2016年12月20日14時20分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

「住民敗訴」の判決が続く  根本行雄

 12月8日、最高裁第一小法廷は、厚木基地(神奈川県大和市、綾瀬市)の周辺住民が米軍機と自衛隊機の飛行差し止めと損害賠償を国に求めた「第4次厚木基地騒音訴訟」の上告審判決で、初めて夜間・早朝の自衛隊機の飛行を禁じた1、2審判決を破棄し、住民側の差し止め請求を棄却した。また、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、国側が沿岸部の埋め立て承認を取り消した翁長雄志(おながたけし)知事の対応を違法と訴えた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷は、判決期日を20日に指定した。高裁判決の結論を見直す際に必要な弁論を開かないため、翁長知事による承認取り消しと国の是正指示に従わない対応をいずれも違法とした福岡高裁那覇支部判決が確定する見込みである。「住民敗訴」の判決が続いているが、わたしたち国民は基本的人権が侵害されているかぎり、いつまでも、いつまでも、闘い続ける。それゆえに、住民の戦いは続く。 
 
 
 
 最高裁において、住民敗訴の判決が続いている。ここから見えてくることは、最高裁の裁判官たちは、日本国憲法は、わたしたち国民に主権があるということを明確にし、基本的人権を平等に保護し、保障しようとするものであることを忘れているということである。そして、わたしたち国民は基本的人権が侵害されているかぎり、いつまでも、いつまでも、闘い続けるのだということを理解していないということである。さらに、最高裁の権威と信頼は彼らが憲法の精神を忘れていることによって確実に失われつつあるということである。 
 
 
□ 厚木基地騒音訴訟 
 
 毎日新聞の島田信幸記者(2016年12月9日)は、厚木基地騒音訴訟について、次のように伝えている。 
 
 
 厚木基地(神奈川県大和市、綾瀬市)の周辺住民が米軍機と自衛隊機の飛行差し止めと損害賠償を国に求めた「第4次厚木基地騒音訴訟」の上告審判決で、最高裁第1小法廷は8日、初めて夜間・早朝の自衛隊機の飛行を禁じた1、2審判決を破棄し、住民側の差し止め請求を棄却した。小池裕裁判長は「自衛隊機を運航させる防衛相に裁量権の逸脱はない」と判断した。飛行差し止めで住民側の逆転敗訴が確定した。 
 
 小法廷は2審が今月末までの将来分の被害に対する損害賠償として約12億円の支払いを認めた部分も「過去の判例に反する」として破棄した。住民側勝訴は2審が認めた過去の被害の賠償82億円だけとなり、過去の騒音被害を金銭で救済する従来の司法判断の枠組みに後退する結果となった。 
 
 裁判官5人全員一致の意見。原告側は「被害継続を放置した判決で到底容認できない。5次訴訟を提訴する」との声明を出した。 
 
 4次訴訟で住民側は、損害賠償を求める民事訴訟と、飛行差し止めを求める行政訴訟を起こした。行政訴訟で最高裁が自衛隊機飛行差し止めの是非を判断するのは初めて。 
 
 小法廷は「原告は騒音により睡眠妨害や精神的苦痛を反復継続的に受け、被害は軽視しがたい」とし、行政訴訟で差し止めを請求できる「重大な損害のおそれ」があると認めた。さらに、防衛相に裁量権の逸脱があるか判断する際は「被害の大きさ、運航の公共・公益性、被害軽減措置の内容などを総合考慮すべきだ」との基準を初めて示した。そのうえで、自衛隊が夜間・早朝の運航を自粛し、防衛省も防音工事などを実施した点を踏まえ「将来にわたり運航が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認めるのは困難で、裁量権の逸脱はない」と結論付けた。 
 
 米軍機差し止めについては「国の行政処分が存在しない」などとして請求を却下した1、2審の判断を支持した。 
 
 
 
□ 辺野古訴訟 
 
 毎日新聞の島田信幸、佐藤敬一記者(2016年12月13日)は、辺野古訴訟について、次のように伝えている。 
 
 
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画を巡り、国側が沿岸部の埋め立て承認を取り消した翁長雄志(おながたけし)知事の対応を違法と訴えた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)は12日、判決期日を20日に指定した。高裁の結論見直しに必要な弁論を開かないため、知事の対応を違法と認め、県側敗訴とした9月の福岡高裁那覇支部判決が確定する見込み。移設問題に大きな影響を与えることになる。 
 
 高裁支部判決は「不合理と認められない限り、知事は国防・外交について国の判断を尊重すべきだ」と指摘。辺野古移設により「騒音や危険が減り県の基地負担が改善される」とした。「移設先は辺野古しかあり得ない」などとする国側主張を全面的に採用し、承認取り消しの撤回を求める国の是正指示に従わない知事の対応を違法とした。 
 
 県側は「移設は米軍基地の負担を固定化させ、憲法が保障する地方自治を侵害する。高裁は行政庁に代わって全面的な審査をしており司法の権限を越えている」と上告していた。 
 
 翁長知事は12日、県庁で記者団に対し「しっかりとした審理を求めていただけに、弁論が開かれないことは極めて残念。確定判決には従うが、これからも辺野古新基地は造らせないという信念をしっかりと持っていく」と述べ、敗訴が確定すれば承認取り消しを撤回する考えを改めて示す一方で、移設阻止の決意も強調した。 
 
