2017年05月03日15時08分掲載  無料記事
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国際

トランプ大統領「適切な状況が整った場合に金正恩氏と会えれば私は光栄だ」

  4月に空母カールビンソンが北上して一触即発か、という報道がなされ、東京では地下鉄が止まる騒ぎも起きた。とはいえ、トランプ大統領はTVインタビューで、適切な状況が整えば北朝鮮の金正恩氏と会見することは光栄である」と語った。これは突然の事態の急変だろうか。 
http://edition.cnn.com/2017/05/01/politics/donald-trump-meet-north-korea-kim-jong-un/ 
CNN”Trump: I'd be 'honored' to meet Kim Jong Un under 'right circumstances'” 
 
  実際のところは前回日刊ベリタで報じたように、アメリカの朝鮮問題のエキスパートがすでにニューヨークタイムズで北朝鮮と交渉するならトランプ政権発足100日の期間が極めて大切で、それを逃すと格段に難しくなる、と予測していた。それを考えればカールビンソン北上情報(これはあとで嘘だったことが判明した)は交渉前のブラッフ(脅し)だったと言える。しかし、ブラッフが機能するためには万一の場合、発動する可能性を残しておくものだ。だから、そこには一触即発の危機もあった。とはいえ、このようなことは世界の歴史を振り返れば常態でもある。 
 
  前回、報じた時の文章を採録しておきたい。 
 
村上良太 
 
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第二次朝鮮戦争の可能性 平和条約交渉か、戦争か 
 
 
  トランプ大統領が原子力空母カール・ビンソンを中心とする米海軍・第1空母打撃群をシンガポールから北朝鮮に向けて北上させていると報じられた。これを巡って、いよいよ金正恩氏が率いる北朝鮮政府を転覆させる作戦か、という見方も出ている。その場合、自衛隊が安保法制適用の最初の事例として米軍の後方支援を行う可能性も出てくるだろう。またその場合は日本の関連自治体も戦時体制に突入し、報道も統制されることになる。 
 
  ところで、今、なぜ北朝鮮なのか。確かにその背後にはトランプ政権の4年間の間に北朝鮮の核ミサイルが米本土を射程に入れてしまうだろう、という見込みがあり、イランの核開発の時と同様のカウントダウンが行われている。しかし、同時に去年、米シンクタンクの北朝鮮ウォッチャー・アナリスト、ジョエルS. ウィット(Joel S.Wit)氏〜ジョンズホプキンス大学にあるU.S.コリア研究所のシニアフェロー〜がニューヨークタイムズに寄稿していた一文も忘れがたい。'How to stop North Korea'という一文である。 
 
  それによると、北朝鮮政府はトランプ政権の最初の100日間を注視しており、この100日間を逃したら、交渉は難しくなるだろうと警告していたことである。今年1月20日に就任したトランプ大統領は現在およそ80日ほどである。あと3週間ほど過ぎると、100日間を越えてしまう。もしジョエルS. ウィット氏の指摘が正確であればこの3週間ほどの間に、アメリカ側から何らかのシグナルが発信されるはずであろう。 
 
  そうみると、今回、米韓軍事演習の最中に第1空母打撃群も派遣したことは北朝鮮に対して心理的な圧力を加えていることを意味し、その上で交渉可能性を探る、という可能性はないのだろうか。北朝鮮側は長年、朝鮮戦争を正式に終わらせるために米国と平和条約を結びたがっていた。米側はその前に核開発の放棄を求め、北朝鮮側は交渉と核開発の放棄は時期を同じくしないと危ない、と考えてきたため平行線をたどってきた。両国の争点は同じであり、最終的に平和条約を結べるかどうか、そのための核開発の放棄はいつどういう形で進めるか、という条件である。表向きはともかく、裏で両政府の要人たちは条件を探ってきたようだ。ベトナム戦争の時のハノイの政府と米国の和平交渉の場合も直前に米側は激しい爆撃を行った。 
 
  トランプ大統領が言ったように、あらゆるカードがあり、交渉が悪い形で決裂した場合は戦闘もありえるかもしれない。その場合は日本や韓国も巻き込まれる可能性が高い。以下に去年、アメリカのシンクタンクのアナリストが寄稿した文章の要点を再掲載したい。 
 
村上良太 
 
 
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北朝鮮の核兵器開発問題 「米新大統領の最初の100日間が北朝鮮との交渉の要になる」 米専門家の提言 
 
 
  北朝鮮が今年に入ってすでに2回核実験を行い、その他、ミサイルテストは17回行ったと書き起こして、この問題をどう考えるべきかニューヨークタイムズ(国際版9月14日付)で提言しているのが、ジョエルS. ウィット(Joel S.Wit)氏〜ジョンズホプキンス大学にあるU.S.コリア研究所のシニアフェロー〜です。興味深い分析と論旨と思われるので、以下、ウィット氏のNYT寄稿テキスト'How to stop North Korea'の論点を記します。 
 
1)2020年までに北朝鮮は核兵器を搭載した大陸間弾道ミサイルで米国を攻撃できるようになる。その開発は加速している 
 
2)中国は北朝鮮の核兵器保有を望んでいないが、朝鮮半島の勢力均衡の見地から北朝鮮をバッファーにしておきたい。経済制裁を課しすぎると政権崩壊などのリスクも増える。そのため、中国は北朝鮮の核問題を究極的には解決できないと見た方がよい 
 
3)北朝鮮の核兵器開発を停止するための長期的な方法は朝鮮戦争の休戦協定を恒久的な平和条約に発展させることである。これについては両国の間にも懐疑派が少なくない。しかし、北朝鮮政府が同国の最高指導者である金正恩氏の支持のもと、今年7月6日に朝鮮半島の非核化を巡る協議を求める書面を米国に送っているのも事実である。その動機として経済封鎖されている限り、経済の立て直しは不可能であると金正恩氏が考えているのではないか。 
 
4)オバマ政権は残りわずかだから、むしろ北朝鮮政府としては次期米政権がどのような対北朝鮮政策を打ち出すかを重視して、注視するだろう。だから新大統領の執務開始から100日間が重要であるが、それを逃すと交渉の機会を失う可能性がある 
 
  ウィット氏の経歴を見れば長期的に北朝鮮と米国の核軍縮交渉を専門に行ってきた専門家であり、その発言には確かさが感じられます。他のテキストと照らし合わせてみるとよく判るのですが、ウィット氏は北朝鮮が何を求めているか、政府高官たちがまたどのような素顔なのかを経験して知っている、米国においては数少ないエキスパートのように思われます。印象深いのはある寄稿で、北朝鮮政府高官たちがキッシンジャー氏に会見した時に大いに敬意を示したことに触れ、米国がキッシンジャー外交のもとで中国政府と国交正常化を実現するまで米メディアでは毛沢東が率いる中国政府はとんでもない独裁政権として常に扱われていた、と書いていることです。 
 
 
■US・Korea institute 
http://uskoreainstitute.org/research/visiting-scholars/joel-wit/ 
 
 
 
■日本メディアの神話  沖縄、南沙諸島、朝鮮戦争をつなぐもの 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201609050947581 
 
 
 
■「朝鮮戦争の終結」を希望  北朝鮮の外交官が米に提案(2011年9月) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201109211542273 
 
 
  「朝鮮戦争を公式に終結させるために平和条約を米国と締結したいと北朝鮮が希望しているという。これは北朝鮮の核兵器開発をめぐる話し合いの場である六か国協議を再開するために、ニューヨーク入りしていた副外務大臣Kim Kye-gwan氏らが米側に伝えたもののようだ。」 


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