2016年12月17日08時51分掲載  無料記事
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【ほん】『新しい日米外交を切り拓く−沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社)が描く日米外交のゆがみ

 いける本大賞(2013年)、石橋湛山賞(2014年)、角川財団学芸賞(2014年)を受賞した『永続敗戦論−戦後日本の核心』(太田出版)において、日本の保守支配層が自発的に“対米従属”を続ける原因を解説した、著者の白井聡さん(京都精華大学専任講師)が「私の本を“理論”編とすれば、この本は“実践”編と言える」と語ったのが本書である。 
 著者であるシンクタンク「新外交イニシアティブ(New Diplomacy Initiative=ND)」事務局長の猿田佐世さん(弁護士)は、本書の中で、日本の政府・経済界などの権力層が、資金提供や人員の派遣等により、米国の政府職員、連邦議員、有力シンクタンクの研究者など米国の政策形成に関与する人々へ継続的に働き掛けることで米国からの外圧を呼び込み、さらにワシントン発のニュースを積極的に報じる日本メディアの特性も利用して、自分たちが望む方向へと政策形成を図るという“対米従属”システムを積極的に利用している実態を、「ワシントンの拡声器効果」と呼んで詳細に説明している。 
 
 NDは、「日米外交が一部の人たちの意見にのみ基づいて行われているのはおかしい。もっと幅広い声を日米相互に運ぶ必要がある」との志を共有するメンバーが、従来の外交では運ばれない声を届ける“新しい外交のチャンネル(パイプ)”を築くことを目的として2013年8月に発足した。 
 日本の外務省と比べてはるかに少ない人員と資金力であるにも関わらず、米政府関係者にロビイングして、米軍の予算を決定する「国防権限法」の条文にあった「辺野古が唯一の選択肢」という文言を削除させるなど、NDは政府機関に引けを取らないほどの成果を上げている。 
 NDの特色は、「訪米コーディネート」活動で垣間見ることができる。これは、米政府関係者に対して自らの要望を直接伝えるためにワシントンを訪問する日本の国会・地方自治体・市民団体関係者から依頼を受けて、猿田さんがワシントン留学中に蓄積した豊富なロビイング経験や人脈をベースに、国内外にいるNDスタッフや支援者が協同して、目的を達成するために効果的な米政府関係者との面談を設定したり、訪米団に同行してワシントン現地でアテンドするといったNDが得意とする活動であるが、本書では、訪米コーディネートの準備段階で、地道かつ体力・精神力を消耗する厳しい作業を要することが紹介されている。 
 “外交”という言葉からは華やかな印象を受けるが、生半可な気持ちでは決して続けられないこと、それだけNDスタッフが熱い思いを持って活動していることが窺えよう。 
 
 それにしても、米国内で対日外交に関心を有し、実際に政策決定過程に影響力を持つ米国人が、猿田さんの調査によると、わずか30人に過ぎないというのは驚きである。 
 そして、彼らを中心に、日本政府関係者らを含む「ワシントンの日本コミュニティ」が形成されていて、そのコミュニティに入っているのは、ND評議員のマイク・モチヅキさん(ジョージ・ワシントン大学教授)の指摘によると、‘米安保同盟を重視する、∧瞳海離▲献◆β席人涼楼茲砲けるプレゼンスの維持を目指す、自由貿易を推進する、という3条件を信奉している者ばかりだそうだ。 
 猿田さんが指摘するように、ワシントンで体感する「日本」がほぼ完璧に一面的になるのは当然の結果だろう。 
 
 なお本書では、小学生の頃に「大人になったら国連で働くんだ」と決めていた女の子が、長じて弁護士の道を歩み、やがて海外NGOの活動に参加して世界を飛び回るに至るなど、猿田さんの人生譚を堪能することもできる。進路選択に直面する学生など、特に若い人たちにお薦めしたい一冊である。(坂本正義) 
 
【著者プロフィール】 
 
 猿田佐世(さるた・さよ) 
 
 新外交イニシアティブ(New Diplomacy Initiative=ND)事務局長。弁護士(日本・ニューヨーク州)。1977年、東京都生まれ。 
 早稲田大学法学部卒業後、タンザニア難民キャンプでのNGO活動などを経て、2002年日本にて弁護士登録。国際人権問題等の弁護士業務を行う。2008年コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。2009年米国ニューヨーク州弁護士登録。2012年アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。2013年にシンクタンク「新外交イニシアティブ」を設立。 
 大学学部時代からアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ等の国際人権団体で活動。ワシントン在住時から現在まで、各外交・政治問題について米議会等で自らロビイングを行うほか、日本の国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。2015年6月の沖縄訪米団、2012年・2014年の二度の稲嶺進名護市長の訪米行動の企画・運営を担当。米議員・米政府面談設定の他、米シンクタンクでのシンポジウム、米国連邦議会における院内集会等を開催。 
 研究課題は日本外交。基地、原発、日米安保体制、TPP等、日米間の各外交テーマに加え、日米外交の「システム」や「意思決定過程」に特に焦点を当てる。 
 共著に『虚像の抑止力』(旬報社)、『日米安保と自衛隊』(岩波書店)など。 
 
 新外交イニシアティブ ウェブサイト http://www.nd-initiative.org/ 


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