2016年12月24日21時27分掲載  無料記事
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教育

子供の無料学習支援の場を訪ねてみた 〜 池袋の“クローバー” 〜 法律事務所の有志が結成 現在は多彩な教育支援ボランティアを擁し、豊島区の他の団体とも連携しながら発展中

   クリスマスも迫った12月21日の夜、池袋にある子供の無料学習支援の場「クローバー」を訪ねました。場所は豊島区内の公共施設です。普段の勉強とは違ってこの日は、クリスマス会というわけで畳の大部屋では小中高の10数人の子供を前にして特別講義が行われていました。大学生がコイルや磁石などの科学実験セットを持参して、電気の実験やマイクとスピーカーの仕組みなど、具体的にモノをいじりながら子供たちに説明しているのです。実を言えば筆者もこんな授業を子供の頃受けたかったな〜、と思いました。 
  この日、出張して教えにきたのは科学実験教室を行なっているNPO法人 サイエンスリンクの赤羽陽祐さん(大学2年)です。出張授業のあと、講師の赤羽さんは「とても充実感があった」と語りました。サイエンスリンクでは依頼を受けて出かけるだけでなく、こうした教育支援の現場に積極的に出向いて活動しているのだそうです。 
 
  この池袋の無料学習支援の場、「クローバー」の内容は次のようになっています。 
 
・週2回の無料学習支援で、寄り添います。 
 
・クローバー(毎週水曜日)、クローバー朋有(毎週木曜日)を開催しています。祝日を除き、夏休みの間も含め、原則通年で開催しています。 
 
・学生ボランティアや、経験のある社会人ボランティアが小中高校生の勉強を見てくれます。 
 
・宿題の手伝い、中間や期末試験の準備、学校や塾でわからないところの復習など何でも聞けます。わからないところは、最初に戻って、丁寧に教えます。 
 
・外国籍のお子さん、日本語の習得が十分ではないお子さんの学習支援にも実績があります。 
 
  会場には学生ボランティアだけでなく、大人も5〜6人ボランティアとして参加しています。2年前から通っている福田正彦さんはTVで子供の貧困を描いたドキュメンタリーを見て「これはまずい」と思い、すぐに活動に参加したそうです。貧困の連鎖を断ち切るためには子供の教育が一番大切と確信したからだそうです。「クローバー」は小学校から高校生まで自由に参加できますが、今中心になっているのが中学3年生です。公立高校に合格したい子が多く、試験対策や面接対策を行っています。去年はクローバーに通った生徒8人が見事全員志願した高校に合格できたそうです。もちろん、子供が教えて欲しいと思うことは科目に関係なく、いつでも子供のリクエストを尊重して教えているのだと言います。どのような子供が通っているのでしょうか、ボランティアの福田さんに聞いてみました。 
 
Q 生活の苦しい家庭のお子さんが多いのでしょうか? 
 
福田「ええ、そういう子供が多いです。たとえば母子家庭の子供で、お母さんがパートとか、バイトの場合ですね。お金が苦しいんです。塾に行けないというだけじゃなくて、高校に合格できたとしても制服が買えないんです。制服や体操服などの一式で2〜3万円。高ければ7万円くらいかかります。そうした場合は別の組織が募金を集め、お母さんを助けるように努力しています」 
 
  クローバーという子供の学習支援の場を立ち上げたのは池袋の「東京パブリック法律事務所」の弁護士と事務員の有志でした。弁護士と言えば勝ち組の代表みたいに一見思われがちですが、「東京パブリック法律事務所」は東京弁護士会が公設した法律事務所です。町の普通の庶民に法律の手を差し伸べることを目的として設立されたのです。スタッフにも子供の貧困問題に強い関心を持つ人が多く、2010年に「クローバー」を運営する母体となる任意団体「子どもサポーターズとしま」を立ち上げました。現在では大学生や大人など多くのボランティアも参加して広がりを見せています。法律関係以外の職業歴を持つ人が参加することは、より広範な子供たちへのアドバイスが可能になることを意味すると思います。 
 
  「子どもサポーターズとしま」の初代代表をつとめた谷口太規弁護士は立ち上げた時の動機をこう書いています。 
 
  「「子どもの貧困」をテーマにしたシンポジウムにちょっとした興味から参加した私たちは大きな衝撃を受けました。部費を払えなくて好きだった野球を辞めざるを得なかった子ども、水道料金の取り立てに対応する時が一番辛いと話す子ども、親が低賃金のため幾つも仕事を掛け持ちしなければならず、宿題を見てくれる人が誰もいないので小学校から勉強がついていけなくなったと話す子ども。私たちは、彼ら彼女らの切実な声を聞きながら、ともかく何かをしなくては、と思いました。」 
 
  現在の代表は東京パブリック法律事務所の中谷拓朗弁護士です。中谷弁護士も2010年に谷口弁護士とともに子供の貧困を巡るシンポジウムに参加し、以来、クローバーの立ち上げや運営に携わっています。中谷氏はその思いをこうつづっています。 
 
  「子ども達の学力低下を防ぎ貧困の連鎖を断つといった目的でスタートしたクローバーですが、子ども達を見ていると、クローバーを一つの「自分の居場所」として捉えてくれていることを実感します。子ども達が色々な事情を抱えながら頑張っている中、一つ居場所ができる(増える)ことで、少しでも背負っているものが軽くなれば、そして、クローバーにいる大人達と接していくことで、子ども達が自らの可能性を信じることにつながっていけばと願っています。」 
 
  クローバーは勉強の手助けだけでなく、家庭環境が落ち着かない子供たちや家庭に居場所が持ちにくい子供たちが安心して過ごせる場にもなっています。つまり、勉強しなくてもそこに来れば友達がいて、大学生やおじさん、おばさんなどのボランティアの人たちが親身になってくれるのです。勉強以外にもいろいろ質問したいこともあるのかもしれません。12月21日のクリスマス会では理科の特別授業を終えた子供たちはケーキをボランティアの人たちと一緒に作っていました。既製品を切って食べるだけではなくて、ケーキにクリームを塗り、フルーツ缶詰を開けてそれも載せていきます。「みんなクリームは全部使い切ってね、残してもしょうがないからね〜」とボランティアの男性が大きな声で子供たちに話しています。なるほど、単にケーキをもらうより、10倍楽しいひと時になっていることがよくわかりました。 
 
  中谷弁護士はもっと早く子供たちに参加して欲しいと思っていました。 
 「今は中心が中学3年生になっていて、受験対策が中心ですが、本当はもっと早い段階で子供たちにクローバーに来て欲しいです。もっと早く学習支援を始められたら、受験指導だけじゃなくて基礎から勉強を積み上げていけるのです」 
 
   生活保護を受けている家庭を回る子ども・若者支援員がクローバーを家族に紹介したり、ボランティアの人々が地域でクローバーを紹介するチラシを配ったりしているそうです。まだまだこうした場があることを知らない家族もいるのです。「子どもサポーターズとしま」はNPO「豊島区wakuwakuネットワーク」や、「としま子ども学習支援ネットワーク(とこネット)」といった豊島区の団体と協力しています。法律事務所の有志で起こした子供の貧困対策が今、地域で着実に広がってきています。しかし、そうした取り組みの大切さもさることながら、貧困家庭が生まれない経済の仕組みを社会全体で築いていく必要があります。 
 
 
※無料学習支援 クローバー  by 子どもサポーターズとしま 
http://clovertoshima.wixsite.com/toshimaku-clover 
 
 
村上良太 
 
 
■地域の子供に無料の作文教育を 子供の教育を変えたサンフランシスコの ”826 Valencia” 
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