2017年10月10日21時31分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201710102131312

検証・メディア

総選挙の報道の在り方について市民団体が各報道機関に申し入れ 合わせて報道の論点についても提示  醍醐 聡

 私たち「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は総選挙公示日に当たり、衆議院総選挙の報道のあり方に関する2つの文書をNHK上田良一会長と木田幸紀放送総局長宛てに提出すると同時に、報道関係団体に上記2つの文書を郵送するとともに、メディア研究者10数名にこれらの文書を送りました。 
 
 提出した文章は以下の二つです。 
 機ネ権者の賢明な判断に資する質量ともに充実した論点解明報道を〜衆議院総選挙にあたっての申し入れ〜 
 供ァ癖姪此2017年衆議院総選挙報道にあたっての主な論点チェック・リスト 
 
 当会は、これまでも国政選挙にあたって、NHKほか報道各機関に気里茲Δ平修憩れを提出してきました。今回も、争点(論点)提示型の報道を3点にまとめて要望しますが、それにとどめず、今回は、当会として、各政党にどのような論点を質してほしいか、どのような論戦を促してほしいかをまとめた「供ァ嶇静澄柄菘澄縫船Д奪・リスト」を作成し、それを申し入れ文書とあわせ、提出したものです。 
 
 このチェック・リストは、大きく、森友学園問題、加計学園問題、憲法・安保法制、北朝鮮問題、辺野古基地新設・オスプレイ配備、原発、在日外国人の人権問題、社会保障の財源問題、税制改革、雇用・働き方改革、という10のテーマに整理し、それぞれのテーマについて、各政党に質されるべきと考えた具体的論点を数項目に分けて列記しました。 
 
【提出した団体】 
・NHK 
編成局編成センター、同報道局政治部、同経済部、同社会部、同国際部、NHK解説委員室、NHK放送文化研究所、日本放送労働組合 
・民放(各報道局) 
TBS,日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビ、日本民間放送連盟 
・BPO 
・言論NPO 
・日本記者クラブ 
・日本外国特派員協会 
 
 
2017年10月10日 
報道機関各位 
有権者の賢明な判断に資する質量ともに充実した論点解明報道を〜衆議院総選挙にあたっての申し入れ〜 
NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ 
共同代表 湯山哲守・醍醐 聰 
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/ 
政府の所信表明演説も各党代表との質疑も省いた異常な冒頭解散によって、9月28日、衆議院が解散され、10月10日告示、11月22日投票日というあわただしい日程の総選挙となりました。有権者が各政党の選挙公約を十分に比較吟味して賢明に参政権を行使するには争点本位の報道が大いに期待されます。 
そこで当会は、今回の衆議院総選挙をめぐる報道について以下のとおり、申し入れを行います。その際、一般的に争点(論点)重視の選挙報道というだけでなく、予想される争点を整理し、それぞれの争点ごとに充実した取材・調査・報道が望まれる論点のチェック・リストをまとめ、別添しました。これらをご参照の上、問題の核心をえぐる報道に留意いただくよう、要望します。 
 
機ナ麁擦砲△燭辰突徊召靴燭の碓嫖澄
 
 (1)形式的公平ではなく、質的公平を基本に据えた報道を 
 選挙報道となると、各党間の公平、特に時間配分の公平が強調されがちです。しかし、重視されなければならないのは、「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が昨年2月7日に公表した意見(「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」)でも指摘した「質的公平」です。つまり、「政策の内容、問題点、候補者の資質への疑問など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、どの政党に対してであれ、どの候補者についてであれ、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという姿勢」を強く要望します。 
 形式的公平にとらわれるあまり、「国民の判断材料となる重要な事実を知りながら、ある候補者や政党に関しては不利になりそうな事実を報道しない、あるいは 政策上の問題点に触れない、逆にある候補者や政党に関してのみ過剰に伝えるなどという姿勢は、公平であるとは言い難い」(同上、BPO意見)ことを銘記されるよう要望します。 
 
