2016年12月29日14時05分掲載  無料記事
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米国

トランプ大統領就任時の抗議デモ呼びかけが急速に拡大している

急速に、大統領就任時の抗議デモ呼びかけが拡がりをみせてきたように感じます。オバマ就任のときには、大きな期待を抱いた聴衆が就任式典に参加し、国民統合のお手本のような雰囲気になった。隔世の感があります。抗議デモは場合によっては就任式祝賀で集まる人たちを上回る可能性もあるようです。(小倉利丸) 
 
ぼくは、米国の大統領への絶大な信頼という神話は揺らいでないのではと思い、選挙という、とりあえずの形式的な民主主義の手続きを踏んで当選した大統領なのだから、いかに納得のいかない人物であれ、仕方無く受け入れるということになるのかなあと漠然と考えていましたが、選挙結果が判明した直後から連日の街頭での抗議行動はかなり大規模でしたし、こうした動きは、既成政党の枠を明かに越えた動きとして顕著でした。 
 
就任式当日の抗議デモも場合によっては就任式祝賀で集まる人たちを上回る可能性もある。こうなると、イベントが本来もつべき権威の正統性を具体的に表現する場所としての儀礼効果が発揮できなくなる。儀礼の場の政治は、たかが「形式」と思われがちだけれども、実は、その場に全ての人びとが、かつての敵も味方も一つになって、過去の経緯を棚上げして、新しい国家の元首のもとで意思を統一するナショナルなアイデンティティの確認の儀式という重要な政治効果をもっています。これで選挙という「戦争」は終止符を打たれて敗北者は勝者を受け入れ、勝者は敗北者を赦すという儀式になる。お国のために敵対関係をご破算にするというわけです。儀礼は民主主義が政治的な統合として機能する上で不可欠なものです。もしかするとこれが破綻するかもしれない。 
 
就任式をサポートする米軍のトップは抗議デモが就任式のパレードに与える影響を最も危惧すべきことだと述べています。 
https://mic.com/articles/163466/inauguration-day-2017-protest-latest-updates-and-everything-else-you-need-to-know#.t5cfRRTSj 
 
就任式では、議事堂からペンシルベニア通りをホワイトハウスまでパレードを行い、式典が終了する。パレードではジミー・カーターの大統領就任式から、途中で車を降りて徒歩で移動するのが慣例(wikipedia)とのこと。現在のところ、このデモコースの歩道は抗議する者たちにも「開放open」されているとロイターは伝えています。トランプは車を降りて歩くことができないかもしれない。逆に、デモは歩道から排除されるとしても、規模がおおきくなれば、デモ参加者を完全に警察がコントロールすることは困難だろう。現在でもデモのための公園使用の許可がおりていないことなど問題が次々にでているようです。 
http://www.reuters.com/article/us-usa-trump-inauguration-idUSKBN13W2HQ 
 
就任式への異議申し立ては、大統領の正統性が揺らいでいることであり、米国が誇ってきた「民主主義」そのものへの懐疑につながっていることだと思います。そして、もはや民主、共和という伝統的な米国政治の枠に収まらない大衆的な政治意識がかなり確固としたものとして定着しつつあるということかもしれません。これは公民権運動やベトナム反戦運動以来のことといえるかもしれない。とくに、女性、エスニックマイノリティ、移民たちが権力の民主主義的な手続きそのものの欺瞞を、理屈ではなくて、感覚として、実感として感じるところにまできている証しだと思います。 
 
反トランプの側にとっては、米国の異議申し立て運動が持続的にどのようにしてトランプを追い詰めうるのか、ということでしょう。トランプが簡単に権力の座を放り出すことはないでしょうが、就任式典が想定外の抗議に直面することは避けらず、権力の正統性にケチがつくことは大いに考えられます。警察の規制強化は、たとえ秩序が保たれたかのように演出されたとしても、それ自体が、大統領の国家統合の象徴効果の脆弱性を示す結果になる。長い闘いになるでしょうが、市民的自由はますます抑圧の危機に晒されるとすれば、同じことは、別の形をとって、この国の脆弱な市民的自由の権利の危機として波及することは間違いないようにも思います。 
 
ぼくは民主主義という意思決定が、長い歴史を経るなかで、討議を通じて何が正しい政治的な選択なのかを合理的に(誰もが納得できる理屈として)確認するというそもそもの大前提(あるいは教科書的な民主主義の定義)がもはや破綻していると考えてきました。民主主義の歴史は、こうした大前提を、政治の権力をめぐる闘争の当事者たちは自ら否定して、討議とは、理屈はどうあれ「多数」を獲得するための手段であり、権力を獲得するための原則なき妥協と理不尽な排除や独断をあたかも合理的で正しいことであるかのように装う言論技術ばかりが発達するという結果をまねいたものだと思います。これは国民国家という権力と民主主義が結び付く限り本質 
的に備わる避けがたい限界なのだと思います。 
 
こうした限界が米国でも、そして西欧諸国でも見られるようになっていて、その現われは、多様ですが、既存の権力や政治への根源的な懐疑が大衆的な感情として表出することが繰り返されているようにおもいます。こうした懐疑を、いわゆる世俗的な左翼が自らの自己批判も含めて受けとめて、オルタナティブを提起することが必ずしもうまくできていないようにも思います。私たちが、当然のこととして信頼を寄せてきた権力を正統化する仕組みや組織、意思決定のありかた、あるいは憲法も含めた法と主権者の関係などが、本当に私たちの平和と生存の権利に寄与しているのかを再検証する時期にきているのではと思います。 
 
デモについては 
DisruptJ20 
http://www.disruptj20.org/ 
 
ANSWER 
http://www.answercoalition.org/protest_against_trump_on_inauguration_day_fight_racism_defend_immigrants 
 
WOMEN'S MARCH ON WASHINGTON 
https://www.womensmarch.com/ 
 
など。他にも様々あるようです。 
 
11月にFOXnewsがANSWER(Act Now to Stop War & End Racism)が抗議デモを計画していると報じていました。 
http://www.foxnews.com/politics/2016/11/13/massive-anti-trump-protests-planned-for-inauguration-day-police-on-alert.html 
 
ニューヨークタイムスも27日付で抗議デモを報じています。 
http://www.nytimes.com/2016/12/27/us/politics/donald-trump-inauguration-security.html?_r=0 
 
マイケル・ムーアは言うまでもなく抗議デモ支援を表明。(ローリングストーン誌) 
http://www.rollingstone.com/politics/news/michael-moore-to-help-lead-trump-inauguration-protest-w455045 
 
他方で、ワシントンタイムズは数千人のオートバイのバイカーたちがトランプ就任式警備の支援で集ると伝えています。 
Bikers for Trump secure space for inauguration amid several planned protests 
 
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日経2016/12/27 23:24 
トランプ大統領就任式、数十万人規模のデモ計画 
人権団体など 
 
 【ワシントン=共同】米首都ワシントンで来年1月20日に行われるトランプ氏の大統領就任式に合わせ、人権団体などが数十万人規模のデモを計画している。参加者は計100万人に上るとの見方もあり、警備当局は大統領就任への抗議活動では過去最大級になる可能性があると警戒。トランプ氏支持団体も首都に集まるとされ、反対派との衝突を懸念する声もある。 


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