2017年09月20日18時12分掲載  無料記事
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コラム

国会解散を簡単に考える安倍首相  国会議員を選ぶのは国民であり、それを解散する理由は何なのか? 国会解散はガリガリ君を買うのとはわけが違う

  安倍首相が臨時国会が始まって早々に衆院解散をする予定だと報じられ、その理由が税金とか教育とか、国民には今解散する必要があるかどうかまったく理解ができないものばかりである。そして、今回の解散は2014年の解散を思い出させる。あの時も解散の必要はまったくなかった。3年前に筆者が怒りを込めて書いた記事(2014年11月18日)を採録して、思い出してみたい。 
 
 
■安倍首相 「税は議会制民主主義の基礎である」(2014年11月18日) 
 
  安倍首相は今夜のNHKの9時のニュース「ニュースウォッチ9」に生中継で出演し、衆院解散の理由について説明した。その中で最も耳についたのは「税は議会制民主主義の基礎である」という言葉だった。 
 
  安倍首相は消費税率10%への引き上げを1年半後に先送りすることを決め、国民に真意を問うとしているが、多くの国民にとって増税先送りに異論はない。ただ、この放送の中で強調していたのは1年半後にどのような経済情勢であっても必ず10%に引き上げるということであり、だからその真意を今問う、としていることである。国民にとっては今問わなくとも、来年問えば・・・と突っ込みを入れたくなるところである。「1年半後に必ず」という条件を加えなければ解散する理由付けがまったくなくなってしまう。 
 
  だが、それにしても「税は議会制民主主義の基礎である」とわざわざ「議会制民主主義」という言葉を安倍首相は持ち出した。それを言うなら、昨年の今頃、特定秘密保護法について十分な審議をせず、強行採決したことや、憲法という国の根幹にかかわることを閣議で解釈改憲として独断で変えてしまうなど、国会を軽視し、議会制民主主義をこれくらいないがしろにしている首相もいない。むしろ、このような言葉を使うことで議会制民主主義と言う言葉を中身のない空疎なものに貶めたとも言えるだろう。 
 
  なぜ今解散・衆院選挙なのか、と言えば来年になれば支持率が落ち、選挙でますます苦しくなると計算しているからではなかろうか。もし、安倍首相が言っているようにここがアベノミクスの正念場でこれから日本の経済が上昇するのであれば今、選挙を今行うより来年に行う方が支持が上がるはずである。もしアベノミクスが成功すると思うなら今解散する必要はない。 
  さらにまた日本経済が来年復調しているのであれば国民の理解も得やすいだろうから消費税率の審議を今する必要もまったくない。その時になればおのずと明白になっている。だから、安倍首相のこの決断はアベノミクスの失政を国民の責任にしようということ以外に考えられない。来年、どんなに不況になっていても増税を決めたのは国民のみなさんだと言えるようにだ。このように安倍首相の言動はつっこみどころ満載である。それなのに、だ。 
 
  NHKは貴重なインタビューの中で詰めを1つ1つ行うべきだった。台本を捨てて突っ込みを続けるべきだった。国民は聞きたかったのだ、緊張感のある質疑応答を1つでも。それが権力を監視するジャーナリズムの任務である。そこには右も左もない。もしかすると、ニクソンのインタビューを行ったデービッド・フロストの特別番組のように、歴史に残る素晴らしい番組になったかもしれなかったのだから。だが、国民はむしろ旧ソ連の国営放送を見せられたような気がしたに違いない。二階のバルコニーから書記長らが顔を出してみんなが手を叩いている風景だ。 
(2014年の記事はここまで) 
 
▼ところが、2014年の国会解散の大義に掲げた「何があっても 
1年半後に増税する」と言う言葉は簡単に忘却されてしまったのだ。以下は、増税を1年後に予定していた2016年05月27日に筆者が怒りを込めて書いた記事である。 
 
 
■ 「税と議会制民主主義と安倍首相」(2016年05月27日) 
 
 
  安倍首相は2014年9月以後、内閣のスキャンダルに次々と見舞われ政権の支持率が低下してきたのを受けて、突如として衆院を解散して総選挙を行うと宣言しました。その理由として掲げたのは消費税の増税を2015年10月に10%に引き上げることが法律で決まっているが、それを先延ばしして2017年にする。だから、2017年には何があっても必ず上げることでよいかどうか、民意を問うとしたのでした。 
 
