2017年06月13日22時16分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】原子力機構の被曝作業員のプルトニウム「非検出」の発表と 放医研の説明は著しく不自然です  渡辺悦司(市民と科学者の内部被曝問題研究会)

 放射線医学総合研究所は、6月12日の記者会見で「被曝5人の肺からプルトニウムは検出されなかった」と正式に発表しました。今回の原子力研究開発機構での重大被曝事故でも、被曝のもみ消しに向かって、大きな一歩が踏み出されたようです。 
 
 例えば以下の日本経済新聞の報道を見てください。 
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG12HEN_S7A610C1CR8000/ 
 
この発表には「重大な疑義」が残ります。 
 
 まず第1に、プルトニウムと共に微粉塵として放出されたとされるアメリシウムについては、肺内で検出されたことを認めたにもかかわらず、被曝量を公表しなかったことです。 
 以下の朝日新聞の報道を見てください。 
http://www.asahi.com/articles/ASK6D677ZK6DULBJ00Q.html 
 
 しかも、放医研は記者会見で「アメリシウムが検出された人数や数値は『個人情報のため答えられない』とした」と報道されており、検出された被曝量が「微量ではない」ことが示唆されています。 
 
 つまり、プルトニウムから必然的に生じるアメリシウムは、その被曝量を「個人情報」として秘匿する必要がある程度の、相当量の被曝があることは認めながら、同時に放出された本体のプルトニウムについては、「検出できなかった」という放医研の説明は、著しく不自然です。これは、控えめに表現しても「疑惑を生むもの」といわざるをえません。 
 
 というのは、ここで重要なのは、アメリシウムとプルトニウムの比率から、プルトニウムの被曝量は簡単に推計できるからです。原子力機構が公表した、アメリシウムの肺内被曝量は、220ベクレル、プルトニウムの被曝量は2万2000ベクレルでした。つまりアメリシウムとプルトニウムの比は、およそ1対100です。双方の核種とも半減期は極めて長いので、この比は当然数日では変わりません。 
 
 つまり、アメリシウムの肺内被曝量が分かれば、プルトニウムの肺内被曝量は、それを100倍することによって、およそですが、容易に推定できることになります。 
 だから「個人情報」を盾に、検出されたアメリシウムの肺内被曝量を公表しなかったというのは、子供だましのトリックにすぎません。このようなペテンじみた行為を、記者会見できちんと追及できないマスコミもどうかしています。 
 
 第2に、プルトニウムの場合、検出下限値が極めて高い点を無視していることです。同じ12日に原子力機構が発表した資料(「肺モニターによる測定状況について」)では、放医研にある肺モニターのプルトニウム239検出下限値は、5000〜1万ベクレルとされています。他方、ガンマ線を出すアメリシウムの下限値は10ベクレルです。 
https://www.jaea.go.jp/02/press2017/p17061201/s02.pdf 
 
 プルトニウムは、体内飛程が極めて短く、体外からは測定不可能なアルファ線以外には、低エネルギーのX線をわずかしか出しませんので、測定の際の下限が極めて高くなります。 
 ですから、仮に放医研の発表の通りと仮定しても、プルトニウムが、1万ベクレル程度までは、肺内にあっても測定されることができない可能性があるわけです。 
 
 7400ベクレルも肺内にあれば、ビーグル犬に肺がんを生じさせる量になります(タンプリン・コクラン論文)。 
 
 原子力機構は、肺内にとどまるプルトニウムの量を、吸入被曝量全体の6.1%と評価して、全身被曝量を36万ベクレル、実効線量を年間1.2シーベルト、50年間で12シーベルトと計算していました。 
 仮に、今回、1万ベクレルが肺内にあって、測定できなかったと仮定しても、全身では16万ベクレル程度の被曝量になり、年間では550ミリシーベルト程度、2年間で10%致死量、50年間では5.5シーベルト程度の半数致死量を超える被曝量になります。 
 ですから、危険性は、原子力機構の発表とそれほど変わらなくなります。 
 
 第3に、放医研自身の発表でも、半面マスクで覆われていたはずの作業員の「あご」で最大140cpm、「鼻」で22cpmの放射能が観測されていることです。 
http://www.qst.go.jp/Portals/0/pdf/information/press/170606/press170612.pdf 
 
