2017年06月05日03時22分掲載  無料記事
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国際

パリ  難民排斥的な記事を書いたパリジャン紙に対する抗議集会  ラシャぺル広場 

  パリ市の北東部に位置する19区、地下鉄のスターリングラード駅やジョレス駅周辺には昨年、難民キャンプが作られた地域だ。ソマリア、アフガニスタン、南スーダン、シリアなどからやってきた難民たちがここにテントを張って暮らしていた。昨年11月にパリ市当局から撤去を求められ、キャンプは解体された。しかし、今もこの周辺に難民が100人以上滞在しているようだ。行政当局は各地の難民収容施設に彼らを分散したのだったが、そうなってしまったら、なかなか難民認定の手続きにも苦労するし、フランス語のレッスンを受ける機会も得られないから、ということで再びこの地域に戻ってきた一部の人々がいるようである。 
 
  そして、彼らの存在を 〜昨年、英国のBrexit国民投票前の反移民キャンペーンがそうであったように〜フランスの右翼政党の政治家たちが標的にして選挙を有利に運びたい、と思っているフシがある。その一端を垣間見たのが、先述の界隈にあるラシャぺル広場で5月下旬に起きていた出来事だ。ラシャぺル広場に多数の黒人を含む市民が集まり、ある抗議集会を行ったのである。 
 
  筆者が遭遇したのは今しも集会が終わったばかりの頃だったのだが、何をやっていたのか、と主催者に尋ねてみた。主催者はティファーヌ・ガルシアという名前の女性と、ロマン・プルニエという名前の男性である。ガルシアさんが言うには、数日前に、このラシャぺルの広場について、パリジャン紙が「女性が一人で歩けない危険地域」だというルポを書いたのだという。界隈が男ばかりの不穏な地域になり、女性が一人で歩いたらセクシャルハラスメントを受けるため、女性が立ち入れない男性オンリーの地域になっている、という趣旨の記事だった。しかし、ガルシアさんによると、この地域に何十年と暮らしてきた彼女がそのような危険を感じたことは一度もなく、記事はまったくの虚構だというのである。つまりは難民がたむろして住民に危険が及んでおり、厳しい難民対策を政府は取れ、ということへのリードとなる記事であり、「政治的な意図があります」と彼女は答えた。 
 
  筆者もその記事を読んでみた。"Paris : des femmes victimes de harcelement dans les rues du quartier Chapelle-Pajol" ( パリ:シャぺル=パジョル地区の通りでハラスメント被害を受けた女性たち)というタイトルで、さらに見出しにはこう書かれていた。 
 
 ”Des femmes de ce quartier de l'est de Paris se plaignent de ne pas pouvoir se deplacer sans essuyer des remarques et des insultes de la part des hommes. ” 
 
 (パリ東部のこの地域の女性は通りを歩けない、歩けば必ず男たちから何らかの動作や侮辱を浴びせられると訴えている) 
 
  これが見出しで、そのあとに各論的に何人かの年齢層の異なる女性が自分の受けた不快な体験を記者に語る、という記事である。 
http://www.leparisien.fr/paris-75018/harcelement-les-femmes-chassees-des-rues-dans-le-quartier-chapelle-pajol-18-05-2017-6961779.php 
  報じられたのは5月18日で、折しも大統領選を終え、次の国会議員選挙キャンペーンが始まった時である。だから、難民に対してどのような政策をとるか、ということは選挙の争点になる問題である。難民が女性を襲った事件は実際にドイツで起きた。しかし、問題はこのラシャぺル広場で、そうした事態が起きているのかどうか、である。そしてパリジャン紙に書かれているように、女性が独り歩きできないほど危険地帯なのか、ということだ。私はこの広場に足しげく通って観察したわけではないが、主催者の彼女が言っているように女性の姿は普通に目にする地域だ。ガルシアさんやプル二エ氏はこの場所を意図的に美しく描こう、とはしていない。彼らが配布していたチラシにもこの場所には政府の保護を受けることができない人々が多数存在しているため、貧困や不潔な側面もあることは認めている。しかし、だからと言って、男たちが女性に恒常的にハラスメントを行っている地域というのは現実ではない、というのだ。だから、彼らは多くの人たちに、5月25日の夕方(6時から9時まで)実際にラシャぺル広場に来て、現場を見て欲しい、と呼びかけたのだった。そしてガルシアさんはこうも言った。 
 
 「パリジャン紙は男性が女性に性的にハラスメントをここで行っていると書いていますが、私はここでそのような経験をしたことはありません。むしろ、男性によるセクシズムはパリ中いたるところにあふれています。広告の中にも電車の中にもあふれています。」 
 
  抗議集会の中心となった場所には「性差別者(セクシスト)に対する闘いと人種差別主義者(ラシスト)に対する闘いは手を取り合おう」と書かれた紙が置かれていた。マスメディアがセクシズム(性差別主義)と闘っている女性たちをラシズム(人種差別主義)擁護陣営に引き入れようとしていることへの警戒である。 
 
  こうした話を聞いていると、急に広場でざわざわと新しい動きが起きた。何かと思ったら、ボランティアの男たちがフランスパンやヨーグルト、水などの食料品を長くつなげた机の上に並べ始めた。それもものすごいスピードだ。ボランティアは10人くらい。彼らがそろいで着ている服の背にはムスリムの団体であることが記されていた。この界隈では一般市民による難民への支援活動も続けられているが、ムスリムたちも難民のために一肌脱いでいた。たちまちできた列に並んだのは150人から200人ほどの難民たちだった。もしこうした支援がなかったら、と考えると恐ろしいことでもある。あちこちの地下鉄駅の構内には「シリア難民です」と書かれた段ボール紙の小片を持った人々が座っていて、しばしば幼い子供を連れているのだが、彼らは寄附を求めている。 
 
  難民たちの中に一定のイスラム国戦士が紛れ込んでいる、と言った情報や、ドイツでの女性が襲われた事件などの情報さらにはフランス国内でのテロ事件の記憶などが、1つの記事によって容易に呼び起こされるだろう。難民問題は容易ならざるテーマだと思う。とはいえ、ここで彼らが問題視していたのは、新聞が少なくとも1つの広場を巡って彼らが見ている現実とは異なる報道を行った、というそのことにあるのだった。 
 
 
村上良太 


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