 (2)政党が触れない論点でも重要なテーマは独自の調査報道を手掛けること 
 有権者の投票判断に重要な意味を持つ国政上のテーマであっても、政党によっては、自己に不利になるからとか、過去の公約との矛盾が露見するからとかいった動機で、触れようとしない論点が少なくありません。 
 そのような論点を独自のアジェンダ設定で調査し、有権者に伝えることは国民の知る権利に応える報道機関の重要な使命であり、とりわけ、選挙報道に期待されるところです。 
 
 (3)選挙情勢報道ではなく、争点解説報道を 
 選挙期間中の報道では、党首の動静や激戦区の候補者の街頭行動、街の声の紹介に多くの時間が割かれる傾向があります。 
 しかし、こうした細切れの報道では各政党、各候補者の公約や政見を丁寧に伝えることはできず、イメージ選挙、ワンフレーズを独り歩きさせる選挙報道になりがちです。 
 有権者の熟慮の上の投票に資するよう、政策本位、争点本位の充実した報道を要望します。 
 
供ツ敢此取材・報道にあたって取り上げてほしい論点のチェック・リスト 
 
 以上の留意点に基づき、目下、各党が掲げている選挙公約などを参照して、選挙報道にあたって取り上げてほしい論点のチェック・リストを作成しましたので別添します。貴局、貴紙の調査・取材・番組制作にあたって、参考にしていただけましたら幸いです。 
 
 
◆2017年衆議院総選挙報道にあたっての主な論点チェック・リスト 
作成:NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ 
 
(1)森友学園問題  
・国有地の格安売却について政府(佐川前理財局長)は国会で事前に森友側と金額のすり合わせをしたことはないと答弁してきた。しかし、9月以降に報道された録音データによると近畿財務局は森友側と「いくらなら出せるか」、「土地の瑕疵を見つけて価値を下げる方向でシナリオを作る」、「有益費を少し超える金額に近づけるよう作業中」といったやりとりを交わしていたことが明らかになった。 
・こうした録音データが事実とすれば、近畿財務局には国有財産を不当に廉価で処分した背任の疑いがもたれ、佐川氏の国会答弁は虚偽の疑いが濃厚になる。 
・各党は今後、こうした疑惑をどのように解明するのか? 
 
(2)加計学園問題 
・安倍首相は7月25日の国会答弁で、加計学園が獣医学部新設を申請することを知ったのは今年1月20日と発言したが、その信憑性に疑問が投げ掛けられている。この点を今後、どのように解明していくのか? 
・加計学園が申請している獣医学部は新しい教育分野として「ライフサイエンス」を挙げている。しかし、他大学の既設の獣医系学部(大阪府立大学、京都産業大学など)では、モデルカリキュラムに基づいて、すでに優れたライフサインス教育を実施しており、加計学園の申請が閣議決定の四条件の一つ(既存の大学・学部では対応困難な場合)に該当しない可能性がある。各党は今後、この点をどのように究明していくのか? 
・加計学園が積算した獣医学部新設に係る建築費は、最近開設された獣医学系 
学部の建築費と比べ、単価が異常に高いとの指摘がある。こうした指摘にど 
う応えていくのか? 
 
(3)憲法・安保法制 
・9条に自衛隊の存在明記を追加する改憲論がある一方、そうした改憲は戦力不保持を定めた9条1項、2項を骨抜きにするものという批判がある。また、9条加憲論は自衛隊の災害救助活動と武力行使を伴う活動を混同した議論と思えるが、両者を区別せず、改憲の是非を議論してよいのか? 
・9条に3項を追加すると自衛隊の武力行使(集団的自衛権発動)が専守防衛の国是を越えて際限なく拡大する恐れがあるとの懸念が指摘されている。こうした懸念を、どうように考えるか? 
・自民党以外の政党の中でも、9条も排除せず幅広く改憲の議論をする、と公約を掲げる政党があるが、では、9条をどのように見直そうとするのか、自民党の改憲論とどこが違うのか、同じになるのか、踏み込んだ論戦を促す必要がある。 
・「教育の無償化」を改憲項目に挙げる政党があるが、憲法改定によらなければできないことなのか? 
・義務化を伴わない無償化は教育格差をかえって拡大するという指摘がある。家庭の所得格差に連鎖した就学機会の格差をどのように解消するのか? 
 
