2017年05月21日21時48分掲載  無料記事
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政治

日本の官僚は憲法を遵守していない  根本行雄

 首相が憲法を遵守していないから、官僚たちも憲法を遵守しない。文部科学省の官僚たちは国家公務員法で天下り規制が強化された後も、陰で斡旋を続けていただけではなく、発覚を免れるために隠蔽を図っていた。「共謀罪」についての国会審議において、金田勝年法相の答弁を不安視する与党は法務省刑事局長を代役に立てる戦術をとった。責任者であるはずの法相が法案の説明をきちんとすることができない。こういう人物を法務大臣に選んでいることは世界的にもまれであり、とても恥ずかしいことだ。森友学園問題、さらに加計学園問題が、急浮上してきた。これは政官癒着体質の問題だ。いずれにしても、このような問題が起こるのは、主権者である国民をないがしろにしているからだ。 
 
 
 
 「共謀罪」についての国会審議において、金田勝年法相の答弁を不安視する与党は法務省刑事局長を代役に立てる戦術をとった。責任者であるはずの法相が法案の説明をきちんとすることができない。このような事態は、日本の官僚制を象徴するものだ。こういう人物を法務大臣に選んでいることは世界的にもまれであり、とても恥ずかしいことである。ホセ・ヨンパルト先生(元・上智大学名誉教授)は、「日本では問題にされていないが、法律を知らない人を法務大臣にするのは信じられないことです。『政府は無責任だ』ということです。」と批判されていた。 
 
 
 
□ 官僚について 
 
 日本では国会議員は法律をほとんど作っていない。省庁の役人である「官僚」が国会議員になりかわって、法案を作成している。これが現在の日本の法律づくりの現状である。 
 
 憲法15条2項には、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と明記されている。 
 
 憲法は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」(15条1項)と明記している。国会議員、自治体の首長と議員は国民が選挙で選んでいるが、それ以外の大多数の公務員は国民が選ぶ形となっていない。これは奇妙なことだ。これは民主主義を形骸化している要因のひとつである。 
 
 田中秀征(元経済企画庁長官、「新党さきがけ」の代表代行)は、官僚組織を「閣僚を送らず内閣を動かし、議席を占めずに国会を動かし、一貫して国家経営の基軸となってきた最強の政治集団」である(『民権と官権』ダイヤモンド社)と分析している。 
 
 
 
□ 文部科学省の天下り問題 
 
 文部科学省の天下り問題は日本の官僚制の象徴だ。文部科学省の官僚たちは国家公務員法で天下り規制が強化された後も、陰であっせんを続けていただけではなく、発覚を免れるために隠蔽を図っていた。 
 
 天下りの斡旋がなくならない背景には、官僚の独特な組織構造があると言われている。キャリア官僚で事務方トップの事務次官になれるのは通例では同期入省の中で1人だけとされている。ほとんどは40代後半から次々と役所を去り、その結果、「ピラミッド型」と形容される組織になる。そうした出世競争からふるい落とされる官僚の受け皿になるのが天下り先の企業である。天下り先の企業には、当然、メリットがある。業務を所管する中央省庁とのパイプができるということである。 
 
 2017年4月25日の毎日新聞は、下記のような記事を載せている。 
 
 国土交通省からの天下りを受け入れた企業は、その後公共事業に入札した際に落札できる「勝率」が上昇していたとの研究結果を、近畿大などの研究チームが4月24日までにまとめた。国が公表している入札データなどを分析。調査した4年間の平均的な勝率は10・8%だったが、1人受け入れることで0・7ポイント上がる効果があったとしている。中林純・近畿大准教授は「天下りの受け入れが公平性に影響を与えている。市場経済に対する信頼を失わせる恐れがある」としている。 
 
 文部科学省の天下りの背景には、経営難に苦しんでいる私立大学にとっては文部科学省の影響力の大きさがある。補助金を受けやすくするために天下りを受け入れることは容易に推測できることだ。 
 
 
 日本の官僚は、たった一回の試験の合格者だけを特別扱いするエリート支配の構造になっている。これが天下り問題の要因になっている。だから、このシステムを廃止し、多段階での選抜方法を採用すべきだろう。そして、実力主義とすべきだろう。さらに、広く人材を確保するため、中途採用や官民の人材の流動化も大いに促進すべきだろう。 
 
