府の方針に対し、「そもそも現在の南スーダンは、自衛隊派遣の条件であるPKO5原則(※)が守られているとは言えないのではないか」との疑問が呈されているわけであるが、南スーダンPKOに自衛隊を派遣することの是非を考えようと、野党の護憲派議員連盟「立憲フォーラム」(代表:近藤昭一民進党衆院議員)と「改憲問題対策法律家6団体連絡会」(構成団体:社会文化法律センター、自由法曹団、青年法律家協会弁護士学者合同部会、日本国際法律家協会、日本反核法律家協会、日本民主法律家協会)の2団体が10月下旬、衆議院第二議員会館において院内集会「南スーダン・PKO自衛隊派遣を考える」を開催した。 
 
(※PKO5原則) 
日本が国際平和協力法に基づき国連平和維持活動に参加する際の5つの基本方針。 
 (響菘事者の間で停戦合意が成立している。 
◆‥該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊へのわが国の参加に同意している。 
 当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守する。 
ぁ\茲隆靄槓針のいずれかが満たされない状況が生じた場合、日本から参加した部隊は撤収することが出来る。 
ァ”雋錣了藩僂蓮⇒廾の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られる。 
 
<南スーダンPKO自衛隊派遣の問題点> 
 
 会場に集まった野党議員や弁護士、市民ら約150人を前に、日本体育大学教授(憲法学)の清水雅彦さん、日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事の谷山博史さん、元内閣官房副長官補の柳澤協二さんの3人が基調報告を行い、それぞれ専門家の立場から南スーダンPKOに自衛隊を派遣することの問題点を指摘した。 
「私は憲法研究者として、自衛隊は違憲の存在だと認識しています。そういう存在の自衛隊が、他国の軍隊とますます同じようになってしまうことに対して、何とか歯止めを掛けなければならないと思っています。 
 私は、日本が憲法9条に従って海外に自衛隊を出さないだけではなく、憲法前文に従って世界の貧困問題を無くす、しかもそれを非軍事でやることが求められていると思います。 
 11月から新任務が付与される自衛隊が南スーダンPKOに派遣されようとしていますが、PKO参加5原則を満たしていないような状況で新任務の付与はすべきではないし、現在派遣されている部隊は即時撤退しなければいけません。日本がPKO活動に関わるとしても、自衛隊の関与は将来的に止めるべきだと思っています」(清水雅彦さん) 
 
「キール大統領派(南スーダン政府軍)とマシャール前副大統領派(反政府勢力)による2015年8月の和平合意は、今年7月に対立が再燃して武力衝突に至ったことで完全に破綻しています。 
 新任務に付与された自衛隊が現在の南スーダンに派遣されると、政府軍とも交戦する可能性があります。同時に、政府軍なのか反政府勢力なのか、それぞれの民兵なのかを見極めることは、極めて難しい状況だと思います。 
 そういう状況で、自衛隊が平和裏に武器を使わずに貢献することは、かなり難しいと思います。平和貢献への関わり方を根本的に考え直すくらいの議論を行う必要があると思います。自衛隊による貢献を前提としない、民生支援なり、人道支援なり、あるいは南スーダンにおける日本人の存在は、米国人や欧州人と立場が全然違いますから、日本なら政府軍と反政府軍に対して仲介ができるかもしれません。そこで平和憲法を持つ強みが発揮されると思います」(谷山博史さん) 
 
「イラクに派遣された自衛隊は、オランダ軍と一緒にサマーワというところにいましたが、自衛隊と違って治安維持の任務を担っていたオランダ軍は、街中をパトロールする中で何人かが攻撃を受け、死者を出しています。 
 日本政府が考えなければならないのは、まず『戦死なんてあり得ません』という前提が間違っていて、『何故死ななければならないのか』という意味を国民にちゃんと説明しなさいということです。 
 日本国民である自衛隊員がそういう状況に置かれることを、主権者としてどういうふうに受け止めるかが問われています。国民の理解と支持が無いことを自衛隊はやれません。やれば自衛隊は崩壊します。1隊員が死んだらどうなるか。 
 日本政府が『この犠牲を無にしないために、もっと突っ込むぞ』と言うのであれば、“この犠牲によって日本がどういう国になろうとしているのか”というメッセージを明確に打ち出し、『この犠牲は当然だ』という認識が日本国民に共有されなければなりません」(柳澤協二さん) 
 
