2017年02月02日15時25分掲載  無料記事
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教育

「いじめ」というコトバを使うな  根本行雄

 東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学1年の男子生徒(13)のいじめ問題で、横浜市の岡田優子教育長が「金銭授受のいじめ認定は困難」と発言したことについて、林文子市長は1月25日の定例記者会見で「子どもに寄り添っていない。申し訳ない」と陳謝した。岡田教育長は20日の市議会常任委員会で「関係児童らへの学校側の聞き取りによれば、いじめと判断できない」と述べ、生徒側が23日、撤回するよう申し入れていた。市教委によると、岡田教育長の発言に対して「見識を疑う」などとした苦情の電話が、23日から25日までに200件以上、担当課に寄せられたという。学校は「いじめ」の温床だ。「いじめ」というコトバを使うことで、人権に対する感覚が鈍くなっている。安倍政治のもとで、多くの人々の人権感覚はどんどん鈍くなっている。 
 
 
 
 
 子どもたちにとって、学校で学ぶことは「権利」であって義務ではない。「いじめ」があり、学校へ行くことが苦痛であるならば、無理をして学校へ行く必要はない。私たちが生きていくうえで必要不可欠な能力である、いわゆる「読み書きそろばん」は学校へ行かなくても学ぶことはできる。「自殺」という問題解決の方法はすぐれているとは言えない。 
 
 
 毎日新聞(2016年11月17日)の水戸健一記者は「横浜・避難生徒いじめ 「被害150万円」学校動かず」という見出しの記事を書いている。 
 
 
 福島の原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中1男子生徒のいじめ問題を巡り、当時通っていた小学校や横浜市教育委員会が、神奈川県警の調べで金銭トラブルの被害総額が約150万円に上ることを把握していたのに、積極的に対応していなかったことが分かった。保護者は県警から伝えられた被害総額を学校、市教委に伝えていた。 
 
 生徒側の代理人などによると保護者は2014年7月、県警に同級生から金銭を要求されたことを相談。県警がゲームセンターの防犯カメラ映像などを調べたところ、加害者側が1回あたり10万円単位の金銭を浪費していたことが分かった。 
 
 生徒が要求された金銭は交通費や飲食費、遊興費に使われた。当初は1回5万円ほどだったが、次第に増え、最終的に合計額は約150万円に上った。金銭は加害者側に「(原発事故の)賠償金があるだろ」などと言われ要求されたが、生徒は保護者に打ち明けられず、生活費を持ち出していたという。 
 
 生徒は同年6月に2度目の不登校になっており、保護者は県警の調査結果を学校、市教委に伝えたが、学校側はいじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」とは捉えず、問題を放置していた。 
 
 市教委は15日の記者会見で金銭トラブルに触れ、岡田優子教育長が「不登校が始まって1カ月以上が経過し、金品の問題が持ち上がり、重大事案と認識すべきだった」と釈明。放置していた認識の有無を問われて「ある」と回答していた。 
 
 市教委の第三者委員会は「万単位の金銭のやり取りを把握しながら『おごった』側、『おごられた』側への十分な指導が行われた形跡が認められない」と学校と市教委を批判した。 
 
 □ 「いじめ」というコトバを使うのをやめよう 
 
 「いじめ」というコトバを使うことで、私たちの人権に対する感覚が鈍くなっている。 
 
 子ども同士の人間関係、コミュニケーション関係における、「ふざけ」と「いじめ」とは区別はむずかしい。しかし、集団としておこなわれる「いじめ」は区別しやすいものだ。 
 
 集団は集団を維持するために、「仲間はずれ」、「悪口」、「陰口」などの「いじめ」を利用し、集団の求心力を維持し、拡大する。 
 
 
 集団が行なう「いじめ」には犯罪である場合が多い。「いじめ」というコトバは、犯罪であるものを「いじめ」とみなしがちである。それは特に学校という「閉鎖社会」において多発している。すでに、学校は「いじめ」の温床となっている。 
 使い走り(パシリ)をさせたり、「物を隠す」、「第三者の物を隠し、被害者に罪をなすりつける」、「交換日記で悪口を書く」、「机に花を置き、死亡したことにする」、「被害者の名前を隠語にして被害者が聞きかえしても別人のことをしゃべっているふりをする」といった「いじめ」もあり、シカト(無視、仲間外れ)するなどの「いじめ」がある。 
 
 「いじめ」問題の解決には、子どもの自主性に任せて解決すべきもの、教師が積極的に関与して解決すべきもの、警察へ通報または弁護士に相談するなど司法の介入によって解決すべきものの3種類があると言えよう。 
 
 学校も、マスコミも、大人たちの多くも、「いじめ」というコトバを使うことによって「人権侵害」や「犯罪」を見のがしている。「いじめ」の多くは、一般社会においては「犯罪」である。そういう明確な視点を持たなければならないだろう。そういう場合には、「いじめ」というコトバを使わずに、罪名を明らかにすべきだろう。 
 インターネットやスマホやSNSなどを利用した「誹謗中傷」は「名誉毀損罪」や「侮辱罪」である。 
 暴力を加えるのは「暴行罪」、「傷害罪」である。窃盗などの犯罪行為への強制や勧誘なども犯罪である。また、金銭や金品を要求し取得する行為は「恐喝罪」である。 
 
 今回の事件では、経済的収入のない中学生が多額の金銭を要求され支払っていることを「おごる、おごられる」関係と誤認している。子どもに5万円や10万円などいう多額の金銭の授受があること事態が異常だという認識というか感覚がない人物は「教育」に携わる資質に欠けていると言わざるを得ない。 
 
 安倍内閣のやっている政治は戦争へとつづくものであり、国民を監視し支配する政治をめざすものである。学校もまた、その影響を受けている。横浜市の事例は氷山の一角である。日本各地に、「教育」に携わる資質のない人物たちが教育の現場に横行しており、教育行政を担当している。日本という「国」はすでに「いじめ」社会になっている。 
 
 私たちの多くは「いじめ」というコトバを使うことによって「人権侵害」や「犯罪」を見のがしている。「いじめ」というコトバを使うことに慎重になろう。できるだけ「いじめ」というコトバを使うのはやめよう。「いじめ」の多くは、社会的には「犯罪」である。そういう明確な視点を持たなければならない。安倍内閣のすすめている政治は基本的人権を尊重し、擁護することよりも、治安維持を最優先する政治だ。それは戦争へ続く道である。 
 
 
 「世界人権宣言」の前文には、 
「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、 
 人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言されたので、 
 人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権保護することが肝要であるので」と明記されている。 
 
 わたしたちは人権感覚を鈍くさせないように気をつけなくてはならない。安倍政治にどっぷりと漬かっている間に「ゆでカエル」にならないように注意しなくてはならない。すでに、「戦争」へと続く道を踏み出しているのだから。 


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