2017年09月10日23時46分掲載  無料記事
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反戦・平和

「平和の尊さを語りつぐ 絵巻物・スケッチで知るシベリア抑留展」を終えて 下山礼子(山形県村山市)

 今年3月18〜20日、山形県村山市の市民会館において、私の叔父である澤田精之助(1921−85)の絵巻物を、同じ山形の元抑留者・渡邊昭平氏(1927−83)、岐阜の井上馨氏(1912−96)が描いたスケッチや絵画多数とともに展示しました。作者はいずれも故人ですが、過酷な抑留生活の記憶を画文で表現しています。 
 志布隆夫村山市長はじめ会場に足を運んでくださった約270名の方は、展示作品や映画、DVDを熱心にご覧になられました。 
 また、「シベリア抑留者支援・記録センター」代表世話人の有光健さんと元抑留者・林照さん(94歳)を東京からお招きして講演会を行いました。近隣のお元気な元抑留者の方3名も駆けつけ、貴重な抑留体験を話してくださいました。 
 
 展示は3日間で1時間という短期間ではありましたが、シベリア抑留に触れることで「平和の尊さ」を改めて感じていただけたのではないかと思います。 
 澤田の絵巻物「シベリア抑留者の想い出」は、「二度と戦争はしたくない想い」をまえがきで、100の画題と文、あとがき、ポツダム宣言等の参考文献、そして最後を与謝野晶子の「君死にたもうことなかれ」で結び、戦争経験の無い現在の後輩に語りかけるように墨一色で坦々と描いております。 
 私は、画文から過去の戦争に至った歴史を見直し、個人が国家に翻弄されることのない自分の人生をおくるための知恵を学ばなければならないと思いました。 
 
 有光さんの講演タイトル「絵巻物とスケッチで知るシベリア抑留体験―21世紀への教訓」は、澤田が私たちに託した想いであり、私たちに与えられた課題は、そのメッセージを後世に伝えていくことだと思います。その試みとして、澤田の故郷の皆様の協賛・協力の下でささやかな展示会を企画したものでした。 
 
 小学3年の少女から寄せられた展示会の感想文に、「わたしは戦争のことがわからないので勉強になりました…わたしは生きているだけでしあわせだとわかるようになりました」と書いてありました。画文のメッセージが1人の少女の心に届き、自分の命をみつめることができたのではないかと思います。 
 
 30年間書棚にひっそりと眠っていた絵巻物、澤田のその想いに最初に出会ったのは海藤忠男さんでした。海藤さんのご尽力で朝日新聞(2015年8月26日山形版)に紹介され、その記事に注目されたのが山形県新庄市出身で東京在住の西村亮子さんです。お二人の存在があって、東京の九段と今回の村山の展示が実現できました。また那須丈夫さんには冊子編集で最も重要な部分を占める絵巻の複写と翻刻にご尽力いただきました。 
 
 澤田が絵巻物を書き終えたのは64歳で亡くなる前年の1984年頃です。折しも私は芸術の都サンクトぺテルブルグとシベリア鉄道の旅に憧れていました。30年という長い月日を経た今、極寒のシベリアの大地に点在するラーゲリを思い浮かべ、抑留関係の書物に触れることで新たなシベリア鉄道の旅に出ている心境です。 
 毎日新聞が冊子「シベリア抑留者の想い出」を全国版に紹介してくださいました。記事に関心を持ってくださった皆さんとの温かい交流の輪が広がりつつあります。「私たちの世代が語り部となってできることをやっていきましょう」と励ましの言葉をいただきました。 
 澤田は戦争体験も抑留体験も口に出しませんでした。話したくないことではあるが、記憶していることを絵巻物に遺してくれた叔父に「ありがとう」と感謝の気持で一杯です。 
 今後、山形の他の市や町でも展示し、広く多くの方々に観ていただきたいと願っております。展示の様子は3月18日、4月3日の山形放送でも紹介されました。 
 
※ 会場には、渡邊昭平さん(河北町出身)夫人の房さん(寒河江市在住)も車椅子で来場、長女・次女・孫らご家族も故人の作品と対面、鑑賞されました。 
※ 澤田精之助さんの絵巻物はA4版の冊子にして頒布中。1冊700円+送料100円。当センターで取扱中(郵便振替でご送金ください)。 
 
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出典:シベリア抑留者支援・記録センター通信No.17(2017年7月5日発行) 
編集・発行:ソ連による日本人捕虜・抑留被害者支援・記録センター 
URL:http://sdcpis.webnode.jp/ 


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