2017年10月02日01時04分掲載  無料記事
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コラム

「大統領」 マリーヌ・ルペンが大統領になったら?を描くシミュレーション漫画 

   先ほど、アメリカでハリウッドの脚本家たちが政界のシナリオを書いているのでは?というコラムを書いたのですが、フランスでもそれに似た事が起きています。今年の大統領選で話題になったのが「大統領」というBD(漫画)です。この漫画は白黒で、ドキュメンタリータッチで極右政党である国民戦線党首のマリーヌ・ルペンが大統領になった場合のシミュレーションを描いています。 
 
 新聞等々で大々的に宣伝されたので、どんなものかと実際に手に取ってみたのですが、リベラル派の家族がフランスの政変を時々刻々と見つめている話になっています。この家族には人種の異なるメンバーもいます。そして、マリーヌ・ルペンが選挙選でどう戦うかが描かれ、さらに選挙の結果が刻々と集票されて出てきて、政治評論家や政治家、ジャーナリストたちの言葉が〜これらも全部シミュレーションですが〜一通り並んで出てきます。顔ぶれはフランスのメディアの常連たちで漫画でなければいつものニュースかな、というくらいに自然に描かれています。 
 
  そして、マリーヌ・ルペンが選出されてから内閣を作り、1日目からどのように彼女が政策を実現していくか、閣議の模様から、外遊から、実際のニュースのように次々とありそうなことを実写的な漫画で綴っていくのです。その最大の核は人種問題よりもむしろ、欧州連合からの離脱で、ユーロを離脱したフランスがインフレになり、どんど経済がおかしくなっていく様を描いています。思うに、この漫画の製作者たちの真の意図はこのあたりにあったのではないでしょうか?そして、このユーロ離脱がフランス経済をダメにする、というテーマは極左候補のジャン=リュク・メランション候補にもブレーキになりえたと思われます。極右と極左の大統領候補がともに欧州連合からの離脱あるいはこれまでの条約の抜本的改正を求めていたところから、この漫画が両陣営にダメージを与えた、と思われるのです。実際、パリで大統領選の投票日に何人もの有権者に話を聞いてみると、メランション候補になると、欧州連合から離脱することになるがそれはまずいという声が返って来ました。 
 
 この漫画を紹介することで何が伝えたいか、と言えば、この漫画自体はフィクションであり、もしマリーヌ・ルペン大統領が誕生したとしても、この漫画で描かれている通りに事態が推移するかどうかはわからない(おそらく、その通りにはならないだろう)、ということです。しかし、漫画を描くにあたって、できる限りの情報を集め、マリーヌ・ルペンが大統領になったら、どんなことをするかを想像して描かれた、ということに意味があります。日本でもしばしば新しい候補者が出てきて、少し面白い言動をするとマスメディアがヒーローやヒロインに仕立て上げます。しかし、その政治家の実像についてはメディアは驚くほど何も伝えていません。自分が伝えたいストーリーだけを伝えようとするのです。だからこそ、過去の実績や言動をできる限り集めて、今の社会状況や国際状況の中でどんな未来が起こりうるかをできるだけ具体的に想像する努力は欠かせないと思えるのです。 
 
 
村上良太 


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