2017年08月13日15時23分掲載  無料記事
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中国

偶発事件をこじらせた処理 全ては中国漁船衝突に始まる

 尖閣諸島(中国名:釣魚島)3島の「国有化」から9月で丸5年。領土問題は日中関係のトゲとなり国交正常化以来、最悪の状況が続いてきた。ここにきて「一帯一路」構想への協力を糸口に、ようやく改善に向け双方の呼吸が合い始めた。しかし日本人の中国への印象は「良くない」(「どちらかと言えば」を含む)がここ数年、9割を超える。 
 「言論NPO」世論調査(上参照)によると、その理由は「日本領海を侵犯」(64%)「国際社会での強引な姿勢」(51%)が1,2位を占めた。安倍政権は、国民に浸透した「中国脅威論」を追い風に、集団的自衛権の行使を認める安保法制を急ぎ、改憲への道筋まで描く。軍事予算を毎年二けた増やして空母を保有、尖閣諸島の領海を侵犯する―。こうしたニュースに毎日接すれば「脅威感」はいやでも増幅する。隣国への感情や認識を形成するベースは、メディア報道であろう。 
 我々が抱く「脅威感」は本当に実相を反映しているのか。2010年9月の中国漁船衝突事件を再検証したい。両岸論第16号の論点をより明確にした「差し替え」である。 
 
【軍事侵攻リアルに感じた】 
 ネットメディア「ビジネスインサイダー」にこの5月、日本の「柔らかなナショナリズム」に関する文章を書いたところ、一読者がツイッターで次のように書いた。 
「日本人が良くも悪くもナショナリズムを意識し始めたのは、2010年から。中国船が、尖閣諸島で海上保安庁に対し体当りの攻撃をしかけ、その映像が流出したことがきっかけ。中国からの軍事侵攻をリアルに感じたとき、国防に意識が行くのは当然だろう」。 
 この読者のように「軍事侵攻をリアルに感じた」人が多かったかどうかは分からない。しかし「中国に親しみを感じる」が、内閣府の世論調査(図表下参照)でも、38%から20%まで急落したことを考えると、「中国脅威論」を議論する上で事件と報道の検証は不可欠だろう。この事件がなければ、おそらく2012年の「国有化」もなかったし、日中関係が国交正常化以来最悪の状態に陥ることもなかったはずだ。 
 結論から言うなら、事件は泥酔船長による暴走という偶発事件だった。筆者は複数の日本政府関係者から確認したが、政府も最初から偶発事件という認識を持っていた。にもかかわらず、それを公表しなかった結果、「漁船はスパイ船」などの誤報が独り歩きし「中国は尖閣を奪おうとしている」という脅威論が広がっていく。 
〔岡田充『海峡両岸論 第81号』(2017.08.11発行)〕 
 
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 論文の一部を掲載しています。続きは、以下のリンク(『21世紀中国総研』ウェブサイト内)からご覧ください。http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_83.html 
 
<執筆者プロフィール> 
 
岡田 充(おかだ たかし) 
 
(略歴) 
1972年慶応大学法学部卒業後、共同通信社に入社。 
香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員 
桜美林大非常勤講師、拓殖大客員教授、法政大兼任講師を歴任。 
 
(主要著作) 
『中国と台湾―対立と共存の両岸関係』(講談社現代新書)2003年2月 


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