2017年03月31日13時06分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

アムネスティ日本、共謀罪について声明「テロ対策の名の下、市民を抑圧する法案に反対する」

 アムネスティ・インターナショナル日本は、組織的犯罪処罰法等の一部を改正する法律案、いわゆる共謀罪に強く反対する声明を3月28日に公表した。声明は、同法案は市民を抑圧するおそれがあると、その理由を述べている。(大野和興) 
 
 以下、アムネスティの声明を紹介する。 
 
この法案は、いわゆる「共謀罪」法案として、犯罪の実行を準備した段階で処罰を可能にするものである。国際組織犯罪防止条約(通称パレルモ条約)の批准にむけて国内法を整備するために成立が必要と政府は主張している。しかし、多くの報道機関、弁護士会、研究者や市民団体から、共謀の定義、犯罪集団の定義が曖昧であるため適用範囲が拡大解釈されかねず、健全な市民活動が萎縮すると批判されている。 
 
犯罪の成立には構成要件として実行行為が必要である。しかし、法案では、実行に着手する前の準備行為を「実行準備行為」とし、犯罪の構成要件としている。「計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」(同法案6条の2第1項)と定め、単に私用である場所に訪れた場合や、私物の購入だけでも、準備行為とみなされるおそれがある。条文の定めだけでは何をもって準備行為を特定するのか明確でなく、捜査機関が法を恣意的に運用すれば特定の市民を狙い撃ちにすることが可能となる。 
 
また、共謀の現場を偶然見つけることは不可能に近い。共謀の事実を把握するため、日常的な監視行為が必要となるであろう。盗聴やインターネット経由による情報が集約され、個人のプライバシーはなくなり、警察権力の拡大によって市民活動が委縮し、市民の表現の自由が抑圧されるおそれがある。 
 
さらに、組織的犯罪集団の特定が明確でなければ、個人の表現の自由だけでなく団体の表現や結社の自由にも侵害が生じる危険性がある。そもそも、パレルモ条約は反社会的組織の資金源を断つなど国際的に暗躍する組織犯罪の取り締まりが目的であって、市民団体が対象となることは想定されていない。法案においても、団体として共同の目的が犯罪の実行にあるものが想定されている(同法案6条の2第1項)。これまでの政府の見解によれば、正当な目的で設立された団体であっても、共謀が行われた時点で犯罪を実行する団体へと変容すれば該当するという。 
 
確かに、法を犯す組織集団は取り締まり対象とすべきだ。しかし同法案のもとでは、市民の人権のために政府を批判する人権活動家やそれを支援する団体も、政府の一方的な判断によって組織的犯罪集団とみなされる懸念は拭えない。人権尊重のために立ち上がる市民の活動や、それを支援する団体の活動は、たとえそれが政府への抗議行動であっても表現の自由・結社の自由によって保障されなければならない。 
 
政府に対し、声を上げることが許される社会が、表現の自由を守る健全な民主主義社会の在り方である。パレルモ条約を批准するためという理由でこの「共謀罪」法案が成立すれば、すでに批准している自由権規約第19条の表現の自由や第22条の結社の自由を侵害することにつながると、アムネスティは強く懸念する。本法案が市民を抑圧する道具とならないよう、成立に対し強く反対する。 
 
2017年3月28日 
公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本 


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