 キャリア組とノンキャリア組の区別をなくし、昇進試験などによって差はつくものの、ほぼ全員が定年まで勤める地方公務員型に近づけるべきだろう。定年まで勤めるのであれば天下り先を用意する必要はないし、退職後の再就職は民間と同じく本人に委ねられることになるからだ。 
 
 
 天下りの背景の根幹には、官僚の許認可権がある。許認可権は、汚職と癒着の温床である。国民が行政権に参加するシステムをつくり、官僚のもつ許認可権を減らし、許認可権の運用を監視し、是正するシステムが必要だ。 
 
 
 
□ 官僚の情報隠し、情報の出し渋り、情報の廃棄処分 
 
 稲田朋美防衛相は2月9日午前の衆院予算委員会で、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊部隊が昨年7月に作成した日報について、電子データが存在すると報告を受けたのが1月27日だったことを明らかにした。防衛省は情報公開請求に対し「廃棄した」と回答した後、一転して保管を認めていた。 
 
 防衛省は14年9月、自衛隊が保険金詐欺容疑で書類送検し、懲戒免職にした自衛官4人の氏名を公表しなかった。 
 
 昨年2月、宮崎県山中の海上自衛隊ヘリコプター墜落事故で3人が死亡した際、防衛省は機長1人の氏名だけを公表し、2人の氏名は明かさなかった。 
 
 
 
 人事院は、中央省庁が職員を懲戒処分する際の発表基準の指針を定めている。「職務に関する行為」「私的行為のうち免職・停職に当たる行為」は、公表しなければならないとするものだ。 
 
 警察職員の大半は地方公務員だが、警察庁はこの人事院指針に基づき、「国民の信頼を確保するため、発表が適当と認められる場合」も加えて公表の指針としている。 
 
 警察の懲戒処分は、免職▽停職▽減給▽戒告の4種類だ。指針に従えば、私的行為については減給以下の場合、公表されないこともある。 
 
 
 昨年の5月、懲戒処分に至らない訓戒や注意を巡り、北海道警が処分理由を記録した公文書を保存していなかったことを毎日新聞(2016年5月30日)は明らかにした。 
 
 地方公務員法に定められた懲戒処分(免職▽停職▽減給▽戒告)に至らない規律違反などについて、道警は内規で「監督上の措置」として訓戒と注意の処分を行っている。 
 
 3月に行った毎日新聞の情報公開請求では、2011〜15年の5年間で計594件の処分が判明。15年には「ひき逃げ行為をし、相手に傷を負わせた」「部外の異性に付きまといなどをした」と法令違反の疑われる不祥事も訓戒にとどまっていることが分かった。 
 
 このため、処分理由を記録した「訓戒書」「注意書」の写しを開示するよう4月に情報公開請求をしようとしたところ、道警は「写しは保存していない」と回答。道警監察官室によると、写しの保存を定めた規定がなく、処分した警察官らに原本を渡し、写しは保存していないという。同室は「開示請求に対応するため、今年4月以降は5年間保存することにした」と説明している。 
 
 警察庁によると、「監督上の措置」は各都道府県警がそれぞれの内部規定で運用しており、警察として統一的なルールは定めていない。ただし、毎日新聞の取材によると、福岡、和歌山両県警は規定を設け、5年間保存しているほか、埼玉県警も規定に基づき1年間保存している。規定のない青森県警が最長3年間にわたって保存しているケースもあった。 
 
 同文書がなければ、処分が適正だったか検証することも不可能。行政の情報公開に詳しいNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「処分を受けた警察官が異議を申し立て、裁判になった場合、同文書が必要になる。なぜ保存していなかったのか理解できない」と指摘している。 
 
 懲戒処分については、処分理由を記した「処分説明書」などがある。警察庁によると、保存に関する統一的なルールはなく、各都道府県警がそれぞれの内部規定で運用している。道警は規定に基づき、処分説明書を5年間保存している。 
 
 
 
 昨年の12月、毎日新聞(2016年12月11日)は「公文書管理 甘い点検」という記事を掲載している。 
 
 
 法令で義務付けられた国の公文書管理状況の自己点検で、国土交通省と文部科学省で管理に不備があったのに「ゼロ」と報告されていたことが分かった。防衛省は2011〜14年度の4年間で5万件、法務省や厚生労働省も数千件単位で不備を見つけて改善している。識者から「ゼロという組織ではチェック機能が働いているのか」と疑問の声が上がっている。 
 