 つまり、鼻腔で24ベクレル検出されたとする原子力機構の測定結果は、ほぼ追認されています。 
 プルトニウムが「肺に入っていない」ということを暗に示唆する今回の放医研の判断が、控えめに表現しても、明らかに「早計である」ことは、このことだけからも明らかです。尿検査や便検査の結果が出る前に、このように「不検出」の判定を行うことは、極めて「怪しげな」ものであり、露骨な「被曝隠し」や「印象操作」を疑わせます。 
 
 第4に、放医研や今回出てきた明石真言執行役が今までに、被曝被害の隠蔽に一貫して努めてきたという「前科」です。 
 原爆被害やビキニ水爆実験による被曝被害での彼らの役割は、すでに批判されています。明石氏は、『Days Japan』(2017年4月号)によれば、2011年9月の国際会議で、「(福島原発事故は)チェルノブイリに比べればまったく大した事故ではなく、将来的にも健康に関する心配は何もない」と発言していました。 
 
 これは、はっきり言ってデマであり、国際的に規定された最大級の「レベル7」の事故の影響を何の根拠も上げずに最初から否定するものです。事故基準INESを規定した国際協定(OECD/ IAEA)をすら冒涜するものであるといわなければなりません。 
 
 前掲の同誌は、このような専門家およそ10人が、日本国民に被曝を受忍させ、健康被害を隠蔽するために共同して(共謀してというべきでしょう)して行動している事実を明らかにしています。 
 
 名前が挙がっているのは、以下の人々です。 
長滝重信 長崎大学名誉教授 
山下俊一 長崎大学副学長・福島県立医大副学長 
高村昇  長崎大学原爆後障害研究所教授 
神谷研二 広島大学副学長・広島県立医大副学長 
柴田義貞 長崎大学客員教授 
丹羽太貫 放影研理事長・京都大学名誉教授 
明石真言 量子科学技術研究開発機構執行役 
佐々木康人 旧放医研元理事長・国際医療福祉大学元副理事長 
鈴木元  国際医療福祉大学クリニック院長 
遠藤啓吾 京都医療科学大学学長 
 
 実際は、もう少し多く、福島第一原発事故による健康被害は「ない」ということを決めた環境省「中間取りまとめ」を作成した人々を以下に引用しておきましょう(☆は上の10人に入っていない人)。(中略) 
 ここでも、長滝座長(亡くなりましたが)の命を受けて「代理」として取りまとめたのは、明石氏でした。 
 
◎ 政府発表でも広島原爆の168発分の長期に影響を与続ける放射性物質(セシウム137)を放出した事故が、何の健康被害も生じないという政府見解を作成した人々は、専門家の仮面をかぶったデマゴーグに等しいと言うほかありません。 
 
 安倍首相は、福島第一原発事故について、「健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くないということははっきりと申し上げておきたいと思います」と発言しています。 
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0907argentine_naigai.html 
 
 これを「忖度して」、あらゆる被曝被害をもみ消している専門家たちは、結局、汚染度の高い地域に住民を帰還させ、国民に放射線被曝を押しつけ、それによって「確率的に」国民を病気にし殺している最悪の政権の「大量殺人政策」に奉仕しているのです。 
 
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◎ 今回の作業員被曝事故は、NHKのニュース解説でさえ認めるように、密閉したグローブボックスを使って作業が行われていれば、最初から起きることのなかったものです。 
 しかも、グローブボックスは、同建屋内に36セットも装備されているのです。つまり、今回の被曝事故は、原子力機構の安全管理の「非常識」とも言えるほどのずさんさが引き起こしたものなのです。 
 
 放医研による明らかにプルトニウム被曝隠しの試みは、福島第一原発事故の健康被害隠しと一体のものであり、原発の再稼働、さらには、同じ事業所内にある高速炉「常陽」の再稼働への障害とならないようにしようという推進勢力の企図を現しています。 
 被曝隠蔽機関としての放医研が果たしてきた犯罪的役割、その中での明石真言氏の果たしている、あらゆる「被曝もみ消し」の張本人としてのとくに犯罪的な働きについて、今後も注目していく必要があります。 
 
※★2.と★6.の新聞情報もご参考に! 


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