2017年09月19日00時09分掲載  無料記事
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映画『夜間もやってる保育園』 長時間保育の是非を問う前に見たい映画  笠原真弓

 新宿は、不思議な街。あの新宿通り、職安通りの表通りはともかく、歌舞伎町やちょっと入ったところに小さい飲み屋街がある。子どものころはもちろん、大人になっても路地は一人で歩けない。そんな新宿の喧騒から一歩入った2階建ての住宅の並ぶ一角に、「エイビイシイ保育園」がある。あれは何年前だったか、夜間保育もやっていると聞き、子を持つ親としての関心から当時仕事をしていた婦人雑誌で紹介するために訪ねた。 
 
 一般の保育園では園児のお迎えがすみ、保育士さんたちも帰宅を急ぐ時間になっても、ここの子どもたちの数人は帰らない。朝まで、時には連泊もと園長の片野清美さん。親の愛情は、時間ではなくてどれだけ本気で向き合ったかだと話された。9時過ぎに研究課題に取り組んできた医師のお母さんが、お迎えに来る。飲食店を閉店してからぐっすり眠っている子どもを抱き上げて家路を急ぐお父さん。 
 
 園長は、この仕事を始めたきっかけは九州に子どもを置いてきたことの申し訳なさだと、語って下さった。 
 目の前に映し出される映像は、はち切れそうな子どもや保育士たちと、さまざまな子育ての問題解決に真剣に取り組む、その時と変わらない園の勢だった。 
 
 1日2食を食べる子もいる保育園の食事が、子どもたちの「からだ」と「こころ」、すなわち「いのち」を作っていくからと給食を有機野菜にしている。なんとその有機農家は、私もよく知る、何回も私たちの雑誌に登場した方だった。栄養士も目の前の旬の野菜をどう調理すればいいか、熱心に取り組み、子どもたちは時にその畑を訪ね、収穫も手伝う。 
 
 他に、このところよく聞く落ち着きのない集中力にかける子どもの保育にも、専任者をつけて取り組んでいる。先駆的な他園を保育士たちと訪ね、学んでもいる。さらに保護者の熱意で、学童保育も始めたという。遠くに引っ越した家族が、保育園を訪ねてくる。元園児だった子は棚に触り、引き出しを開け閉めして歩く。それはまるで幼かった自分の記憶を確たるものにするようでもあり、保育園の、母のぬくもり、故郷のぬくもりを確認するようでもあった。 
 
 映画は、他の夜間保育をしている園も訪ね、園長や保育士の想い、問題点も聞いてく。子どもが小さい時に「ただいまといったら、おかえりと言ってくれる普通のママがいい」との言葉を忘れない那覇の保育園の園長、自分の子どもは……と迷いつつも、目の前の子どものためにはここが必要という保育士。 
 
 新宿という場所柄、夜間預けている人はやはり飲食店で働く方も多い。「いいのかな」と思いながら……、「働く」が先で……、「日本で成功する」までは……という親たちの気持ちをしっかりと受け止め、「困ったことがあったらいつでも言ってください」と言い切る園長に親たちは安心して預けるのだろう。だから、ここがあったから2人目を産めたという人もいるのだろう。 
それぞれに課題や問題をかかえる家庭、社会の隙間から漏れる子どもたち、親たちはどうしたらいいのか。すべてが親の責任なのだろうか。夜間保育の質が問われるのだと思う。 
 
 保育園の待機児童問題も解決されていない中で、「女性が輝く社会」をつくりたい行政は、そこにどんなビジョンを描いているのだろうか。 
 
監督:大宮浩一 2017年 111分 
9月30日、ポレポレ東中野で上映後、順次全国展開 
 
(C) 夜間もやってる製作委員会 
http://yakanhoiku-movie.com/index.php 


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