2017年02月07日21時11分掲載  無料記事
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クリスティン・ムンジウ 監督 『エリザのために』 社会主義体制というルーマニアの一つの真実  笠原真弓

 ルーマニアの何を知っているだろうか。体操選手のコマネチの他は、1989年の社会主義体制下の独裁者チャウシェスクの失脚と処刑くらいだ。その歴史的評価は、いろいろ言われているようだが、いまだに力による政治から完に全脱却していないようである 
観た後に面白かった、よかったという言葉と共にたいして残らない映画がある中で、この作品は時間と共に各場面が思い出され、気になり、ぼそぼそと周りの人と話したくなった。「社会体制と、人が生きることとは」と考えさせられる。 
 
 カンヌ映画祭本作を含め、3回の監督賞を受けたクリスティン・ムンジウ監督の、緻密で現実に即した作り方の底力を感じさせるのだ。 
 
 現代の5日間の物語は、その後の市民生活の一端を見せてくれると同時に、どこの国でも変わらない親の子を思う深い愛情を思い出させてくれる。社会体制が不安定で国外に逃避していた医師の夫婦が、国内が安定したからと戻ってきた。ところがそこには、表向きとは違う裏社会があり、みんながその隙間を縫うように「うまく」立ち回って生きている。 
 
 その裏社会とは、普通に考えれば「お金と権力がものいう」と思うのだが、ここは違う。コネに近いがもう少し濃く、「恩」という方がふさわしい。「あの時あれをしてくれた」「便宜を図ってくれたから」「口添えしてくれた」そのお礼に頼まれたことをしてあげる、なのである。 
 
 この映画は、少しでも今の生活を何とかしたいという庶民のささやかな願いを通して、社会の矛盾を私たちに見せていく。それは決して声高に叫ぶでもなく、押えた色調の中で描きだしていく。 
 
 友だちやそのつながりを利用しなければスムーズに暮らせないこの国で、かわいい一人娘エリザがどうやって泳いでいくのか。心配のあまり、高校を卒業したらイギリスへ留学させ、実力で好きなことをさせたいと計画している。エリザは卒業試験を間近に控えたある日、暴漢に襲われる。ここから5日間の「父の奔走」がはじまるのだが、裏取引を盗聴器までつけて取り締まる警察に目をつけられながらも無事卒業式を迎える。その時の娘が父親に言った一言が、子どもも社会の価値観の中でたくましく育つと改めて認識した。 
 
監督・脚本:クリスティン・ムンジウ  125分 
 
●シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪、名古屋で上映中。全国順次公開  写真はHPより 
公式HP:http://www.finefilms.co.jp/eliza/ 


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