<南スーダン現地の情勢> 
 
 11月上旬に日本へ一時帰国したJVCスーダン駐在スタッフ現地代表の今井高樹さんが、都内で開催された報告会で語ったところによると、南スーダンは全土的に戦闘状態にあり、避難民は約260万人(国内避難160万人、国外避難100万人)に達しているという。 
 首都ジュバも“戦闘行為が無い”という意味では比較的平穏であるものの、日本人の感覚でいう平穏ではなく、信号機は止まり、市場に人影はなく、夜間は武装した強盗団がうろつくなど治安は悪いらしい。 
 ジュバにいる今井さんの知人・友人の話によると、「政府が機能せず、給料が支払われないために、公務員による汚職や軍人による略奪など犯罪が横行している。カネがある人は皆ジュバを去り、貧しい人たちがジュバに残って苦しんでいる」そうだ。 
 また、ある避難民は「ジュバはまだマシ。故郷の村々では食用の鶏のように子供たちが次々に殺されている」と語ったそうで、戦闘が全土に拡散したことで、兵士・武装したグループによる殺戮、レイプ、誘拐、略奪が横行しているという。 
 
 南スーダン現地に派遣されているPKO部隊は現在、避難民保護施設(5〜6か所)・人道支援のための拠点、国連施設・空港の警備などに当たっているそうだが、今井さんは「それらの警備に当たっていることで、PKO部隊はそれなりに存在意義がありますが、南スーダン国内の紛争を終わっているわけではありませんので、貢献度は限定的と言えます」と指摘している。 
 また今井さんは、反政府勢力メンバーが紛れ込んでいる避難民保護施設をPKO部隊が警備している形になっていることから、南スーダン政府は「PKO部隊が反政府勢力をかくまっている」と見て、PKO部隊に敵意を見せ始めていることや、一般市民は、戦闘を止められないPKO部隊に失望して信頼していないことを挙げ、「日本が自衛隊を通じて何かしようとしても、南スーダンに対する貢献になるのかどうか非常に疑問です」とも指摘している。 
 
<米国の元軍人が語った体験談> 
 
 自衛隊員よりも実戦経験が豊富な元米兵による報告会が11月中旬に都内で開催された。 
 登壇したのは、米退役軍人団体「ベテランズ・フォー・ピース」メンバーで、「今も悪夢を見ることがある」と語るなど、過酷な体験を次のように語っていた。 
「私の経験から言えることは、戦闘という非常にハイパーで特殊な現実の中で、きちんと敵を見極めることは、ほとんど不可能です」 
 
「私は、米海兵隊所属の特殊部隊『フォース・リーコン』の一員として、2003年にイラクに行きました。イラクの首都バグダッド到着後、私たちは毎日2〜4回の襲撃を行うなど積極的に行動しました。ちなみに、私たちは通報を受けて出動するわけですが、通報の約6割は虚偽でした。 
 今でも寝るときに思い出すのですが、強襲した家屋に6〜7歳の女の子が、あまりの恐ろしいシーンを目の当たりにして、もの凄い声で泣き叫ぶのです。あの時に聞いた声は忘れることができません。そういう任務を毎日毎日繰り返して、最終的に私が気付いたことは、テロと戦うためにイラクに派遣されたのに、実際には私たちがイラク現地の人たちに対してテロ行為を行っていたという現実です」 
 
「イラクでの経験に基づいて言えることは、武力という形で介入すると、事態はもっと酷くなります。そして、もっと大きな紛争を招くことになるのです。 
 私は、自らの経験を踏まえて危惧しているのは、今の決断(=自衛隊員に対する新任務『駆け付け警護』『宿営地共同防護』の付与)が、皆さんのお子さん、お孫さんたち将来世代に非常に暗い影を落とすのではないかということです」 
 
 南スーダンに派遣された第11次隊の自衛隊員に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患う人が増えないことを祈るばかりだ。 
 
<日本が果たすべき役割とは> 
 
 南スーダン国民の間では、トヨタ車に代表されるようなハイテク機器の存在や、第2次大戦後の荒廃の中から経済力で欧米に肩を並べた事実を通じて、日本に対する信頼感や尊敬の念が涵養されており、日本に対するイメージは今のところ良い方らしい。 
 日本は、そうした信頼感や尊敬の念を生かし、非軍事の面で、南スーダンに対して重要な役割を果たせるのではないかと今井さんは指摘している。 
「こういう仕事をしていると、外務省の人と話す機会があるのですが、私が『紛争当事者に働き掛けたらどうですか?』と話すと、大体皆さんは『できないです』と言って最初から無理だと決めつけたり、『日本は、そういうことはやらないんですよ』と仰ったりします。しかし、日本は普段何も言わないからこそ、口を出すとインパクトがあると思っています。また、日本は南スーダンの周辺諸国ともODAを通じて関係が良好なので、周辺諸国への働き掛けでも影響力を行使できると思います」 
 
「日本は行政機構や法律が整備され、公務員の倫理も高い方です。上下水道整備、道路整備、架橋など物理的なインフラ整備だけでなく、行政サービスも含めた社会インフラ整備の支援など、できること、やるべきことはいくらでもあるはずです」 
 
 南スーダンの国家建設に向けて、自衛隊の派遣だけで良しとするか、非軍事面の貢献にも乗り出すか、日本外交の本気度が問われているように思う。(坂本正義) 


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