2017年06月06日07時58分掲載  無料記事
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欧州

マクロン大統領の行政立法案  フランスの労働法の解体へさらなる弾みか  鍵は11日と18日の国会議員選挙

  フランスでマクロン大統領が就任していよいよその政策が始まろうとしている。まず、フランスの新聞で今、大々的に報じられているのが労働法改正案だ。労働法改正は昨年、国会で紛糾し、労働組合や多くの市民の抗議運動を巻き起こしながらバルス首相らが強硬手段で制定したのだったが、1年後の今、さらなる規制緩和が行われようとしている。 
 
  最初に法案を報じたのはパリジャン紙で、マクロン大統領による行政立法案の9項目のうち、8項目の要点を紹介した。これらはすべて労働法改正に絡んだものだが、マクロン大統領はさらなる規制緩和に向けて動こうとしているようだ。 
 
  記事から主だった法案を見ると、これまで労働法でがっちり決められてきたのを柔軟にして、労働条件は個々の企業経営者と労働者の組織との間で企業内で話し合って決めることを軸にしようとしている。交渉できるものは契約期間、待遇、賃金、健康保険など多岐にわたる。景気の悪いこの時世、労働市場は圧倒的に買い手市場であるから、企業内で話し合いで決める、ということになれば当然ながら決定にあたって経営者側の力が増すのは間違いないだろう。本来は立場の弱い労働者を保護するためのこの法律である。 
 
  さらにこれまでは週35時間労働が基本で、この労働時間を超える場合は残業時間により残業手当に25%と50%の2段階の割り増しを設けていた。これは過剰労働をさせる企業に対する一種のペナルティでもあった。残業には高い賃金を出すことを法的に経営者側に求めていたのだ。そうすることにより、超過勤務を制御できる力になりえた。ところが今回の改正案では今後は労使間の取り決めで残業の割り増しはわずか10%増に留めることができるようになる。 
 
  また、経営者が労働者を解雇した場合に労働者側から訴えられ、解雇に伴う補償金を請求されることが多々あったが(フランスには労働裁判所というのがあり、労使間の調停を行ったり、判決を下したりする)、今後は補償額に上限を設定して経営者が楽に社員を解雇できるようにするものだ。これは過去2回、法律に盛り込もうとしてきたものの強い反対に会って法案を撤回してきたものだが、今回3回目の提案となる。 
 
  さらにこれまで労働の諸条件の交渉の際、労働者全員の意思を投票で決められたのは労組の側だけだった。しかし、今後は労組と経営者との話し合いが妥結しなかった場合でも、経営者側のイニシアチブで労働者全員の意思を投票で問うこともできるようになる。つまり、労組の頭越しに経営者が労働者全員に賛否を問うことができるようになる。これは労組の存在感を縮小させるものだろう。 
 
  他にもいくつかあるが、パリジャン紙によると、こうした規制緩和策をマクロン大統領は5月12日付で発表したようだ。これは先述の通り、昨年、労組や市民の大きな反対を呼んだ労働法解体を一段と押し進めるする内容になっている。そもそも昨年の今時分、マクロン氏は経済大臣で労働法改正に関係する大臣だった。バルス社会党内閣を飛び出した今も、マクロン氏の基本政策にぶれはない。 
 
  実はフランスの労働法改正は欧州連合域内の新自由主義的改革を進めたい欧州連合本部の悲願だった。「労働市場の流動化」と言うキーワードは新自由主義者の理想である。日本では竹中平蔵氏が小泉首相らと組んで推進してきた。欧州連合域内でもギリシアなど各地で労働条件の改革や年金改革が進められ、大きな反対闘争を巻き起こしてきた。司令塔はブリュッセルにある欧州連合本部である。去年、フランスで労働法改正に対する反対闘争が起きたが、これもバルス政権への闘いであると同時に、その背後に潜む欧州連合本部に対する抵抗とも言える。マクロン大統領が提案した大統領による法案(オルドナンス)は議会で承認を得れば法律となる。その意味でも、今月11日と18日に予定される国会議員選挙でどれだけの議席をマクロン大統領の率いる"En Marche!"が確保できるかが1つの鍵となる。 
 
 
■フランス大統領選 先頭に出た男エマニュエル・マクロン氏(元経済相・元金融マン) その経済政策は? 
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