2017年02月05日13時18分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

GPS捜査、警察庁は憲法を遵守せよ  根本行雄

 関係者によると、窃盗罪などに問われた男の公判で、東京地裁が昨年11月、弁護側の請求に基づき検察側に「保秘の徹底」項目の開示を命じた。警察庁がGPS捜査の実施状況について「文書管理などを含め保秘を徹底する」と明記し、容疑者の取り調べでGPSを用いたことを明らかにしない▽捜査書類にはGPSの存在を推知させる記載をしない▽事件広報の際はGPS捜査を実施したことを公にしない−−との3項目に特に留意するよう記していたことが分かった。捜査書類への記載がなければ裁判所や弁護人らによるチェックをすることはできなくなり、恣意的な捜査につながる。近代憲法は権力が捜査にあたって人権侵害を防ぐことを目指している。日本の警察は人権ばかりでなく、憲法もを軽視している。このような機関が治安維持を担当していれば権力は容易に暴走する。 
 
 
 
 毎日新聞(2017年2月1日)の島田信幸、近松仁太郎両記者は「警察庁 GPS捜査、秘密裏指示 06年通達 書類に不記載徹底」という見出しの記事を書いている。 
 
 
 捜査対象者の車などにGPS(全地球測位システム)発信器を付けて居場所を把握する捜査について、警察庁が2006年6月に全国の警察に通達した運用要領で、実施状況を容疑者側に伝えず、捜査書類にも記載しないなどと明記し、秘密保持の徹底を求めていたことが分かった。捜査書類への記載がなければ裁判所や弁護人らによるチェックを妨げることになり、恣意(しい)的な捜査につながることが懸念される。 
 
 GPSを使った捜査について警察庁は裁判所の令状の必要がない任意捜査と位置付けてきた。06年の通達はGPS捜査の「目的」「使用要件」「使用手続き」などをまとめたものだが、同庁は捜査に支障が出るとして多くの内容を非公開としていた。通達に「保秘の徹底」の項目があることなどは明らかになっていたが、全容は判明していなかった。 
 
 関係者によると、窃盗罪などに問われた男の公判で、東京地裁が昨年11月、弁護側の請求に基づき検察側に「保秘の徹底」項目の開示を命じた。警察庁がGPS捜査の実施状況について「文書管理などを含め保秘を徹底する」と明記し、容疑者の取り調べでGPSを用いたことを明らかにしない▽捜査書類にはGPSの存在を推知させる記載をしない▽事件広報の際はGPS捜査を実施したことを公にしない−−との3項目に特に留意するよう記していたことが分かった。 
 
 警察庁は「GPS捜査の具体的方法を推知させることで犯罪を企てる者に対抗措置を講じられる恐れがある。通達内容は最高裁判決を踏まえ適切に検討していきたい」とコメントした。 
 
 令状のないGPS捜査についてはプライバシー侵害を理由に名古屋高裁が「違法」としたが、合法とする高裁判決もあり、判断が分かれている。最高裁大法廷は今春にも初めて統一判断を示す見通し。 
 
 
 
□ 近代憲法の基本精神 
 
 近代憲法の基本精神の一つは、法の支配(rule of law)である。 
 
 専断的な国家権力の支配や、圧制者や独裁者の支配を排除し、全ての統治権力を法で拘束することによって、被治者である市民の権利や自由を保障することを目的とするものである。これは立憲主義に基づく原理であり、自由主義、民主主義とも密接に結びついているものである。 
 
 それゆえに、近代憲法は権力者および権力機関が捜査にあたって人権侵害を防ぐことを目指している。その代表例が「違法収集証拠排除法則」である。 
 この法則は、警察や検察などの捜査活動において証拠の収集手続が違法であったとき、公判手続上の事実認定においてその証拠能力を否定する刑事訴訟上の法理であり、排除法則とも呼ばれているものである。簡単に説明すれば、違法に収集された証拠は裁判においては「証拠」にならないということである。 
 
 供述証拠に関しては強制等による自白の証拠能力を否定する規定がある。(日本国憲法第38条2項 、刑事訴訟法319条1項)がある。これに対して違法に収集された非供述証拠の証拠能力に関する明文規定はないが、排除法則は判例によって採用されている。日本は、英米諸国に較べると、「違法収集排除法則」の適用が甘い。「人権の擁護」よりも「治安維持」を優先する裁判官や司法関係者が多いからだろう。 
 
 憲法31条は適正手続の保障を定めている。これは同時に、人身の自由についての基本原則とされ、公権力を手続的に拘束し、人権を手続的に保障することを目的とした条文であるとされている。 
 憲法35条は令状主義をその趣旨とし、裁判官による令状がなければ、住居、書類および所持品について侵入、捜索および押収を受けることはない旨を保障している。 
 
 
 さらに、「罪刑法定主義」がある。「罪刑法定主義」とは、ある行為を犯罪として処罰するためには、立法府が制定する法令(議会制定法を中心とする法体系)において、犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を予め、明確に規定しておかなければならないとする原則のことである。だから、「法の不遡及」とか、「遡及処罰の禁止」と呼ばれるものがある。実行時に適法であった行為を、事後に定めた法令によって遡って違法として処罰すること、ないし、実行時よりも後に定めた法令によってより厳しい罰に処すことを禁止するものである。 
 
 また、「デュー・プロセス・オブ・ロー( due process of law)」という考え方があり、「法に基づく適正手続の保障」と日本語訳されている。 
 
 刑罰を受ける際に、その手続きが法律に則ったものでなければならない。また、その法の実体も適正であることが要求される。罪刑法定主義と並ぶ、刑事法の大原則である。 
 
 
 
□ 警察庁は憲法を遵守せよ 
 
 このような近代憲法の精神を想起してみるならば、今回の、警察庁が「2006年6月に全国の警察に通達した運用要領で、実施状況を容疑者側に伝えず、捜査書類にも記載しないなどと明記し、秘密保持の徹底を求めていた」ことは、憲法の精神を理解しない、脱法行為であるかがあきらかであろう。 
 
 警察庁は、容疑者の取り調べでGPSを用いたことを明らかにせよ。捜査書類にはGPSの存在を推知させる記載をせよ。事件広報の際はGPS捜査を実施したことを公にせよ。この3項目について、捜査書類への記載がなければ裁判所は被疑者を釈放し、起訴を棄却せよ。このような警察庁の法律の軽視や無視を放置すれば、権力は必ず暴走するようになる。裁判所は厳しい目で警察や検察の違法捜査を排除せよ。 
 
 近年、企業活動において、「コンプライアンス」ということばや考え方がしばしば使われるようになっている。日本においては、総理大臣や閣僚をはじめてとして、憲法を軽視している現状がこのような警察庁の体質を生んでいる。わたしたたち市民は権力が暴走しないように、つねに監視していなければならない。それが近代市民の義務であり、責務である。 


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