(4)北朝鮮問題 
・安倍晋三首相は9月20日、国連総会で行った一般討論演説で、「対話とは、北朝鮮にとって、われわれを欺き、時間を稼ぐための最良の手段だった」、「必要なのは、対話ではない。圧力だ」、「『全ての選択肢はテーブルの上にある』とする米国の立場を一貫して支持する」と発言した。 
 各党はこうした安倍首相の対話無力論、軍事行動を排除しない米国への協調姿勢を支持するのか、しないのか? 
・安倍首相は「国民の生命、財産を守るのが私の任務」と繰り返し発言してきた。しかし、米朝が相互に挑発し合う言動を繰り返し、万一、核弾頭ミサイル攻撃を応酬しあう事態となって、北朝鮮がソウルと東京を標的にした攻撃を起こした場合、40〜200万人の犠牲者が出るという試算がある(米国ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の北朝鮮監視プロジェクト・レポート) 
 安倍首相の上記のような国連演説はむしろ内外の国民の生命、財産を危険にさらす言動と思えるが、各党は安倍演説を支持するのか、批判するのか? 
・安倍政権は北朝鮮の核開発を非難する一方、核不拡散条約の交渉に参加することさえ拒んできた。こうした安倍政権の核に関する姿勢を各党は支持するのか、しないのか? 
 
(5)辺野古基地新設・オスプレイ配備 
・安倍政権は米国の要請を受け入れ、事故が続発するオスプレイを各地に配備する計画を容認している。各党はこうした日本政府の対応を支持するのか、しないのか? 
・沖縄をはじめ、基地あるが故の危険、事故の続発の根源にある日米地位協定を「運用改善」で解決できるのか、抜本的見直しに踏み込んで米国と交渉する意思はあるのか? 
・国が埋め立て工事を進めている辺野古側海域で、環境省が定める絶滅危惧2類のサンゴ14群体のうち13群体がすでに死滅していることがわかった。翁長知事は県漁業調整規則に基づく特別採捕許可権を行使して、辺野古基地建設作業の中止を求める構えを見せている。各党はこうした沖縄県の姿勢にどう対応するのか? 
 
(6)原発 
・原発維持、当面維持を唱える政党は、使用済み核燃料の収容能力が限界に近づき、核燃料リサイクル事業が破綻した現実を踏まえ、今後も増え続ける使用済み核燃料の貯蔵・処理をどのように描いているのか? 
・2030年までに原発ゼロを公約に掲げる政党があるが、当面の再稼働の可否についてどのように公約するのか? その間、稼働期限が満了する原発の稼働期間延長を認めるのか、認めないのか? 
・原発の即時廃止、早期ゼロを公約に掲げる政党があるが、代替電源として掲げる自然エネルギーの普及を図る具体策は?(電力の地産地消、自家消費の奨励策など) 
 
(7)在日外国人の人権問題 
・希望の党は「在日外国人の地方参政権に反対」を党公認の条件に掲げたが、その後に発表された公約ではこの主張は消えた。最高裁は1995年、憲法は永住外国人に参政権を与えることを禁じていないと判断したが、法制化の審議は進んでいない。各党は参政権の法制化を支持するのか、しないのか、問いかけが必要である。 
・在日朝鮮人学校への教育無償化適用については地裁段階で判断が分かれているが、政府関係者は公式には無償化の可否と政治・外交問題を切り離すと言いつつ、拉致問題や北朝鮮、朝鮮総連とのつながりを無償化問題に絡める発言を繰り返してきた。 
 各党は「平等に教育を受ける子どもの権利」に照らしても朝鮮学校への無償化の適用を除外すべきと考えるのか、それとも除外は不当と考えるのか、それぞれ根拠を示した論戦を促す必要がある。 
 
