2016年12月04日13時24分掲載  無料記事
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欧州

フランス共和党フランソワ・フィヨン氏のインパクト 2   フィヨン対ルペンの場合、勝つのはどちらか? (そして左派は・・・?)

  前回、フランス共和党の大統領選の予備選で右派のフランソワ・フィヨン氏が選出されたことを受けて、その経済政策などについて紹介しました。国際メディアでもそうですが、フィヨン氏の当選に関して最大の関心事項は国民戦線のマリーヌ・ルペン候補と一騎打ちになった場合、勝てるかどうか、という点です。 
 
  この点で筆者はフィヨン氏の新自由主義的な政策によってこれまで社会党に投票していた人々が国民戦線に票を移す可能性が高まるのではないか、と考えていました。むしろ共和党穏健派のジュペ氏の方が左派票を取り込んで勝てる見込みがあるのではないか、という自分なりの読みでした。英国のフィナンシャル・タイムズの社説が日経新聞で「対ルペン氏 厳しい戦いに」と紹介されていたので読んでみると、フランス版サッチャリズムに対する逆風がフランスの労働者に吹いていて、オランド社会党政権に失望した人々が国民戦線のマリーヌ・ルペン候補に流れる可能性を指摘しています。フィナンシャルタイムズはフィヨン氏の「移民やイスラム過激派への強硬姿勢は、ルペン氏にとって保守層の支持票が流れやすい手ごわい相手になるだろう」と書きながらも、左派票が取り込めるかどうかに不安があると指摘していたのです。この点は同感でした。 
 
  ところがフランス在住のブロガーのRyoka氏の指摘ではフィヨン氏の方がジュペ氏よりも対国民戦線という点では強いであろう、という見立てです。Ryoka氏によるとフィヨン氏は移民への厳しい政策などによって国民戦線に流れていた右派の票を一定程度取り込むことができ、同時に左派はフィヨン候補に最後は結束して投票するだろう、というのです。 
 
  確かに2015年12月のフランスの地方選を振り返ると、第一回目の投票で国民戦線が第一位に浮上して話題を呼びましたが、決選投票では左派が結束して国民戦線に勝たせない作戦をとり、その結果、国民戦線が惨敗に転じた経緯があります。これは2002年のシラク対ジャン=マリ・ルペン候補のフランス大統領選の決選投票でシラク候補が圧勝したのと同じ動き方でした。Ryoka氏は今回ももしフィヨン対マリーヌ・ルペンの決選投票になった場合、左派は一致してフィヨンを勝たせるだろうと見立てるのです。筆者は今年、労働法改正などの社会党の分裂状態を見た有権者が左派に懐疑を深めて、アメリカの「トランプ現象」に近いことがフランスの労働者にも起きうるのではなかろうか、思ったのです。フランス在住者の視点では外から見た判断とは異なっていたのが興味深く思えます。 
 
  実際に、もしフィヨン対ルペンの決選になったら、左派の人々はフィヨン候補でまとまるのだろうか?とフランス人の知人何人かに率直に尋ねてみました。まずジャーナリストのMehdi Guiraud氏に聞いてみました。 
 
”The result of the election between Juppe and Fillon is better for people against FN. Fillon is more on the right and it's easier to vote for him than Marine Le Pen.Fillon will take more ballots to Le Pen" 
 
「アラン・ジュペ候補とフランソワ・フィヨン候補の選挙結果は国民戦線に反対する人々にとっては良い結果となりました。フィヨンはジュペよりも右寄りであり、マリーヌ・ルペンよりもフィヨンに投票する方が簡単なのです。フィヨンはルペンよりも票を獲得するでしょう」 
 
  そしてMehdi Guiraud氏はこう付け加えました。 
 
”Right now I think so. but there's still the Left primary in January that will decide who is the best candidate. It will for sure create a momentum, not sure it will be enough to undertake the leading position of Le pen and Fillon” 
 
 「目下のところ、私はそう思っています。ただ、まだ社会党など左派連合の予備選が1月に予定されていて、誰がベストかを選びます。その結果、左派にも動きができるはずですが、それがフィヨンとルペンに対して優位な状況まで勢いがつくかはわかりません」 
 
  中道右派の知人に聞いてみると、こんな答えが帰ってきました。 
 
” Francois Fillon is the symbol of a new change. He was elected by the right wing and he might be president in may” 
 
 「フランソワ・フィヨンは新しい変化の象徴です。フィヨンは右派によって予備選を勝ち抜きましたが、来年5月には大統領になる可能性があります」 
 
さらにもう一人、北アフリカからの移民(世俗派イスラム教徒)で中道右派を支持するインテリに聞いてみました。 
 
 ”The French are not racist in their majority, but rather want to keep their Franco-Christian roots. And Fillon reassured a lot of French at this level.Fillon has greatly weakened Marine.Everyone knows that Marine is viscerally and historically racist." 
 
 「フランス人の大多数はレイシストではありません。ただ、キリスト教を軸にしたフランス文化の根っこを維持していたいのです。ですから、フィヨンはフランスの多くの国民にそのことを約束したのです。フィヨンはマリーヌ・ルペンの勢いを大いに削いでいます。みんなマリーヌが本能的にも、歴史的にもレイシストだとわかっているのです」 
 
  彼はこう説明してくれました。では左派はフィヨン候補にみんな決選投票では本当に投票するのだろうかと聞いてみました。 
 
" All is acceptable for the left to beat Marine." 
 
 「左派にとってはマリーヌを破るためなら、どんなことでもありです」 
 
  筆者の数人の友人の反応はこのようにフィヨン候補なら国民戦線のルペン候補を破れるに違いない、という意見でした。といってもこれらの人々が、フランス人のどのくらいの意見を代表しているのか統計的なことはわかりませんが、外国から見ただけでは見えないフィヨン候補の強みがあるのだ、ということはわかりました。アメリカのトランプ旋風があまりにも強烈に脳裏に印象付けられたので、フランスでも同様だろう、と考えがちなのですが、そこは国によって細かく違いを見ていく必要がありそうです。 
 
 
 
■フランス共和党フランソワ・フィヨン氏のインパクト  フィヨン大統領の場合の経済政策とは? 危機が続く欧州経済と緊縮策 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611290849402 
 
■フランス地方選 決選投票 国民戦線、大敗か 投票率の増加が勝敗の鍵を握った模様 2002年大統領選の再来 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201512140934111 
 
■フランス地方選「最大の敗者はサルコジ共和党党首だった」 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201512151349572 


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