2017年02月11日18時29分掲載  無料記事
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コラム

テロ等準備罪(共謀罪)の可能性

  共謀罪の最新バージョンとして名前を変えて登場してきたテロ等準備罪は、細かい箇所は変わってもその危険な本質は変わっていないようだ。日本弁護士連合会が昨年8月の時点で反対声明を出した時、その声明の中で法務省が対象犯罪をいかに絞るとはいえ、その危険性や不要さについてこう述べている。 
 
  <「組織的犯罪集団」を明確に定義することは困難であり、「準備行為」についても、例えばATМからの預金引き出しなど、予備罪・準備罪における予備・準備行為より前の段階の危険性の乏しい行為を幅広く含み得るものであり、その適用範囲が十分に限定されたと見ることはできない。> 
 
  とにかく、まだ犯罪とはとうてい言えない段階で逮捕できることができるようになる点だ。これは自白の偏重とともに、冤罪を増やすことになるだろう。 
 
  <対象犯罪の越境性(国境を越えて実行される性格)を要件としていたところ、提出予定新法案は、越境性を要件としていない。条約上、越境性を要件とすることができるかどうかは当連合会と政府の間に意見の相違があるが、条約はそもそも越境組織犯罪を抑止することを目的としたものであり、共謀罪の対象犯罪を限定するためにも、越境性の要件を除外したものは認められるべきではない。> 
 
  さらに、もともと国際条約のために国内法を整備する必要から導入する、ということで法案が作られたが、国境を越えて起こされる犯罪を取り締まる当初の目的を逸脱した広範な範囲の国内犯罪を射程に入れている、ということである。これは民進党が行った法務省への聞き取りの時に明らかになったことだが、この条約を締結した国のほとんどはわざわざこのような新法を導入していない。 
 
  こういったことに加えて、いわゆる共謀罪の本質は何といっても組織を取り締まることが本質であることだ。組織で犯罪行為が話し合われた、というだけであとは何らかの予備行為があれば犯罪の構成要件を満たすものである。この予備行為がどこまで犯罪と密接した行為を要件とするのか未だ明確ではないらしい。しかし、考えられることは仮に100人の組織があったとして、そこで共謀があったとすれば、その中の1人が予備行為をしたら、100人全員が逮捕可能になるのではないか、ということである。そして、その予備行為なるものがコンビニのATMで預金を引き出しただけでも予備行為になるとすれば恐ろしいことである。 
 
  この共謀罪がどのようなケースに適用されるかは未知数だが、沖縄の基地反対闘争とか、国会前での安保法制反対デモを行っているような「組織」に対しても、一気に組織を丸ごと根こそぎ一網打尽にできる可能性がある法案である。何か具体的に犯行を起こした、デモの誰かが線を越えた、というような個々人を逮捕するだけでなく、組織全員を逮捕できる可能性があるのである。 
 
  この共謀罪を考えた場合、アメリカで頻繁に行われている司法取引が日本でも導入されるケースを想像してみたい。もしある組織に警察当局と通じた人物Aさんが潜入したとする。もしAさんが組織の中で共謀的な話を振ってみんなで話し合う場を作ったとして、その場合に組織の誰かの行為が「予備行為」とされて共謀罪(テロ等準備罪)が適用されたとしよう。この場合、Aさんも無論、共謀罪で逮捕されるはずだが、Aさんが事の起こりからすべてを自白する、ということで司法取引をしてAさんは罪が問われない、というような事例は起こりえないと言えるだろうか。つまり、ある組織を当局が一網打尽にしたい場合にこのような作戦を取る可能性はないか、ということである。この場合、共謀というものも居酒屋の冗談半分のような話ですら、重大な陰謀とされる可能性はないのだろうか。いずれにしてももしこのようなことがあったとすればAさんは実際に話し合われたこと以上のことまで自白するかもしれない。 
 
  もちろん、日本の警察や司法がこのような手を使うとは考えたくない。これは単なる想像に過ぎない。とはいえ、法案を考える時、私たち市民はそれが孕む最悪の可能性、というものも想定するべきなのである。 


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