(8)社会保障の財源 
・主たる財源として消費税を想定する自民・公明両党は予定通り2019年10月から税率を10%に引き上げると公約するのか? 引き上げ延期もありとするなら、延期/予定通り実施を判断する基準は何か? 
・消費税増税の「凍結」を唱える政党があるが、「凍結」を解除する基準は何か? 
・消費税増税の中止、凍結を公約に掲げる政党は消費税に依存しないどのような財源(確保できる税収額、必要な税制改正も含め)を具体的に考えているのか? 
・安倍政権・自民党はこれまで消費税収の一部を国債の償還に充ててきたのを子育て支援に回すよう使途を変更すると公約している。では、財源に穴が開く国債償還を今後、どのような財源で賄うのか? 
・安倍政権・自民党は消費税の使途変更を「全世代型社会保障」への転換と説明している。その背景には「若年世代の負担で高齢世代は恩恵を得ている」という世代間の対立図式があるが、年金、介護、相続、家族内の育児・子育て支援、教育費負担、相続といった総体としての世代間の所得移転を見た時、指摘されるような世代間の不公平は実在するのか? 
・若年世代の貧困は高齢世代の過重な扶養費負担に起因するのか? そうではなく、新卒の時点から奨学金の返済延滞を抱え、4割が低賃金の非正規で就労し、違法な時間外労働を強制されているといった現実が若年世代の貧困の最大の原因ではないか? 各党はこうした現実を解消するためのどのような政策を公約するのか? 
 
(9)税制改革 
・安倍政権は企業の設備投資の増大による雇用拡大・景気回復といった経済の 
好循環誘導、日本の立地競争力の強化を理由に挙げて法人税率の引き下げを実施してきた。しかし、その間も企業の生産活動の海外移転は止まらず、減税分の多くは内部留保と配当に充てられ、雇用も従業員給与も横ばいか微増にとどまった。こうした事実に照らし、これまでの法人税率引き下げを見直す必要はないのか、今後、さらなる法人税率の引き下げを図るのか? 
・そもそも論として、法人税負担の高低、その国際比較を実効税率だけで測っ 
てよいのか? 税率×課税ベースで測るのが税財政の定説ではないのか? 
・国税庁統計によると課税所得に対する税負担額の割合は既に10%台前半まで 
下がっている。こうした事実を踏まえ、安倍政権下で行われてきた法人税率の引き下げを見直す必要性はないのか? 
・安倍政権下で累次行われてきた法人税率の引き下げ等により、企業の内部留 
 保利益が388兆円に達する状況(2017年6月現在。金融保険業を除く全産業・全規模合計)になっている。この内部留保の活用策として賃上げなど労働分配の改善に充てる案や内部留保税を創設する案などが提起されている。それぞれの実行可能性、分配の公平に対する実効性などを踏まえ、各党は増加し続ける企業の内部留保をどのように活用すべきと考えるか? 
 
(10)雇用・働き方改革 
・政府が国会に提出した「働き方改革」法案を各党はどう評価するのか? 過 
労死の根絶に向けた実効性のある取組みと見るのか? 逆に、過労死ライ 
ンまでの長時間労働を正当化する法案と見るのか? 
・過労死、長時間労働、「サービス残業」を根絶するために各党はどのような実効性のある具体策を提言するか? 
・安倍首相は安倍政権下で雇用は増えたというが、第二次安倍政権発足の翌月(2013年1月)から直近の2017年8月までの雇用者数の推移をみると、全体で268万人増えたが、正規雇用者の増加は78万人にとどまり、多く(227万人は非正規雇用である(「一般職業紹介状況」月次より)。 
 また、有効求人数は197.2万人から266.1万人へと68.9万人増加しているが、実際の就職件数は1.4万人減少している(14.4万人→13.0万人)。 
さらに、安倍首相は、しばしば、有効求人倍率が1.5を超えたことを雇用情勢好転の指標として挙げているが、2017年8月期で言うと、有効求人数は270.4万人であるのに対し、実際の就職件数は14.4万人(8.1%)にとどまっている。また、企業の実際の採用率(有効求人数に対する就職件数の割合)は5.3%にとどまっている(「労働力調査」より)。これは、求人はあくまで企業の予定であり、実際の採用はそれとは乖離している実態を示している。 
 いわゆる「アベノミックス」の成果を評価したり、働き方改革を検討したりする時には、こうした雇用実態を踏まえた議論が必要ではないか? 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。