2017年03月11日21時59分掲載  無料記事
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欧州

スロバキア:ロマの子どもたちを苦しめる分離教育

アムネスティ・インターナショナルと欧州ロマ権利センターの合同調査で、スロバキアでは、ロマの子どもたちに対して差別的な教育が行われていることが明かになった。ロマは他の子どもとは別の学校や教室で、質の低い教育を受けさせられている。その結果、将来も貧しい生活から抜け出せず、社会から追いやられてしまう、と同調査は警告している。以下、アムネスティ国際ニュースが伝えるその実態。(大野和興) 
 
アムネスティ・インターナショナルと欧州ロマ権利センターは、その現状を合同で調査し、報告書にまとめた。同国は、EUからEU法違反で罰金が科される可能性があるとの警告を受けたが、状況は一向に改善されず、ロマの子どもは依然として他の子とは別扱いされている。 
 
調査はスロバキア東部の4地域で実施した。ロマの子どもはロマだけのクラスや、特別学級、知的障がい児のためのクラスに押し込められる。そうしたクラスではカリキュラムが貧弱で、将来の仕事も限定されてしまう。さらに、非ロマの親が「ロマの生徒が多すぎる」とわが子を転校させることがよくあり、分離教育に拍車をかけている。「白人の脱出」と呼ばれる転校が多発していることに対して、当局はなんの対応策も打ち出していない。 
 
分離はしばしば、小学校に上がる直前から始まる。就学年齢に達しても、準備不足だと判断され、1年生ではなく就学準備用の「ゼロ年生」に振り分けられるのだ。 
 
◆教育の質の低さ 
 
ロマが受ける教育の質は非常に低いため、17才以降も学校に通う能力のある子どもはほとんどいない。たとえ続けても、選択肢はまず職業学校しかなく、将来の就業の選択肢が非常に限られてしまっている。 
 
調査地域の一つに地元のメーカーが運営する専門学校があったが、その学校で学ぶロマの子どもたちによると、メーカーの電気プラグをひたすら組み立てているという話だった。また、そこの女子生徒は、「実務教育」と称して料理や家事を習い、「良い主婦」になるようにと言われているという。 
 
ロマの子どもは、深く根付いた偏見と蔑視を持つ教師からも、教育の機会を奪われている。ある教師は、勤務する学校を「小さな動物園」と呼んだ。 
 
また別の教師は、ロマは「仲間内でだけ子どもを作る。近親相かんもよくある」と言い、さらに自分の生徒が描く夢を「非現実的」と切り捨ててこう話す。 
 
「誰も彼も教師や医者になりたがる…夢と現実には大きな開きがある」 
 
◆誤った判断 
 
調査では、子どもを特別学級に入れるかどうかを判断する担当者にそもそも偏見があることが分かった。その結果、多くのロマの子どもが誤った判断を受けている。調査したある場所では、ロマの子どもの約3分の1が、中程度の知的障がいがあると診断された。 
 
「息子は、心理分析士に大変優秀と診断されたにもかかわらず、なんの説明もなく特別学校に入れられた」。ある母親はそう語る。父兄の話によると、特別学校の子どもたちはしばしば教科書を家に持って帰ることを禁じられ、宿題も出ないという。子どもの多くはスロバキア語が第2言語で使いこなせず、将来仕事を得るには、極めて不利となる。 
 
◆17歳の息子を持つ父親は、「授業では、絵を描いてばかりだった。これでは学校を出ても、満足にスロバキア語の読み書きや会話ができるわけがない」と嘆く。 
 
アムネスティと欧州ロマ権利委員会は、欧州委員会に対し、スロバキアに裁判の前の最後通牒を突きつけ、EU法に従った政策への変更を迫るように求めている。 
 
≪背景情報≫ 
 
2015年4月、欧州委員会はスロバキアに対しEU差別禁止規定違反の疑いで条約侵害手続に入った。手続きは今も続いており、EU法に従わなければ、重い罰金を科されることになる。 
 
アムネスティ国際ニュース 


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