2017年09月22日14時23分掲載  無料記事
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核・原子力

ドイツはどのようにして脱原発へ舵を切ったか 〜ドイツ脱原発倫理委員会報告を読み解く!  池住義憲

 愛知県日進市にある市民団体「次世代の子どもたちの”いのち・くらし・エネルギー”を考える会」(代表池住義憲)は、先日の9月15日を皮切りに、原発問題に焦点を当てた連続学習会を始めました。来年2月、ドイツ脱原発倫理委員会の主要メンバーであったミランダ・シュラーズさんを招くにあたって、そのための計6回にわたる事前学習です。そのなかには、浜岡原発現地見学ツアーも含まれています。その第1回目学習会の内容要旨です。極力短くし、1,500字ほどに収めてあります。テーマは、『ドイツはどのようにして脱原発へ舵を切ったか 〜ドイツ脱原発倫理委員会報告を読み解く!』。関心ある方、ご一読ください。 
 
*Facebookでは、以下のとおり、それぞれの内容を写真付きで 
 連続投稿してあります。関心ある方、下記URLをクリック下さい。 
https://www.facebook.com/yoshinori.ikezumi 
 
 
 ドイツはどのようにして脱原発へ舵を切ったか。そのポイントは、(1)原発の安全性がどんなに高くても事故は起こる、(2)原発事故が起こったら他のどんなエネルギーよりも危険で取り返しがつかない、(3)原子力より安全なエネルギー源が存在する、この三つ。大変、明解だ! 
 
◆ドイツ脱原発倫理委員会の概要 
 
 正式名称は、「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」。311直後の2011年4月 4日、メルケル首相が設置。同年5月30日に報告書『ドイツのエネルギー大転換〜〜未来のための共同事業』を提出するまでの8週間、活動を行った。政治家・研究者・国連関係者・大学教授・環境問題関係者・キリス教会関係者・企業並びに労組関係者ら17名で構成。このなかには、原子力の専門家と電力会社関係者は一人もいない。理由は、どのようなエネルギーが提供されるべきかは電力会社でなく社会が決めるべきだ、と考えているから。 
 
 任務は、(1)原子力の利用を止めることの倫理的意義とそれに関する諸問題を検討すること、(2)原子力と化石燃料に代わる代替エネルギーを検討すること、そして(3)将来のビジョンを描くこと。 
 
 委員会は、10年以内に原子力エネルギーの利用から撤退すると結論した。報告書を受け取ったメルケル首相は、2020年末までに全ての原発稼働停止を閣議決定して、原子力法を改正。2011年当時18.6%だった再生可能エネルギーの比率を2020年までに35%にする目標を立てる。こうすれば、原発は必要ない。このためにかかるインフラ整備等のコストは「次世代への投資」であり、国全体の経済発展を刺激する大きな要因となる。一時的に国民の負担が増えても、次世代のことを考えて舵を切った。 
 
◆一方、日本は… 
 
 311から3年経った2014年4月、第二次安倍内閣はエネルギー基本計画を閣議決定。原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発再稼働を進める方針を明記した。ドイツとは正反対に、「脱・脱原発路線」「原発回帰路線」に舵を切り変えた。官邸と経済産業省と電力業界関係者が作ると、こうなる。市民の意見は反映されない。 
 
 その2年後の2016年4月、安倍首相はワシントンでの「核安全保障サミット」で演説し、原発の再稼働推進を世界に発信・宣言した。今年8月から、政府は「エネルギー基本計画」の見直しを始め、年度内に結論を出すという。原発の新増設に含みを持たせ、原発依存へ逆戻りを着々と進めている。 
 
◆原発問題の捉え方と私たちの運動の原点 
 
 原発問題は「経済」問題でなく、「倫理」問題として捉えることだ。2014年5月21日福井地裁(樋口英明裁判長)の大飯原発運転差止訴訟判決は、「原子力発電所の稼働は経済活動の自由に属するものであって、憲法上の人格権の中核部分より劣位に置かれるべきである」と裁定した。 
 
 「極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気代の高い低いの問題などとを同列で論じる議論に加わること自体、法的には許されない」と断じた。たとえ原発の運転停止によって経済損失が出るとしても、「これを国富の流失や喪失というべきでない」とし、国富とは「豊かな国土とそこに市民が根を下ろして生活していること」であって、これを取り戻すことができなくなることが「国富の喪失」となる、と指摘した。 
 
 「自然災害と戦争以外で人格権が広範にわたって奪われる事態を招く可能性があるのは、原発事故のほかは想定し難い」とし、だから「大飯原発3、4号機を運転してはならない」と裁定したのである。福井地裁判決は、原発問題に対する私たちの運動の原点となるべきものだと思う。(了) 
 
 


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