 
 
□ 住民の基本的人権は侵害され続けている 
 
 厚木基地周辺では、依然として、住民たちは米軍機と自衛隊機の騒音に苦しめられている。 
 
 毎日新聞(2016年11月1日)は、厚木基地周辺の住民の声を、次のように伝えている。 
 
 原告弁護団は「睡眠障害などの健康被害は金銭では回復できない。2審判決は深刻な被害を解消する第一歩」と強調。原告代表として意見陳述した山口繁美さん(69)は、93年に亡くなった母親が1次訴訟の上告審弁論で意見を述べたことに触れ「爆音にさらされる状況は今も変わらない。飛行差し止めを認め、裁判を終わらせてください」と訴えた。 
 
 
 
 毎日新聞の佐藤敬一記者(2016年11月30日)は、沖縄県警の住民弾圧について、次のように伝えている。 
 
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、移設先に隣接する米軍キャンプ・シュワブのゲート前に大量のコンクリートブロックを積んで工事を妨害したとして、県警は29日、沖縄平和運動センター議長の山城博治容疑者(64)=沖縄市海邦=ら移設反対派4人を威力業務妨害容疑で逮捕した。 
 
 県警は同日、反対派の活動拠点であるシュワブゲート前のテントや那覇市の平和運動センター事務所など数カ所を家宅捜索した。山城容疑者は反対運動を統率しているリーダーで、東村高江周辺のヘリパッド移設工事を巡っても器物損壊や傷害などの容疑で逮捕、起訴されている。 
 
 
 毎日新聞の比嘉洋、蓬田正志記者(2016年12月14日)は、オスプレイの事故について、次のように伝えている。 
 
 米軍の輸送機オスプレイの不時着から一夜明けた14日、現場となった沖縄県名護市安部(あぶ)地区の海岸では米海兵隊と県警が二重に規制線を張って警備し、市民がオスプレイ撤去を求めてシュプレヒコールを上げた。「もし集落に落ちていたら」。住民たちは恐怖におののいた。 
 
 午前10時過ぎ、潮が引くにつれ、大破し、ちりぢりになった灰色の機体が海面から姿を現した。迷彩服姿の海兵隊員らが、浅瀬に散乱した1.5メートル四方ほどの残骸を手作業で浜に引き上げる。米軍が張った規制線の外側で、県警の機動隊員らが別の規制線を張り警備に当たった。その後ろから地元の住民たちが不安そうな表情で作業を見守っていた。 
 
 
 
□ 住民の戦いは続く 
 
 
 「フランス人権宣言」は、次のように宣言をしている。 
 
第1条(自由・権利の平等) 人は、自由、かつ、権利において平等なものとして生まれ、生存する。社会的差別は、共同の利益に基づくものでなければ、設けられない。 
 
第2条(政治的結合の目的と権利の種類) すべての政治的結合の目的は、人の、時効によって消滅することのない自然的な諸権利の保全にある。これらの諸権利とは、自由、所有、安全および圧制への抵抗である。 
 
第3条(国民主権) すべての主権の淵源(えんげん=みなもと)は、本質的に国民にある。いかなる団体も、いかなる個人も、国民から明示的に発しない権威を行使することはできない。 
 
 近代憲法の思想とその精神は、「フランス人権宣言」において明確にされている。 
 日本国憲法は、近代憲法のひとつである。だから、わたしたち国民に主権があるということを明確にし、基本的人権を平等に保護し、保障しようという内容になっている。 
 わが国の最高裁の裁判官たちは、主権が国民にあることを忘れている。現政権に迎合し、私たち国民の基本的人権よりも、治安の維持を最優先させている。しかし、基本的人権を獲得してきた歴史は国民の戦いの歴史である。わたしたち国民は基本的人権が侵害されているかぎり、いつまでも、いつまでも、闘い続けるのだ。 
 
 私たちは知恵をしぼり、知恵をだしあい、力をあわせ、戦いを続けていく。 
 「非暴力直接行動」という戦い方がある。参考文献としては、向井孝著『暴力論ノート』(「黒」発行所)、向井孝著『、エェジャナイカ、花のゲリラ戦記』(径書房)、阿木幸男著『非暴力』(現代書舘)、阿木幸男著『非暴力トレーニング』(野草社)などがある。 
 向井は『暴力論ノート』のなかで、「ラルザック共同体」の活動家であるジョゼ・ボメ氏の新聞記事を紹介している。新聞記事には、「ボメ氏は『合法性より運動の正当性の方が大切』と話した」と書かれている。(60ページ) 
 つい最近、ジーン・シャープの名前を知った。ジーン・シャープ著 瀧口範子訳『独裁体制から民主主義へ』(ちくま学芸文庫)を、これからじっくりと読もうと思っている。 
 闘い方にはさまざまなやりかたがある。唯一の、正しい、闘い方というものはない。私たちは知恵をしぼり、知恵をだしあい、力をあわせ、闘い続けていく。わたしたち国民は基本的人権が侵害されているかぎり、いつまでも、いつまでも、闘い続けるのだ。 


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