2017年04月03日10時38分掲載  無料記事
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シェイクスピア作「ジュリアス・シーザー」 〜独裁政権の誕生前夜を描いた激動の傑作〜

  今、世界では近代の市民社会が壊れかけ、各地で独裁者が再び生まれ始めています。こんな時、英国人は何百年もの間、ある芝居を見てどう自分が振る舞うべきか、考えてきました。それがこの劇、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」です。英国では政治家や外交官を目指す若者は学生時代にシェイクスピアを暗唱できるくらい読むのが伝統でした。わが国でも筆者が学生の頃は政治演説の見本として中学の国語の教科書に掲載されていたものです。 
 
  「ジュリアス・シーザー」は古代ローマ史に材を取っています。ローマ市民の一人だったシーザーが数々の戦績を経て英雄となり、ついに皇帝になろうとします。それは長年ローマ人が保ってきた共和政を廃止し、独裁国家に道を開くものでした。そこで共和政を守るために市民の一団が共謀し、シーザーを暗殺します。彼らはなぜシーザーを暗殺しなくてはならなかったか大衆の前で説明します。ところがシーザーの側近アントニーの機転と優れた演説によって大衆の見方が決定づけられ、暗殺を実行した市民は英雄を殺した憎き犯罪者と位置付けられ、全員殺されてしまうのです。 
 
  劇はローマの街角で始まります。人々が仕事の手を止め、街に繰り出し、凱旋する英雄シーザーを迎えようと出てくるのです。それに対して、市民の中で共和政をよしとするインテリたちが不穏な空気を感じ始めます。独裁国家が生まれる気配でした。 
 
ブルータス「なんだ、あの叫び声は?放ってはおけぬぞ、市民たちはシーザーを王に選ぼうとしているのかもしれぬ」 
 
 キャシアス「・・・だが、少なくともこのおれは、ただいたずらに生きていたいとは思わない、自分と同列の人間を恐れながら生きるのなどはまっぴらだ。おれはシーザー同様、自由な市民として生まれた、きみだってそうだ。おれたちは同じものを食っている、同じ冬の寒さに堪えられる、何もあの男と違いはしない。・・・」 
 
・・・ 
 
  この劇は2000年以上も昔の歴史でありながら、シェイクスピアという世界最高の劇作家によって単に演劇のみならず、時代を超える政治学のテキストにまで昇華されました。去年のトルコのクーデター未遂事件とその後の鎮圧と弾圧をも彷彿とさせます。トルコで実際に何が起きたのか。「ジュリアス・シーザー」とどこまで同じで、どこまで違っていたのかわかりません。とはいえ、独裁者が誕生する前夜を緊迫感を込めて活写しており、それをいかに市民が阻止しようとして、いかに鎮圧されたか。その激動の数日間が描かれています。 
 
 
※参照「ジュリアス・シーザー」(新潮文庫、福田恒存訳) 
 
 
村上良太 
 
 
■中野好夫著 「シェイクスピアの面白さ」  シェイクスピア没後400周年  近代演劇とは何だったのか 
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■アル・パチーノ監督の映画「リチャードを探して」   最良のシェイクスピア入門 
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■「ベニスの商人」 に見る、特定秘密保護法と違憲立法審査 
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