2017年08月12日16時19分掲載  無料記事
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社会

十条の住民120人が、二つの裁判を起こす  東京都内で70年前の道路計画が蘇り、東京オリンピックの2020年までに完成予定って?  樫田秀樹

 なぜか、東京都内で70年前の道路計画が蘇り、なぜか、東京オリンピックの2020年までに完成予定って何の意図がある? それも28カ所。8月1日、北区の十条の住民たちが行政訴訟を起こした。 
 
1.一つが、国を相手取り、国が認めた事業計画の取り消しを求めた行政訴訟。国が認めた事業とは、東京都の「特定整備路線」。 
 
2.もう一つが、東京都が設立認可した、十条駅前の再開発を進める「市街地再開発組合設立認可処分」の取り消しを求めたもの。 
 
「1」は、70年以上も前の終戦直後に策定された道路計画が、なぜか数年前に突然蘇り、なぜか東京オリンピックの2020年までの完成を目指しています。それも東京都内で28カ所。 
 
 しかも、道路の拡幅ではなく、まったくの新設。つまり、道路を造るために、延べ数千人の人たちを立ち退かせ、自然環境も壊すこともやむなしとしているのです。 
 
 東京には3大商店街があります。 
『戸越銀座』『十条銀座』『砂町銀座商店街』 
 
 特定整備路線はこのうちの二つ――『戸越銀座』と『十条銀座』――に大きなダメージを与えます。 
 
 十条銀座では、メインストリートのほんの10メートル脇を並行するように新しい道路(幅20〜30メートル!)が作られるため、商店街の脇道に各店舗が有する倉庫や自宅などがやられます。つまり、倉庫がないまま営業を続けるのは至難の業となる。また、十条銀座はところどころで直角に枝分かれしているのですが、そこに位置する商店も道路計画に直撃される。 
 
 また三大ではないにせよ、十大には入る板橋区の商店街「ハッピーロード大山」も『補助26号線』大きなダメージを受けるようです。 
 
 ともあれ、十条で予定されている特定整備路線の「補助73号線」(890メートル)は十条から数百件を立ち退かせると予測されています。 
 
 8月1日は訴状提出だけですが、初口頭弁論の期日は今後明らかに。 
 
●約束を果たさない小池知事 
 
 訴状提出の後は14時から東京地裁内で記者会見が行われ、それが終わると、十条商店街で報告集会が行われました。 
 原告120人のうち約40人が簡単な自己紹介をしましたが、ほとんどが十条の住民で自分の店や家屋が計画にかかることに不安と怒りを抱いておりました。 
 
 裁判後の司法記者クラブでの記者会見。原告のほとんどは小学校時代からの顔見知り。 
 
 この集会に駆けつけてきたのが、品川区の特定整備路線「補助29号線」(約3.5キロ)ですでに行政訴訟を起こした市民団体のメンバーや、北区赤羽に建設予定の特定整備路線「補助86号線」(1キロ150メートル)の行政訴訟取り消しのために来月提訴する「くらし・環境・歴史遺産を守る86号線住民の会」の代表も来ていました。 
 
●なぜ、戦後すぐの、復興のための道路計画が、街並みがすっかり変わった今復活するのか。なぜ、2020年という東京オリンピックの都市での竣工なのか。 
 
 十条の補助73号線が事業認可されたのは、2015年1月。つまり、舛添要一知事の時代ですが、小池知事のスタンスは? 
 一応、これらの疑問には簡単に書いておきましょう。 
 
★東京都は「東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)」のなかでこれら道路を「特定整備路線」と定め、住宅密集地の延焼を防ぐ防災道路であると位置付ける。だが、北区の住民への説明では「不燃化率は0・8%上がる」程度で、ほとんど効果がないことが明かされています。 
 
 では一体何のための道路なのか? ここで、からんでくるのが、今回のもう一つの訴訟である「2」です。 
 
 これは具体的に何かというと、十条駅前に地上40階建ての巨大ビルを建てる計画。そのために工事用車両がスムーズに出入りできるには広い道路が必要。 
 つまり、十条での開発の本丸はこのビル計画であり、補助73号線はそのための手段だ・・・と住民は訴えるわけです。 
 
 十条では、この73号線、駅前再開発に加え、バス通り(85号線)の拡幅や駅の高架化に伴う側道建設も計画されていて(まだ事業認可されていない)、総工費は847億円。これらの計画で、十条駅周辺では、600軒、2100人が立ち退くことになります。 
 
 これは地域破壊です。 
 だから、住民のなかには、昨年の都知事選で小池百合子候補に期待をした住民が少なくなかったようです。 
 
 たとえば、東京都小金井市の市民団体「はけの自然と文化を守る会」が、昨年の都知事選において知事候補者らにアンケートを送っているが、小池候補はこう回答しているのです。 
 
「地域住民の合意、自然環境への影響という観点で、見直しが必要な路線もあると考えております。地元から強い疑義が提起されている路線を実際に巡視し、地域住民の皆様とも対話し、優先整備路線に位置付けることが不適切だと判断される路線に関しては、大胆に見直しを進めていきたい。前知事が決めたからといって、そのまま踏襲する硬直的な考えは一切もっておりません」 
 
 ところが、小池知事は就任から9カ月を過ぎた今も28の特定整備路線のどこも視察をしていない。都民ファーストの会としても、特定整備路線への対応も見えない。 
 今回の都議選で、都民ファーストの会から、十条銀座のある北区で立候補したのは幹事長である音喜多駿議員。彼は特定整備路線の推進派だ。 
 
 地元から2100人もが立ち退くことよりも、音喜多議員は、彼が考える「住みやすい街」の実現を選んでいる。でも、住みやすい街って、住民自身が熟成させるものではないのか? 
 
(フリージャーナリスト) 


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