2017年02月23日04時21分掲載  無料記事
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政治

報道機関もテロ等準備罪(共謀罪)の対象となりえる 報道を萎縮させる拷問と自白のセット = 改憲案では「拷問の絶対禁止」が欠落

  国会答弁で法務大臣がテロ等準備罪(共謀罪)に関して一般市民も対象となりうると説明したことは記憶に新しいところです。 
 
「犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」の要件を変え、「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり、法務省は16日、「正当に活動する団体が犯罪を行う団体に一変したと認められる場合は、処罰の対象になる」との見解を明らかにした。これまで政府は、「一般の市民は対象にならない」としてきたが、捜査当局の解釈や裁量によっては対象になることが明らかになった。」(朝日) 
 
  市民組織であってもいつでもテロを行いうるから、テロ組織になりえるから、という判断でした。ということは、つまりは労働組合や政治活動をしている市民組織だけでなく、報道機関も対象になりえます。 
http://www.asahi.com/articles/ASK2J573WK2JUTIL02M.html 
  戦前・戦時中に政府に抵抗する者を一網打尽にした治安維持法は今回のテロ等準備罪がモデルにしている法律と言えると思います。その実例は戦前の治安維持法の歴史の1つ、横浜事件のケースを見れば明らかです。 
 
  悪名高い横浜事件は<1942年、総合雑誌『改造』(8-9月号)に掲載された細川嘉六の論文「世界史の動向と日本」が、「共産主義的でソ連を賛美し、政府のアジア政策を批判するもの」などとして問題となり、『改造』は発売頒布禁止処分にされた。そして9月14日に細川が新聞紙法違反の容疑で逮捕された>(ウィキペディア) 
 
  これは新聞紙法違反とされていますが、事はこれだけでおさまらず、この「改造」に掲載された論文での逮捕をきっかけに、治安維持法によって出版人・ジャーナリストが一網打尽にされていきました。要するに1つの出版社に限定されず、会社を越境して次々と逮捕されていったのです。 
 
  <1943年に改造社と中央公論社をはじめ、朝日新聞社、岩波書店、満鉄調査部などに所属する関係者約60人が次々に治安維持法違反容疑で逮捕され、神奈川県警察特別高等課(特高)は被疑者を革や竹刀で殴打して失神すると気付けにバケツの水をかけるなど激しい拷問をおこない、4人が獄死(神奈川県警察の管轄事件であったために横浜事件と呼ばれるようになった)。『改造』『中央公論』も廃刊となった。>(ウィキペディア) 
 
  治安維持法では自白が重要なため、拷問が行われました。治安維持法の焼き直しであるテロ等準備罪(共謀罪)でも、同じことが起きる可能性があります。その証拠に、自民党改憲案が拷問の禁止に関して言葉を弱めていることも気になるところです。 
 
<自民党が目指す憲法改正については、9条改定による「自衛権」の明記や「国防軍の創設」、そして96条での憲法改正の提案要件の緩和などが注目されているが、それ以外にも私たちにとって非常に重要なポイントがいくつもある。36条の「拷問及び残虐な刑の禁止」の改正案もその一つだ。現行憲法では「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」となっているが、自民党の改正草案では「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、禁止する」となっている。ポイントは「絶対に」という言葉が外された点。>(ハフィントンポスト) 
http://www.huffingtonpost.jp/2013/06/19/constitution_n_3466229.html 
  「絶対に」という言葉をあえて削るということは一定の条件では拷問を許容しよう、という意図があるからですね。 
 
  さらに恐るべきことがあります。今年大統領に就任したトランプ大統領が「テロ」対策では拷問を可能にする方向に動いていることです。アメリカとテロとの戦いを共同で進める日本でも追随する可能性はあると思います。 
 
 <違法な拷問だとして各方面から激しい非難を浴び、ジョージ・W・ブッシュ政権の時代まで採用されていた尋問手法、水責め。ドナルド・トランプ大統領はこの水責めを復活させたいと主張している。トランプ大統領は25日、ABCニュースのインタビューに答え、「拷問は間違いなく効果的で有用だと考えている。なぜならアメリカはテロ組織と同じ土俵で戦っていないからだ」と述べた。>(ハフィントンポスト) 
http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/26/trump_n_14412718.html 
  アメリカはオバマ政権のもとで「テロとの戦い」のために自国民の暗殺も行っていました。要するに「テロとの戦い」であれば政府による非情な行為も許される可能性があるのです。オバマ政権下では一応、建前と本音を分けていましたが、トランプ大統領はハフィントンポストによると「拷問は間違いなく効果的で有用だと考えている。なぜならアメリカはテロ組織と同じ土俵で戦っていないからだ」と述べており、表も裏も拷問の肯定に乗り出しているようです。政治権力を有する公的機関が合法的に拷問を行うことが可能になれば恐ろしいことです。 
 
  この「テロ」に関して、日本では特定秘密保護法の立法の時にテロの定義が書かれました。それに基づけば政府に反対する運動もテロ行為として認定される可能性があります。その際のテロの定義は次のような驚くべきものでした。 
 
「テロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。」(特定秘密の保護に関する法律 平成25年) 
 
  驚いたことに「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し」というだけでもテロとみなされ得るのです。憲法で保障された思想や表現の自由は侵されていないのでしょうか。しかし、このようなケースの取り調べで、公務員による拷問が許容される可能性が今、出てきていると思います。 
 
  自民党が行っている改正は一見、小さなものに見えて、それらは組み合わさることで市民の自由を奪う、強靭な支配力を発揮することになり得ます。これらを可能にする打ち出の小槌が「テロ」という便利な言葉です。「テロ」対策だと言えば国民はなんでも理解してくれる、という計算があるからです。しかし、その法案のタイトルにあるようにテロのあとに「等」という対象を無限大に広げる言葉が使われていることが肝心です。政府に統制された中国のジャーナリズムを笑えなくなる日がそこまで来ています。 
 
 
■トランプ大統領「水責めの拷問復活だ」 
http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/26/trump_n_14412718.html 
 
■第31回憲法を考える映画の会 映画『横浜事件に生きて』1990年制作・58分  / 映画『横浜事件 半世紀の問い』1999年制作・35分  治安維持法 の再来、共謀罪法案を考える 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701260111154 
 
■平成の治安維持法・共謀罪法案の国会提出に反対しよう!  弁護士・海渡雄一 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701171435452 
 
■テロ等準備罪(共謀罪)の可能性 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702111829216 
 
■共謀罪法案の核心は逮捕の要件を危険性の有無(現実の危険性)から動機の有無(主観)の方に刑法の重心を移すことではなかろうか 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701180724343 


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