  そもそも消費税増税を先延ばしにすること自体に基本的に争点はありようはずもありませんでした。というのもその年の4月1日に消費税が5%から8%へと上がり、景気が冷えついていたからです。普通の庶民なら買い物をするときに、税金の高さを日々感じたはず。 
 
 「高齢化で増え続ける年金や医療などの社会保障費を賄う狙いがある。国民負担は年間で約8兆円重くなる見通し。第一生命経済研究所によると、年収500万〜550万円の4人世帯の場合、年間の負担額が7万1千円増える。消費税率の上げを受け、モノやサービスの価格が1日からほぼ一斉に上がる。コンビニエンスストアは原則、午前0時から新税率を適用。主な鉄道は始発から、タクシーは1日に営業所を出た車から新料金に替える」(日経) 
 
  こうした中、安倍首相は消費税の引き上げ時期を1年半後(2017年)に先延ばしするが、その時は何があっても必ず10%に引き上げるからそんな安倍政権を信任するかどうか、国民に問うとして総選挙に打って出たのです。この時、安倍首相の口から「税は議会制民主主義の基礎である」という珍しい発言までしました。これはNHKのニュースウォッチ9に安倍首相が登場して、衆院を解散する理由について話した時の言葉でした。 
 
  安部首相が2014年の秋に選挙に打って出た理由には最大野党の民主党が選挙の準備がまったくできていないことがありました。この時の12月の衆院選挙の投票率は52.66%で、衆院選挙史上、戦後最低の数字となったのです。というのも増税先送りを争点にした選挙など、意味がないという論調がメディアで取り上げられ、有権者は無意味な選挙だという風に洗脳されていきました。「白票」を投じるのがよい、といった有権者を愚弄するアドバイスまでネット空間で広がっていました。その結果、選挙自体が盛り上がらず、低い投票率となり、組織票を固めた自民党と公明党が大勝することになったのです。 
 
  そして、今回2016年夏の参院選を前に、安倍首相は2017年の消費税の増税を先延ばしにすると言い始めています。理由はリーマンショック級の世界経済の下降状況があるからだ、という説明です。2014年の国会解散の頃は、<何があっても2017年に消費税を増税する方針だが信任するかしないか投票してくれ>と言っていました。首相の言葉がいかにも軽く、有権者をその時々の思惑でいかようにでも誘導できる、と考えていることは明らかです。 
 
  2014年の秋、マスメディアは選挙の無意味さを強調するばかりで、結果的に投票率の低下に貢献したと思います。本来なら、たとえ国会解散の理由が党利党略のための無意味なものであっても、この選挙でそれまで安倍政権が行ってきた特定秘密保護法の強行採決など、民主主義の手続きや憲法を軽視する安倍政治に対して国民が判断を下す大きな機会となりえたはずで、重要な選挙にもなりえたのです。その意味でマスメディアが重要な役割を果しえなかったことは今日のメディアの機能不全を示すものでした。 
 
  あれから2年近くがたち、安倍政権は消費増税を再び先延ばしする方向です。2014年秋に安倍首相はNHKのニュースウォッチ9で「税は議会制民主主義の基礎である」と言っていました。そうであるなら、大企業が節税のためにオフショア市場に法人を設立するタックスヘイブンの問題や、グローバル企業の税金の問題に対処する必要があるのではないでしょうか。 
(2016年の記事はここまで) 
 
▼ 2017年秋の選挙 真の争点は森友・加計問題 
 
  そして、安倍首相は今回も2014年と同様、スキャンダルにまみれている。いや、2014年よりもはるかに深く、しかも今回は安倍首相夫妻を台風の目にしている腐敗の疑惑である。安倍首相は今回も、じりじりと低下する支持率に区切りをつけて、国会での野党の追及を封じ、選挙で禊をする考えであろう。国民はまた騙されるだろうか。もしそうだとしたら、安倍首相の日本国民に対する圧倒的な勝利である。日本を統治してきた人々はこのように強く、このように巧みであり、このように優越しているということを安倍首相は示すことができる。そのような首相はこれまで一人として存在しなかったのだから、選挙に大勝すれば安倍首相は不敗神話を大いに自慢にしてよいのだと思う。今回の選挙で真の争点があるのだとすれば森友・加計問題は民主主義の重要な問題か、些末などうでもよいものか、それを国民が選択する選挙ということになるだろう。 
 
 
村上良太 


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