2016年11月26日04時08分掲載  無料記事
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国際

英国=米国 (=フランス? =日本?) 労働組合と社会民主主義(ニューレイバー)の関係  自らの足を食いつくしてしまった大蛸

■労組の影響力を削減したブレア労働党政権 
 
  成文堂から出ている「現代イギリス政治」(第二版)はその中で英国のブレア労働党政権で何が起きたのかを分析していました。ニュー・レイバーを標榜し、過去の労働党から脱却を図って長期政権を築いたブレア政権の時代に労働党は党内における労働組合の影響力を相当に削いだ、とされています(「ニュー・レイバーとその功罪 1993〜2010」)。 
 
  「労働組合の影響力の削減は、党首を中心とする党指導部の自立性の強化を狙うものであり、ブレア党首以降、この方向性はさらに明確なものとなった」 
 
  このことが労働党の政策の変化にもつながっていきましたが、イラク戦争への加担を含め、のちには過剰な首相への権限集中とリーダーシップへの依存が逆回転し、ブレア政権の人気の低迷と比例して絶頂の1997年頃には400万人を超えた労働党員は2009年には200万人を切っていました(労働党における個人党員数の推移)。首相への権力集中と労組を排したリーダーシップによって、ブレア政権は様々な改革を断行できましたが、同時に労働党の基盤を切り崩してしまったのです。そして、ポスト・ニューレイバーが未だに大きく生まれていないのが今日の労働党の低迷のようです。 
 
■「クリントン夫妻の引退は民主党再生の希望」〜自由貿易協定のため労組を民主党の意思決定過程から排除しようとした政治家夫婦〜 
 
  そのことは今回、トランプ候補に敗北したアメリカのクリントン候補にも該当すると見る人がいます。ニューヨークにあるヨーク大学で政治学の教鞭をとっているHazem Salem氏です。Salem氏は大統領選の後に英国のガーディアン紙に”Clinton & co are finally gone. That is the silver lining in this disaster”’「クリントンと企業の癒着の時代は終わった。これが今回の政治的惨劇の中の希望である」と題する一文を掲載しています。 
https://www.theguardian.com/profile/hazem-salem 
  何を訴えているのか、と言えばまさにブレア首相やクリントン大統領、そしてヒラリー議員らが労働組合をつぶしてしまったのだ、と言っています。新自由主義の元祖と言われるレーガン大統領やサッチャー首相が労組をつぶしたのではなく。クリントン夫妻は民主党内の労組の影響を落とし、それによって企業に有利な規制緩和を行ったのです。規制緩和に関してはクリントン夫妻の場合は金融の規制緩和が最も顕著ですが、それにとどまりません。その象徴が北米自由貿易協定(NAFTA)であったことは、今回、トランプ候補が最大の攻撃対象にしたものとして記憶に新しいところです。全米自動車労組は「NAFTAによって300万人の米国民の雇用が過去10年間に奪われた」と強く反対していたものでした。 
 
  こうした数々の規制緩和により、これらのニューレイバー、そして民主党のリーダーたちが、中道左派の政治勢力が支えられてきた根っこを侵食してしまったのだ、と見るのです。今のアメリカの民主党はフランクリン・ルーズベルト大統領の時代の「労働者の党」ではまったくない、というのがHazem Salem氏の意見です。 
 
■労働組合員の中には共和党支持に転じた人々も 
 
  そのことはアメリカの新聞マザー・ジョーンズにも書かれています。”These Rust Belt Democrats Saw the Trump Wave Coming”(ラストベルトの民主党支持者はトランプに期待した)と題する記事です。この中で激戦区オハイオ州のある地域の実話が書かれています。地域の労組が民主党のクリントン候補の支持を決定して組合員に説明会を行ったら、ブーイングが起きた、というのです。実際に労働組合員たちの中にはトランプ候補に投票した人も多かったようです。結局、大統領選の鍵を握る激戦州の1つ、オハイオ州は共和党に落ちてしまいました。 
http://www.motherjones.com/politics/2016/11/rust-belt-democrats-saw-trump-wave-coming 
 
■フランス社会党でも深まる労組との確執 
 
  同様のことはフランス社会党にも起きつつあるように感じられます。フランスの労組は英国や米国よりもはるかに強固ですが、とはいえ今年、労組の期待を裏切って労働者の権利を大きく削るための「労働法改正」を断行したからです。しかも、フランス憲法の49−3という非常時の手段を使って社会党政権がそれを行ったことは今後の社会党と労組の間に大きな楔となりかねません。なぜ社会党政権が自ら構築した政策を切り崩したのかと言えば欧州連合本部から欧州連合の経済財政基準に沿うための経済政策の実施を強いられたからだと言われています。これはギリシアや南欧諸国に課せられている緊縮政策と同じ根っこを持っています。そもそも本来は戦争回避のために生まれた欧州連合ですが、域内の関税や移動を自由化した今日の欧州連合は一種のグローバリズムと言えます。 
 
  実を言えばフランスではこの数年、社会党への支持をやめて右翼政党の国民戦線への支持に切り替える人が増えているのです。このことはアメリカのラストベルトで起きている現象と通底しています。中道左派政党がグローバリズムを称揚し、労働者の権利を切り崩す規制緩和を断行しているため、期待を裏切られたと感じる工場労働者や農民や小企業主たちが〜それまでの支持政党を鞍替えし〜 反グローバリズムを唱える国粋主義政党やそれに類する政治家に票を移す傾向につながっています。 
 
  労働組合と中道左派政党の関係が今日の政界の波を作っているようです。日本の民進党の凋落も無縁ではないでしょう。ただ日本の場合は企業別組合が中心であり、欧米の場合の産業別組合とはまた異なる事情を持っていて、労組自体の存在感と意味あいがまったく異なっています。 
 
 
※The Atlantic誌 ”Does Labor Actually Like Hillary Clinton? And how does she feel about labor? ” 
http://www.theatlantic.com/politics/archive/2015/11/does-labor-actually-like-hillary-clinton/450921/ 
 
■The Democrats’ Betrayal of Labor Unions 
http://www.globalresearch.ca/the-democrats-betrayal-of-labor-unions/25256 
 これはアメリカの19歳の政治学を学ぶ学生 Devon Douglas-Bowersが2011年に論じた民主党の労組への背信行為を論じた一文 


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