2017年06月20日09時54分掲載  無料記事
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欧州

フランス国会議員選挙 「服従しないフランス」 レイラ・シャイビさんはマクロン新党の候補者に敗れる

   社会党から離脱して左翼党を立ち上げ、左派の再編を目指すジャン=リュク・メランション議員のグループは「服従しないフランス」(France Insoumise)と呼ばれ、大統領選の1回目の投票では19%の支持を得た。今回の国会議員選挙ではグループから27議席を輩出したが、当初期待されたほどには伸びなかった。 
 
  前回、日刊ベリタで報じたパリの第10選挙区で「服従しないフランス」から立候補したレイラ・シャイビ(Leila Chaibi)さんは第一回の投票では2位で、決戦投票に進んだが、惜しくも敗れた。対立候補はマクロン大統領が立ち上げた新党Republique En Marche のアンヌ=クリスティーヌ・ラング(Anne-Christine Lang)氏だった。 
 
  このラング氏は現職の社会党の国会議員だった女性で、フランスでの報道によると、教育や子供の問題に強いと言う。パリの地元自治体(13区)で長年、評議員として手弁当で行政に携わったのち、2012年の選挙では社会党の ジャン=マリ・ルグェン(Jean-Marie Le Guen)氏の”Suppleante”(代替候補)として立候補した。この代替候補というのはもし本命の候補が当選した後に内閣入りした場合に、代わりに国会議員になる人を指す。日本の場合、議員内閣制で国会議員であると同時に大臣も兼職できるが、フランスの場合は三権分立の原則に則り、行政府に参画することになれば国会議員を辞職しなくてはならないのだ。そして、ラング氏は2012年に国会議員に選出されたルグェン氏が2014年に社会党のマニュエル・バルス内閣に入ったことに伴い、国会議員になった。つまり、社会党の国会議員歴3年の候補者だったのだ。 
 
  しかし、ラング氏は今年の国会議員選挙を前に、勢いを失った社会党に別れを告げ、風が吹くマクロン氏の新党に移籍したのだった。いったい何人の議員が元共和党、あるいは元社会党議員だったか実数は不明だが、マクロン大統領にとっては政策を進めるためにも国会にできるだけ多くの自分の仲間を参入させる必要があった。マクロン大統領が選出された直後はマクロン新党の国会議員候補者は政治に初参加の弁護士や市民たちである、といった報道がフランスメディアでされていたが、ラング氏のように既存政党から引き抜かれた政治家もいるようだ。だから、社会党が衰退していると言われているが、実態を見ればラング氏のような社会党からの移籍組もいるのである。 
  実際、社会党のマニュエル・バルス前首相自身が「社会党は死んだ」と言って、マクロン氏の新党から国会議員選挙に出馬しようとしたくらいなのだ。ところが意外にもバルス氏の場合は自分の率いる内閣で経済大臣だったマクロン氏から拒絶されたのだった。マクロン氏は自分が立ち上げた新党でバルス氏に親分風を吹かれたくなかったのだろうか。「社会党は死んだ」と言ったマニュエル・バルス氏は今年1月に行われた社会党の大統領選挙予備選に出馬し、ブノワ・アモン氏と決選投票で競った人物なのである。何が言いたいかと言えば沈没しかけた社会党という船から脱出して、新しい船に乗り換えたいと思った人々が少なからずいたであろうことだ。 
 
  今回、ラング氏は決選投票で60.11%の得票率を獲得、シャイビ氏は39.89%だった。また、この選挙区では棄権が51.8%と過半数に及んだことも忘れてはならないだろう。シャイビ氏はプレカリテと呼ばれる雇用の不安定さや、パリの不動産相場の高騰、さらに住宅問題の解決を目指すことを公約に掲げていた。これらはフランスの大きな問題である。しかし、棄権した人々の票を取り込むことができなかったことが敗因だろう。2022年の次期選挙を考えるにあたって、今回の大統領選挙でも国会議員選挙でもかつてない高い棄権率だった事実に真剣に向き合う必要がある。これらの声なき人々はいったい何を望んでいるのか。国会の政治に関心を失った人々を再び政治の場に取り戻すことができるかどうか、これから5年間が問われている。 
 
※Resultats legislatives 2017 Paris - 10e circonscription 
http://www.20minutes.fr/elections/resultats/paris/10-circonscription 
 
村上良太 
 
 
■フランス政治の新しい力  ” La France insoumise ” ( 服従しないフランス) その2 
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