2016年11月22日14時19分掲載  無料記事
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環境

リニア、長野県大鹿村での起工式はなぜあそこまで急いだのか?  樫田秀樹

 11月1日。長野県大鹿村で、リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事(長野県側)の起工式が執り行われました。とはいえ、前日まで、いや当日の朝になっても、その場所がどこなのかすら、役場幹部などを除き、村民には一切知らされませんでした。村の有志は、目星をつけていた数カ所を回り、会場になるであろう白い巨大テントを見つけたことから、会場を特定できたのです。そういうことなので、いわんや、村民が起工式に招かれることもありませんでした。 
 
 
●村民に知らされなかった起工式 
 
 起工式が執り行われたことは既に主要メディアでも取り上げられているので、ここでは書きません。 
 
 ただし、この11月1日の起工式に来るまでの手続きは、それこそリニア並みに超特急でした。 
 
 そもそも、3年前の秋に村で開催された準備書説明会において、JR東海は、大鹿村民に「地元の理解がなければ着工しない」と約束していました。ところが今年4月の道路改良等に関する住民説明会で突如「住民が理解したかどうかは事業者が判断する」と言葉を変えたのです。 
 
 村ではトンネル工事から排出される膨大な建設残土を運ぶダンプなどが一日最大1350台から1736台、10年間狭い道を走り回るため、粉塵、騒音、振動、排気ガス、交通事故や観光への影響に不安を抱く住民は多く、理解とは程遠い状態です。 
 
★10月14日 
 JR東海は、全村説明会で、住民から疑問や懸念の声が挙がっていたのに、閉会後、記者団に「住民理解は得られた」と発言。 
 
★10月17日 
 JR東海が、工事開始後の取り決めを明記した確認書を村に提示。主に、工事用車両の通行に関すること。14条からなる。 
 (外部の私が読んでも納得できないのは、『大気質』『騒音』『振動』の測定は一年にたった2回しか行わないことだ。) 
 
★10月18日 
 村が確認書に対しての修正案を返す。 
 
★10月19日 
 JR東海と村、確認書を締結。 
 
★10月21日 
 着工への最後の手続きである「村長と議会の合意」を得るための村議会での決議が行われる。4対3の僅差でリニア着工が可決された。 
 
 ここで、やはり不可思議なことが二つ。 
 1.確認書を、たった二日間の間で、いつ村民が理解したのだろう。読んでもいない人がほとんどのはず。 
 2.決議の行われるこの日の朝、信濃毎日新聞の朝刊に「11月1日が起工式」との日程を掲載していた。順番が逆。どういうこと? 
 
●なぜ、JR東海はここまで急ぐのか? 
 
 山梨県早川町でも、ここ大鹿村でも、長野県阿智村でも、神奈川県相模原市鳥屋でも、工事をしたとしても、そもそも残土置き場すら決まっていない場所がほとんどだし、決まっている場所にしても、そこまで運ぶ道路が狭く、しかもところどころ10数トンの重さにしか耐えられない田舎の道路ばかりです。物理的に残土を運べない。つまり、トンネルを本格掘削するのは絶対に無理なのです。 
 
 ある情報では、財政投融資からの3兆円が融資されるのは11月中と決められているとのこと。そうであれば、着工前への融資はいかにも不自然であり、とりあえず融資を受けるための、着工という体裁だけ整えるためのポーズではないのかとも言われています。 
 
 市民団体「大鹿リニアを止める実行委員会」の宗像充代表は「僕たちは理解も同意もしていない。工事責任者を出してください!」と起工式会場の入り口で訴えていました。 
 2014年にリニア計画を国土交通省が認可する際、太田昭宏国交相(当時)は「住民への丁寧な説明を」との措置をJR東海に求めましたが、この日、とうとう責任者は姿を現しませんでした。いや、正確には双眼鏡でこちらを見ていたのですが、住民に「そこで双眼鏡を見ているナガタさん。出てきてくください」と要請されると、後ろに引っ込んでしまいました。 
 
 けんか腰になる住民もいることはいましたが、それを批判する前に、住民に対してろくすっぽ丁寧な説明をしてこなかったJR東海が、今後、住民との信頼関係もないままでこの事業を進めるのかと思うと、どこかで破たんが起きるような気がします…。 
 
拙著「増補版・悪夢の超特急」。リニア問題の入門書です。是非、ご購読を。 
 
(かしだ・ひでき ジャーナリスト ブログ「記事の裏だって伝えたい」から。写真も) 


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