 
 自民党長期政権は、霞が関の政策を、国民多数の意思を反映したものだと錯覚させている。しかし、イギリスでは、政党が総選挙の際に取り組む主要政策を示し、公文書として保管している。政権を担当すれば実行責任を負うことになる。その場限りの公約を排し、民意と無関係に官僚の政策が登場することを防ぐことが肝心だ。役所への要望は、窓口を一本化して受け付け、内容は公表されなければならない。 
 日本の政党、政治家は選挙公約を守らない。そして、そういう政治家のありようを許容している。それは日本の民主主義の質を劣化させている。選挙は当選した政治家に全権を委任しているわけではない。そして、公約を守らない政治家を容認していると、政治は必ず腐敗していくことになる。そういう点では、安倍政権は到達すべくして到達した「政権」であると言えるだろう。 
 
 
 
□ 公文書の廃棄、情報隠し 
 
 公文書管理法という法律がある。年金記録問題など国のずさんな文書管理が問題化したことを受けて衆参とも全会一致で成立し、2011年4月に施行されたものである。この法律は、公文書を「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置づけており、各省庁に首相への報告を義務付けている。管理がずさんだと、国民から情報公開請求があっても必要な文書を探せなくなるからだ。 
 
 公文書管理法に基づいて定められた政府のガイドラインには、文書の具体例と最長30年の保存期間が示されている。各省庁はこれを踏まえて業務内容に合わせた「規則」を作り、それぞれの文書の保存期間(1〜30年)を決めている。保存期間「1年以上」の文書は内閣府のチェックを受けなければ廃棄できないということになっている。 
 
 一方、各省庁が保存期間を「1年未満」と決めた文書は、公文書管理法上の「軽微なもの」として扱われる。財務省が廃棄した森友学園との交渉記録もこれに当たり、省庁の部署の判断だけで処分しても「適切」だと説明することが可能となっているものだ。 
 
 官僚が業務で作成したにもかかわらず、組織的に共有していないとの理由で「私的メモ」として扱い、情報公開の対象にならない形にすることもできる。そうなれば、廃棄することも、隠すことも、そして、保管しておくことも、官僚の裁量次第ということになる。しかし、公文書は、官僚の私有物でも、占有物でもない。主権者である国民の共有財産である。 
 
 官僚による情報隠し、情報の出し渋り、情報の廃棄をみていると、1年未満の文書は基本的にはなくすべきだと思う。1年未満の文書は数量も廃棄量も全く分からない。いくらでも、情報隠し、情報を出し渋り、情報の廃棄をすることができるからだ。 
 
 安全保障に関する情報などを厳重に管理する「特定秘密」でも、文書の保管や廃棄が課題になっている。 
 特定秘密は文書単位ではなく、「北方領土問題に関する情報」というように一連の情報をまとめた形で指定されるのだそうだ。5年ごとに指定を更新し、30年まで(一部は60年まで)延長することが可能である。一方、特定秘密を記録したそれぞれの文書は、通常の文書と同様に1年から30年の保存期間が設けられている。秘密の指定期間と文書の保存期間は一致しないため、多くの文書は秘密指定されたまま保存期間が切れることになる。そして、闇から闇へと葬り去れてしまうことになるのだ。 
 
 
 
 情報の管理は、情報公開に通じている。情報の公開によって、課題がどのように検討され、そして、政策化されたのか、その過程が十分に透明化されていることが民主主義には必要不可欠の条件である。民主主義とは主権者である国民が権力の運用を監視し、権力の乱用を防止するためのシステムであるからだ。 
 安倍政権は、武器輸出三原則を緩和(14年4月)し、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法(安保法制)を制定(16年3月施行)し、沖縄・辺野古新基地の建設(4月25日埋め立ての強行)し、組織犯罪処罰法改正案(共謀法)を成立させようとしている。これは治安維持を目的とする「官」による政治統制を是とする考え方だ。それは民主主義、立憲主義とは矛盾するものだ。 
 安倍政権は情報を恣意的に管理し、政治的統制をさらに強化しようとしている。そして、さらに、国民の頭の中までも統制しようとしている。それが「共謀法」の本質だ。特定の政党が3分の2以上の議席を握ることとの危険性と最悪性とを安倍政権はわたしたち国民に、これでもか、これでもかと見せ付けている。目をそらさずに、目をくもらされずに、しっかりと見つめていこう。二度と、安倍政権のような時代を作らせないようにしていかなければならない。 


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